#33 野盗、襲来
「敵襲~!」
ついに来た。父上とベルヴェルート叔父さんから「野盗を討伐する、ベルンハルトも立ち会え」と言われてた。まあいいけどさ。前に出ろ、とかお前がやれ、とか言われたんじゃあ無いし。
近くで「ガタッ」と音がしたから見るとニールさんが椅子に座りなおしてる。そうだよね、大人の貴族が知っててもあわてるんだ。子どものぼくがビビっても何の問題も無い。妹のマリサは母上を見上げて「なんでしょう?」とか言ってる。まだ声と音だけで見えてないし、マリサは知らされてないけどすごいな。
むしろマルティーノは手をぎゅっと握って固まってる。ぼくも周りから見たらあんな感じなのかな。
ディーシャは?あ、こっち見た。ちょっと不安そうな顔をしてるな、ぼくが笑っておこう。変な笑顔になっていないか不安だったけどディーシャも笑顔を返してくれた、良かった。
だんだん音が真下から前の方に移動してるな。
劇場の中の壁、床、天井は火がつかない加工がしてあるし、タツミ家の兵が戦いやすいように1階の客席は全部撤去してある。「1階の客席側から入ってくれば予定通り」って聞いてたから、作戦通りに兵が引き込んだはずだ。危なかったら父上が3階通路側に逃げる指示をする、って言ってた。
でもなー、なんか不安なんだよなー。
この前、移動中に現れた野盗だって「みんなの予想外」なんだよなー。冷静で親分肌な父上や兄上と違ってぼくはビビリだからなー。作戦にハマらない何かが起きても別に不思議でもないんだよ。
あ、舞台袖から誰か出てきた。
演者でも兵でもなさそうだから野盗かな。誰も追って来ないな、気づいてないの?振りかぶって何か投げようとしてるよ、危ないじゃんか。洗濯しよう、あの距離なら出来る。
とりあえず、怪しい男の頭を中心に50センチメートルの水球を作って高速回転させた。男が慌てて動いたから、頭から水球がズレないように1メートルにサイズを上げて水球を回し続けたら、男は電池が切れたように倒れた。
男が倒れる直前、ベルヴェルート叔父さんが舞台袖に走って現れたけどぼくの水球を見て立ち止まり、男が倒れてからゆっくり近づいて男を見下ろした。戦闘不能状態を確認してからぼくを「お前、やったな」って目で見てきたので首を少し傾けてトボけておいた。水球は蒸発させた。
いや、だって叔父さんが遅れたんじゃんか。
ぼくは悪くない。むしろ感謝して欲しい。ぼくは余計なことはしたくない、目立ちたくないのに。あ、そうか。叔父さんがやったことにすればいいんだ。と思っていたのにマルティーノが
「すごいぞ!ベルンハルト!」
なんて叫ぶものだから。貴賓席の全員がぼくに注目しちゃったよ、やめてください、見ないで、恥ずかしい。父上、母上、マリサ、ニヤニヤ顔でぼくを見るな。って、父上こそホストなんだから先に動くべきだよ、働け。
『あんなに遠くに水球を出す』のは隠しておきたかったんだよな。普通は自分のそばでしか魔法は発現できないからね。
気を取り直そう。まだ安全ではない、恥ずかしいけど下を向くわけには行かない。そう思って正面を見てるけど自分の顔が熱い。きっと顔は真っ赤だよ。我らがタツミの兵たちよ、早く騒動を収めておくれ。
両方の舞台袖から一人ずつ出てきて舞台中央にいる叔父さんに向け、剣をふり被り走った。
叔父さんはどう対応するのか見ていると、またマルティーノが叫んだ。
「先生!危ない!」
立ち上がったマルティーノは舞台に向けてウィンドカッターもどきの武骨な空気の塊を飛ばす。二人の賊はすでに叔父さんが賊の足元に作った空気の壁でつまづいて転んでいる上に、ウィンドカッターもどきは賊ではなく叔父さんに向けて一直線に飛んで行った。
叔父さんは、腰の脇差を居合のように抜きざま魔力を纏わせ『もどき』を切ってから立ち上がりかけた二人の賊を片刃と反対側の、峰の部分での峰打ちで倒した。
「マルティーノ、座っていなさい」
うわぁ、マルティーノの父君、シモーネ様、ゆっくりで1段低くした声がちょーこえーよ。うん、マルティーノ、魔法だけじゃなくていろいろがんばれ。
1階席の剣を打ち合う音が止んだ。「おとなしくしろ!」なんて声が聞こえるから賊の制圧は終わったようだ。そう思った矢先、後ろから『ドン』と大きな音が鳴った。座ったまま振り返ると、劇場側の退路を守っていた護衛が吹き飛ばされて転がっていた。
賊がふたり侵入、した瞬間にデカーンとユニカさんがひとりずつ切り伏せていた。うわあ、少し血が飛んでるよ。1階での騒ぎと違って守る対象の貴族の近くまで侵入されたから切った二人の判断は正しいんだろうけどね。
やっぱり悪者でも獣でも血は見たくないなぁ。タツミ家に生まれたら荒事からは逃れられないらしいから、もっと血を見ないで済む魔法を考えよう。
あ、『前の記憶』と繋がった。思い出したよ。ぼくは前の人生とやらでも自分ではひっそりと生きたいのに何回か揉め事に巻き込まれてるな。
体質?そういう星のもとに生まれたってやつ?いやいや、生まれ変わっているんだよね?これってもう呪われてるんじゃないの?
魔法と魔道具の研究だけして、人の生活が便利になるためだけに生きていたいよ。
投稿がいつもより遅れてしまいました。




