#32 シモーネ・ケンドリックのポーカーフェイス
いい年をしてはしゃぎ過ぎた。
あの剣舞は以前観たことがあった。太鼓と剣の打ち合う音が前よりも合っているな、精進しているのだな、くらいに思っていると5人に増えた。それで速さも増して音も合っていた驚きで、つい興奮してしまった。廻りも私以上に興奮していたので、私の様子が目立たずに済んだ。
驚きは続いた。
その後の演舞も美しかった。その日は短時間での2公演で、それぞれの団長と挨拶を交わしただけなので劇場には1時間くらいしか居なかっただろう。
翌日はトラキラギア連合国で伝わる演奏会だった。これも以前とは違う曲を披露してくれたので楽しめた。知らない楽器もあったな。テンポの遅い曲は少なかったから子供たちも楽しんでいたようだ。
我々をもてなすためにタツミ家が厳選しているのだろうが、大人も子供も充分楽しんでいる。
連れてきた次男のマルティーノも毎日が驚きの連続だろう。
普段は城から出さないので「ベサイブに行く」だけで喜んだが到着すると「ここでも外出できないのか」とつまらなそうな態度に戻った。
しかしベルヴェルート殿から魔法を教わると、よほど楽しかったのか興奮した様子で「早く練習したい」と繰り返した。なかなか魔法の練習をする機会は無いが、劇場での公演も楽しんで観ているようだ。
キーストラの街に到着した初日は時間が遅かったので夕食会のみで終了。
二日目と三日目は劇場で観覧し、四日目は休み。
我々がキーストラの街に滞在するのはあと三日間だ。盗賊どもはまだ現れない。
五日目。
午後は目の錯覚と魔法による「マジック」と言う演目らしい。盗賊どもも気になるが「マジック」は見たことが無いので楽しみでもある。
ドナルド・タツミ殿から「野盗をおびき寄せ罠にはめる。その様子を子どもにも見せるがどうするか」と聞かれたときには驚いた。偶然の遭遇ならまだしも、わざわざ盗賊を討伐する様を子供に見せるとは。ナーグドラ王国のアレックス殿は「面白いな」とすぐに乗った。聞くとアレックス殿のナーバダ公爵家は国の軍を握る家系で幼いころから軍の演習に同行するのだそうだ。
私だけ「マルティーノはまだ幼く危険だ」と言い辛くなった。
マルティーノはまだ子供で幼いところもあるが、8才にしては廻りの子供よりもしっかりしていると思っていた。いや、実際しっかりしている。同じ8才でもベルンハルトとディーシャは少し異常だ。我が国では13~15歳で中学生だが、そこに紛れていてもおかしくないレベルだ。
今のところは仲良くやれているがマルティーノが自信を無くさないか少し心配だった。
しかし、むしろ今だからこそつまらないプライドはへし折られた方がいいかとも思う。ベルンハルトは我が州都の中学に入学するはずで、そこで同級生となったマルティーノが挫けると立ち直るのに時間がかかるかもしれない。
本当は、マルティーノの心配をしている場合ではないのだ。
私は荒事が苦手だ。
もちろん、剣も魔法もそこそこは使えるので学生時代の成績も悪くはなかったが、実戦経験は無いに等しい。我がケンドリック家の軍は弟が統括しているので、私はときどき顔を出して声を掛けるだけだ。
いや、これよく考えると私が普通だ。同行している外交官二人も私も普通の貴族は直接戦闘なんてしないよ。軍人一家のアレックス殿や武闘派のタツミ家がおかしいんだよ。
あの時は2対1で負けたけど、むしろ少数派はあっち。
。。。まあ冷静に、作戦を考えたタツミ家のベルヴェルート殿と兵たち、そしてここにいる護衛を信用するしかないな。勇者様の初代タツミ家から我がケンドリック家は互いに助け合って来たのだ。失敗するような提案に私たちを巻き込むことは無いだろう。
劇場の2階、いつもの貴賓席に到着した。
いつものようにそれぞれのメイドがお茶を用意する。長い廊下を歩いてきたこともあって雑談をしながらしばらくはお茶を楽しんだ。
今まではドナルド・タツミ殿が「そろそろ宜しいですかな」と皆に声をかけてから観客席の照明が少し暗くなる流れなのだが、その前に1階の客席、私たちの真下あたりから何かがぶつかるような大きな音とともに
「敵襲~!」
と叫ぶ声が聞こえた。
き、来たか!
慌てるな、俺。ナーグドラ王国の外交官であるニール殿が「ガタッ」と椅子を揺らしたが、周りの誰もが落ち着いているのを見て椅子に座りなおした。子供たちも慌てていない、いや、何が起こっているかわかっていないのだろう。
護衛が3階の渡り廊下に繋がる扉と2階の劇場内に繋がる扉を少しずつ開けて様子を伺っているが、そちらは問題なさそうなので退路も二方向確保されている。
金属がぶつかり合う音と怒号が真下だけでなく少しずつ前にズレて聞こえてくる。盗賊どもはそれなりの人数で押し込んできたようだ。しかしここはタツミの拠点の1つだ。盗賊ごときが100人集まろうがびくともしないと思うがな。なぜヤツらは来たのかとも思うが、私が怖いと思っている事を絶対に悟られてはならないとも思ったので、少しお茶を飲んでみた。




