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#3 父、帰る

「ベルンハルト様、若殿の船団が見えました。まもなく寄港されます」


「はーい、ありがとう。」


テラスで魔法の本を読んでいると、メイドのアンナから声が掛かった。


父上はまだ領主を継いでいないので、家族以外からは「若殿」と呼ばれている。

タツミ領は、お爺さまが現役の領主だけど居座っているのではなく、むしろお爺さまははやく引退して父上に領主を譲りたい、「やりたいことをさせてくれ」が口癖になりつつある。

父上が、自由に動ける今の立場を手放したくないんだ。


突然、王に謁見しに行ったかと思うと、今度は春の貿易船団に混ざって1カ月以上、留守にするし。


兄上はお爺さまから「お前はああなってはいけないぞ」といつも言われている。

ぼくは次男でよかった。神様、ありがとう。


領主なんてごめんだ。ってか、無理。

お爺さまは流れるように部下に指示し、書類に目を通すと問題点を察知してすぐに解決。

お爺さまは超人だな。


なんて考えながら馬車に乗っていたら港に着いた。


お爺さまに続いてぼく、母上、妹のマリサの順に馬車を降りるとちょうど船に舷梯が取り付けられて

父上が先頭で降りてきた。

タツミ領の「舷梯」は手摺がついて階段状で、船に不慣れでもある程度は安全だ。

地上に降り立った父上はぼくらに目だけで笑いかけて、お客さまの降船を待つ。


まずは武道着のような衣装を纏った男性2人が素早く降りてきて父上の横に立った。

主人の安全確保に護衛が先行して降りてきたっぽいな。

2人ともに肌が黒く、「古い記憶」に照らすとインド系っぽい顔立ちに見えた。


続いて降りてきた、男女と女の子のうちの男性が主賓だろうな。


。。。あの子、かわいいな。

たぶん、ぼくと同じくらいの歳だろう。

顔立ちが整っているから美人さんになりそうだ。

少し揺れる舷梯を慎重に降りているけど、すごく楽しそうに笑ってる。

あんな風に笑っていられたら、幸せに付きまとわれそう。


主賓ファミリーの後ろにもうひとり、貴族風のお客さま。

その後ろから、父上のお目付け役のジョンさん。

続いたのはお客さまの護衛と補佐役やメイドさんが数人。

副艦長のエドワードさんは船内の仕切りで忙しいんだろうな。


あちらの貴族一家ともう一人の貴族、こちらの領主一家だけ挨拶を済ませ、

あちらの従者の皆さまにはお爺さまから一言、


「すまないが、屋敷に行ってからあらためて挨拶させて欲しい。荷降ろしを優先したい」、と。


従者の皆さま、きょとんとハトが豆鉄砲の表情。

貴族ではない従者に挨拶したがる貴族なんてうちくらいだもんな。


「親父殿、馬車は中央広場で待機させてくれ。少し街を散策されたいそうだ」


「そうか?ではご案内しましょう」


父上は船内でリクエストされていたようで、お爺さまもすぐに数人に馬車の移動と警護の指示を出す。


ぼくは妹のマリサと手をつないで歩きだした。

妹曰く、大人より伸長がほぼ同じぼくとがいいらしい。

妹は5才のわりに大きく、ぼくは8才なのに小さいんだ。

タツミ家は代々背が高く身体もガッチリ系が多いのに。


さっきも自己紹介で「妹とは年も離れていて双子ではありません」とわざわざ付け加えた。


さわやかな風が気持ちいいなー、とか思いながら歩いていると、

ディーシャさんが早歩きで近づいてきた。


「あの、さっきはごめんなさい」


ん?何のこと?


「妹さんとは双子じゃない、って言われてびっくりしちゃって。失礼だったかと思って」


ああ、大人はさすが貴族って感じで笑顔のままだったけど、

ディーシャさんだけあからさまに驚いていたもんね。


「気にしてませんよ。妹とは顔も似ていてパッと見で違うのは、ぼくの髪の色が青みがかっているくらいなので。ですからディーシャさんもお気になさらず。」


「ありがとう」


そう言って笑ったディーシャさん、やっぱり笑顔が素敵ですね。

なんて思っていると、ディーシャさんが切り出した。


「わたしね、友だちがいないんです」


何、そのカミングアウト。


「ナーグドラ王国の貴族は10才のお披露目までは親族以外とは会わないのが普通らしいの。

 だから兄と弟、あとは親戚としか遊んだことが無くて。」


「幸せにつきまとわれそう」なんて能天気に思った、さっきのぼくを殴りたい。

誰でもいろいろあるんだね。


「同じ国の中でも違う領主の街に行くと不思議なルールがあったりします。

 タツミ領では貴族と平民の子供で遊ぶこともあるので違いますね。

 そこはむしろウチが異端なんでしょうけど。

 貴族の子供は営利誘拐や、対立貴族の工作とか逆恨みで命が狙われたりする可能性もありますからね。難しいですね。」


あ、マズイ。ディーシャさんが考え込んだような難しい顔になっちゃったよ。


「ここにいる間は、ぼくと妹と友だちになってもらえませんか?な?マリサ」


妹をまきこまなければ、8才にして告白のようでこっぱずかしすぎた。


「ここにいる間じゃないよ、ずっとだよ」


妹はぼくと繋いでいない、反対側の手をディーシャさんに差しだしながらそう言うと、その手を取ったディーシャさんが


「ありがとう、よろしくね」


と答え、3人で笑った。

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