#28 便利な魔法
いやぁ、良く寝た。
馬車での移動中、ぼくも妹のマリサも熟睡した。
特にぼくは普段から良く寝てるんだけど背が伸びないんだよなー。なんでかなー。
起きたのは途中のイエゥボ村で休憩する為だ。馬車の馬替えもするらしい。
イエゥボ村だけでなくタツミ領の村や町の名前は、初代様が考えて夫人が承認して決まったらしい。造船村とか海軍村はわかりやすい。イエゥボ村も日本語のカタカナで考えたらわかった。キーストラの街とかベサイブはわからない。でも父上も叔父さんも教えてくれない。
休憩は子ども4人で同じテーブルに集まった。後ろには護衛とメイドがそれぞれ控えている。
「ああ、早く魔法の練習をしたい。」
マルティーノは午前中の練習でベルヴェルート叔父さんから教えられた風の攻撃魔法が少しできて、とても嬉しそうだったからね。早く練習したいけど『慣れるまで安全な練習場所以外で使っちゃダメです。』って念を押されていたからな。
自分にとって新しい魔法が使えた時は、とても嬉しい。それが思い通りに使えるようになるとまた嬉しい。その繰り返しなんだけど、出来なくて嫌になっちゃうひともいるんだよな。もう少し頑張れば出来るひとと、頑張っても出来ないひともいるみたいだ。
「やれば出来る」が誰にでも当てはまるんじゃないんだって。
「マルティーノは練習すれば風のたつじんになりそうだね。」
妹のマリサとディーシャは、マルティーノと一緒に風の魔法『ウィンドカッター』を叔父さんから教わってたけどマルティーノみたいに上手くいかなかった。マリサは練習終わりに「マルティーノ、すごい」と言いながら拍手していたな。
「たつじん?」と聞くマルティーノにマリサは「すごいひと?」となんとなく使った言葉を説明していた。
「そう言えば、ベルンハルトは風魔法と水魔法が得意って言ってたな。風は『ウィンドカッター』とか攻撃魔法があるけど水は飲むくらいだろう?」
そんなこと無いんだけどなー。ああそうか。マルティーノはカッコイイ攻撃魔法こそが魔法なんだった。マルティーノもディーシャも家は公爵だから、派手な攻撃魔法が使えると箔がつくんだよな。
「攻撃魔法もカッコイイけど、練習場か狩りに行くかしないと使えないじゃない?水は地味かもしれないけど、こんなことも出来るよ。」
そう言ってから椅子から立ち上がってハンカチを取り出す。
マルティーノとディーシャは不思議な人を見る目で見ているが、かまわずハンカチを自分の頭の前方斜め前に投げると、そこに直径50センチメートルの水球を作りハンカチを包み込むように取り込んだ。そして水球には地球儀のように芯があるイメージで、水球自体はその場にとどめて右回転で2周して止めて左回転で2周。これを繰り返す。
「水魔法が使えると手を濡らさずに洗濯が出来るんだ。」
そう言うと、黙ってみていたマルティーノとディーシャは声を出して笑った。マリサは見慣れているので通常運転だ。
「急に何をするかと思ったら。そんな水魔法は見たこと無いわ。」
ディーシャの感想の後にマルティーノが突っ込んで来た。
「でもハンカチは濡れたままだ。」
ぼくは水球の温度を上げて水蒸気として上空に飛ばし、さっきの『地球儀の芯』のイメージで風魔法を使って空中の1か所でしばらくハンカチを回して乾かしてから魔法を止めて手にハンカチを落とす。風を回す時も温風のイメージで早く乾かすことを忘れない。ぼくは今日もいい仕事をしたな。
「乾いたよ。手も濡れてない。」
一瞬止まったマルティーノとディーシャはまた笑い出した。
「でもみんな洗濯機で洗濯するよね。」
マリサが容赦なく突っ込んでくる。
「そうなんだ、魔道具の洗濯機の方が便利だからね。」
タツミ領は平民の家庭にも洗濯機がある。今のところ、ケンドリック州など南部の貴族には売ったけど平民の家にはまだ無いし、そもそもメイドの仕事道具などマルティーノもディーシャも知らないから『自動で洗濯する魔道具』の説明をした。
「そうか、ベルンハルトはメイドの仕事を楽にしてやろうと思ったんだな。魔法はそんな使い方もあるのだな。ああ、ベルヴェルート先生が『楽しいから』魔法を使うと言っていたが、ベルンハルトも新しいことを考えるのが楽しいのだな?」
「うん、そうだね、楽しいよ。」
みんなにわかってもらえたようで、なによりだ。
「きゃっ!?」
するとディーシャの後ろで悲鳴が聞こえるのと同時にバシャッと水が弾ける音がして、見るとディーシャの護衛のユニカさんとその隣にいるメイドのシーラさんがずぶ濡れになっていた。
「シーラ、お前は何をしているのだ。」
ユニカさんは冷静な声だけど鬼の目で隣のシーラさんを睨みつけながら聞いている。
「わたしも水魔法が得意だから、水球できるかなー、と思って。」
うん、うちのメイドも同じ失敗をしてた。
悪いとおもいつつも、子どもだけでなくそれぞれの護衛やメイドもこらえきれずに笑った後、二人に魔法をかける同意を取ってから温風の風魔法で少し乾かした。
「そんなことも出来るのね。」
ディーシャは涙を流して笑いながらも、ぼくの風魔法を褒めてくれた。
「こんなことを考えるのが楽しいんだ。二人とも、ぼくの魔法では短い時間で乾かすのは無理だから出発までに着替えたほうがいいよ。」
「魔法は慣れないうちに間違った練習をするとこうなるのだな。気を付けよう。」
マルティーノが一人納得しているのを見て、またみんなで笑った。




