#34 アレックスの思いとプリヤの目論見
ユニカが盗賊を仕留めたところで貴賓席にタツミ兵がなだれ込んできた。
タツミの兵は左の肩当に紋章が入っているのでわかる。ユニカとタツミ家のデカーンが倒した賊を担架に乗せて運び出し、数人は扉の近くに残った。
「3階通路の安全が確認出来るまでしばらくここでお待ちください。」
ドナルド・タツミ殿からそう言われ待つこととなった。
「新しいお茶を淹れてくれるかな?」
シモーネ・ケンドリック殿がメイドに指示している。落ち着いているな。さすが、伝説で伝わる勇者と共に活躍した一族の当主だ。
私はドナルド殿からこの話を聞いて「面白そうだ」とすぐに乗ったが、シモーネ殿は冷静に聞いてから同意した。シモーネ殿は、普段の会話もあまり自発的な発言は無いが自分の意見は主張してくる。私やドナルド殿とは違うタイプだが領主として優秀だろうことはわかった。
先ほども冷静に、マルティーノに言い聞かせていたな。
渡り廊下の安全が確認され、タツミ邸に戻ってそれぞれの部屋に分かれた。
ディーシャは寝室で夕食まで休ませることにして、妻のプリヤとニールの3人でお茶を飲んだ。
「いやぁ、わたしだけ慌ててしまって面目ない。作戦は知っていたしほとんどドナルド殿から聞いた通りに賊を制圧したから、わたしだけ悪目立ちしたと反省しています。
。。。実は今回の交渉、自分事で申しますと反省の連続です。
父の仕事を見聞きして知ったつもりでしたが自分が未知の海外へ行くとなると不安が大きかったのですよ。船は沈まないのか、相手国で逃げられない状況になってから条件を変えてこないか、我々は安全なのか。ここに来る船でもあまり眠れませんでした。
しかし船に乗ってみれば大型船は揺れないし、こちらについても『我が国でマネ出来るか』と思わせるほどの好待遇、わたしたちのメイドにメイドがついて世話をする姿には笑いましたよ。
アレックス殿とドナルド殿は、互いの王に提出する書類には私たち外交官の手柄とわかる記述を残してくれる。エイバラーン王国のコバックス侯爵など交渉相手の私にアドバイスをくれる。あちらの外交官がコバックス侯爵で良かった。
我が王と父へ報告するまで仕事は終わりませんが、毎日が反省と感謝の連続で忙しいくらいです。」
ニールは一気に言って、お茶を飲んでから微笑んだ。
「過度な緊張や警戒はかえって失敗するから今の思いで良いのだよ、ニール。私は油断しない程度には楽しんでいるよ。」
今回できる交渉は終わっていて、今はベサイブで文官たちが書類を作っているがもう出来ている頃だろう。3~4日で出来ると言われたので、文官たちは少なくとも2~3日の休みを取れるはずだ。
私の残る仕事はベサイブに戻って船で国に帰る前に、ディーシャの待遇を確認する事だけだ。
それから帰りの船で王への報告手順を詰めようなどと話したあとニールが切り出した。
「先ほどのユニカ殿の働きは素晴らしかった。タツミ家の護衛とも息の合った立ち回りでしたね。」
「ニール殿もそう思われましたか。」
話に入って来た妻の目が光っている。
「ユニカはディーシャの護衛としてベルンハルトくんの護衛であるデカーンとは長い時間一緒なのだ。子どもたちに教える流れで剣や魔法の使い方や緊急時の立ち回り方も打ち合わせしていると言っていたからな。その成果が出たのだろう?」
妻プリヤよ、きみはユニカと私の護衛であるドーリとくっ付けたかったのではなかったのか?
そう思っていると、プリヤがニールに向き直った。
「ニール殿、実は娘のディーシャが私たちが帰国した後も文官たちとベサイブに残りたいと言い出したのです。タツミ家との調整は野盗の件が終わってから、ということでしたので明日にでも詳細を詰める予定です。ニール殿にご迷惑が掛からないようにします。
ディーシャと一緒に護衛のユニカも残る意思の確認はしましたので、これから数カ月は一緒に行動するデカーンとの相性を知りたいのはユニカに対する親心のようなものですよ。」
そうか?プリヤ、絶対楽しんでるだろ。
「そうでしたか。ベルンハルトくんの護衛は前に出なくていつも静かに後ろで控えているイメージでしたね。先ほどの討伐時の動きには「さすが」と思いました。」
そうなんだよ。ドナルド殿の信頼を持って実子の護衛についているんだ。優秀なんだろうが、いつも後ろで控えて話さない。ユニカとは真逆だ。ユニカは自分が気になるとディーシャを差し置いて質問したりするからな。
「やっぱり腕は良いのですね。」
「デカーンはあくまでも護衛の一人だぞ、そんなに気になるか?」
「これからタツミ家とのお付き合いはより長く、深くなるのでしょう?せっかくディーシャとベルンハルトくんが仲良くなったのです。そちらもそうですが、ユニカの縁も本人が望むものならナーバダ公爵家として後押しするのは当たり前ではありませんか。デカーンは家名を聞いていないので平民だとは思いますが二人が望めば私がユニカの家を説得しますよ。」
妻がもっともらしいことを言っているが、楽しんでいる、絶対に。
「ん?『そちらもそう』とは、まさかディーシャとベルンハルトくんの将来のことも考えているのか?」
妻よ、さすがに気が逸り過ぎではないか?
「考えていますよ。タツミ家は辺境伯ですが、家の実力に問題はありません。むしろ二人がその気になれば、下手な王族に嫁ぐよりも当家と国のためにもなりますよ。ニール殿はこの話がハッキリするまで誰にも言わないでください。御父上にもです、宜しいですね?」
プリヤに気おされたニールが「は、はい」とビビリながら答えた。
私も冷静なフリをしているけど、パニックなんですけど?プリヤさん。
ストック無しでここまで投稿しましたが、そろそろペースが落ちる予感です。




