#29 辰巳虎次郎の日記 #3
辰巳虎次郎、30歳 #3
前回の日記、で無く記録の続き。
魔法を見せてもらった。
王家直属の兵の中で攻撃魔法が得意な魔法使いが一通り見せてくれた。
おお!ファンタジー!
そりゃあもうおどろきました。私と瑠海が元居た世界には魔法は無かったから。
但し、もっとおどろいたのが「やってみましょう」と教えられたら私も瑠海も、あっさり出来たことだ。「魔法はイメージです」と教えられ、より具体的に詳細にイメージすると短時間でいろいろな魔法を使えた。少し大きく、と火魔法を使うと火の玉の大きさが軽自動車くらいになったのでそこまでにしておいた。「巨大に」なんてイメージして発動したら、この訓練場が火の海になりそうだったからだ。
それから瑠海といろいろな魔法を試していると、教えてくれていた魔法使いから逆に質問が来た。「なるほど!面白いな!」と言いながら魔法を放っている。聞くと私たちの説明は考えたことが無い発想が多くて一緒に練習するととても楽しいのだそうだ。これからも一緒に練習させて欲しい、と言って来た。彼はていねいに教えてくれるし、こちらの話も素直に聞く。いいヤツっぽい。彼はヴィレリオ・ケンドリックと名乗った。
魔法の練習、剣の練習、食の改善、そして常識のすり合わせ。
この世界にお金はあったが物々交換も多いらしい。こうかはあったがしへいは無かった。私たちは王城の中で生活し、訓練している。外に出なければわからないことの方が多いと思われた。
王国だけど法律はあった。
ただ、法律といってもザル法で突き詰めるとむじゅんが多く、王都内や大きな貴族のモメ事は王が裁き、地方では領主が裁く。村長が決めることも多いらしい。一貫性も無いようだ。
ルイ王子や料理長たち、そして魔法使いのヴィレリオなど、味方と思われる人も増えてはきたがまだ信用は出来なかった。
ある程度の練習を重ねてから王都の外に出た。
ルイ王子とヴィレリオ以外に30人くらいの兵がついて来た。兵は王家に仕えるエリートで、魔法が得意な者と剣が得意な者が半々くらい。
最初にイノシシの魔獣があらわれたときは瑠海が火魔法で一帯を灰にした。まちがって兵がまきこまれなくてホッとした。瑠海は剣を持たなかったが、私は剣もふった。剣に魔法をかけて使うと気にならなかったが、魔法をかけずに剣で熊を切るとその感触でショックを受けた。害獣駆除なのだが、とても悪いことをしているようなイやな感覚がしばらく続いた。
王都の北に日帰りで2日出て、1日休み、1日訓練し、次は東、南、西と訓練の延長で無理せずに王都のまわりの魔獣をたおしていった。毎回、魔獣を倒して王都に戻ると住民からかんげいされた。「勇者様、バンザーイ!」なんてさけぶ人もいて、望んだ環境では無かったけど喜んでくれる多くの人がいるのはうれしかった。
なんて思っていたら、瑠海がストライキをはじめた。
家族や友だちに会いたい、大学に行きたい、バイトしたい、カラオケ行きたい、帰りたい。
街で私たちに手を振る仲が良さそうな家族連れを見たら、急にそう思ってしまったらしい。
私ももちろん帰りたかった。でも、浮かれてもいた。
何でも出来そうな魔法が使えて、一日中、全力で走り続けても疲れ無さそうな持久力、魔獣をたおせば王都の住民が喜んでくれる。それが日常になりかけていたら「帰りたい」と言われて私もその感情が沸いてきた。
二人で1週間くらい王城にこもった。
ところで、私たちの元の世界は1年が365日で1日は24時間、1カ月は28~31日で月によって違う、12カ月で1年と、この世界の1年が360日とは違う。持っていたスマホを隠れて時々見ていたが、1日の長さは同じくらいに思えた。瑠海のスマホは1週間くらい、私のは3日くらいで電池が切れた。
ルイ王子が女性を二人連れてきた。
ファビオラは聖女で24歳、聖魔法が得意。ミレーナはカデーロ公爵家の三女で19歳、剣が得意で魔法が少し使えると紹介された。ルイ王子は、瑠海の気の置けない友人こうほが必要と考えたらしい。
ファビオラもミレーナもいいひとだった。
瑠海も含めた3人は仲良くなって、私はヴィレリオといる時間が長くなった。瑠海との時間が減ったのは悲しかったが、瑠海は少し剣をふれるようになって聖魔法はどんどん上達した。
ファビオラは両親を魔獣にうばわれたこじで、教会のこじ院で生活するうちに聖魔法が得意になったらしく、この世界の最大宗教である「ヴィーラーグ教」の教えはすばらしく優秀な指導者もいるがクズもいる、とあけすけに話してくれた。「わたしはクズでは無いので安心しろ」とも。
ファビオラは見た目も美しくルイ王子と話すときは「聖女様」といった感じだったが、王子がいなくなると「本当は葉巻が好きだけど王城じゃ吸えないのよ」などと言い出す「キレイだけどくだけたお姉さん」だった。
瑠海が冷やかして「ファビオラはルイ王子をねらっておしとやかに見せているの?」と聞くと、「王族とのけっこんなんてムリだしイヤ。」と、うんざりな顔で返事された。
瑠海に元気が戻って来たころ、私たち二人とルイ・ルイス・コナー王子、ヴィレリオ・ケンドリック、ファビオラ、ミレーナ・カデーロの6人に王家の兵30人で魔獣狩りを再開した。




