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#27 魔法マニア、コバックス侯爵と同乗する

「やあ、ベルヴェルート殿、こちらの馬車に乗られますかな、どうぞどうぞ。とは言ってもこれはタツミ家の馬車ですけどな。はっはっは」


今回、エイバラーン王から派遣されたジョン・コバックス侯爵と、その護衛のラートが二人で乗る馬車に入ると、コバックス侯爵は突き出た丸い腹をさすって笑いながら迎えてくれた。

コバックス侯爵の護衛のラートも、オレの護衛のイタロも平民の出だが、タツミ家はそこにこだわらない。客が良ければ貴族の馬車に同上してもらう。家によっては、護衛は乗せない、平民は乗せないなどのルールがある。あー、めんどくさい。

コバックス侯爵は、陸路で王都の南東にあるカデーロ州に馬車で行ってそこからタツミ領の港町ベサイブに船で来たので、自分の馬車はカデーロの港町に置いてある。


今回の『船の売買交渉』は、実際の売買はエイバラーン王国のタツミ辺境伯家とナーグドラ王国のナーバダ公爵家の取引だが、国家間の交渉でもある。『今までよりほんの少し貿易の量が増えるくらいだけど、より仲良くしようね。』と言った意味もある。


この交渉を望んでいないのは、エイバラーン王国の南部が潤うのが気に入らない一部の北部の貴族と、エイバラーン王国とナーグドラ王国の間にあるトラキラギア連合国の『うちの素通りが増えると儲けが減るのでは?』と、懸念する一部の貴族や商人くらいだ。


「お二人の話し相手をさせていただこうと思いまして。途中のイエウボ村でニール殿がこちらの馬車に戻られるそうなので、そこまで宜しくお願いします。」


コバックス侯爵とナーグドラ王国のニール殿が同じ馬車で移動することが多かったが、ニール殿がアレックス・ナーバダ公爵と話があるらしく、そちらの馬車に乗った。こういったちょっとした変更に従者たちは大変だが、向こうにつくまでに調整したいことがあったのだろう。


「わたしは何度か海路ではベサイブに来たことがありましたが陸路では無いので、今回初めてタツミ領の陸路の玄関口であるキーストラの街に行くのですよ。仕事ですが、楽しみでしてな。」


コバックス侯爵は外交官として若い頃から、トラキラギア連合国や、タツミ領と貿易している南のモナエージュ公国に何度か行き来している。


「キーストラの街は、南が倉庫と馬車の待機場所、中央が領民の居住区域と宿泊施設、北が多くの劇場と商店や食堂でにぎわっております。今回は数日かけて、いくつかの劇場でご観覧いただく予定です。少しでも仕事を忘れてお楽しみいただければ幸いです。」


陸路でタツミ領に入れるのはキーストラの街だけだ。

それ以外は魔獣のいる山越えだけ。それが先日、山越えで野盗に入られてしまった。

すぐに調査に出ると、山越えで隣接するケンドリック領の村が襲われた後だった。タツミ家直属の諜報機関『シノビ』の一員と合流するとすでに調べはついていた。

よその領では野盗があばれることくらいはある認識だが、タツミ領では領内に入っただけで一大事だ。今回のキーストラの街行きは、客をもてなしつつケンドリック家と一緒に直接の暴挙に出た野盗を罠にはめる目的もある。

シモーネ・ケンドリック公爵とアレックス・ナーバダ公爵に同行の確認をすると乗ってきた。「うちは次男のベルンハルトを連れて行きますけど」と、この顛末を子供に見せるとドナルド兄上が言うとこれにも二人は乗って来た上で、アレックス殿は夫人も連れてきた。


「もちろん、劇場も楽しみですが、もうひとつのお手並みも。少々不謹慎で村の被害があったケンドリック公爵の前ではとても言えませんがね。」


ケンドリック州では領民が殺された上に、その黒幕は農場の放火までやっている。

ケンドリック公爵ははらわたが煮えくり返る思いだろう。

この話を続けたくなかったのか、コバックス侯爵は話題を変えた。


「今回の仕事ですがね、王から言われました。『お前から代替わりの申し出があったが、これは成功すると思うし今年一番大きなものだ。花道を飾るには丁度良い。これをまとめて侯爵を代替わりして外交官の仕事も嫡子に譲り、お前は引継ぎをしながら王城内のゆるい仕事に回れ。少し早いが、今までよくやった。』とね。

 いやあ、帰って長男のビンセントに『王に褒められた上に、最後に良い仕事をいただいたぞ!』と自慢しましたよ。ビンセントも喜んで『それはすばらしい。わたしは代替わりの準備と心構えをして帰りをお待ちします。』と言っておりました。

 それからはナーグドラ王国でも、国に戻ってからも大変な歓迎を受け、もう仕事ではなく旅行をいただいた気分です。」


それは嬉しそうに身振り手振りを交え、少し王のモノマネをしながら説明してくれたコバックス侯爵は、突然電池が切れたように止まって、一拍置いてから続けた。


「そう思っていたんですがね。

 ナーグドラ王国のニール殿と同じ馬車に乗るうちに今の話をしましたらね、ニール殿は『わたしの家と同じですね』と言うのですよ。聞くとニール殿はヴィーバラ公爵の嫡子で、この仕事の成功を手柄として代替わりするそうです。

 いやあ、反省しました。わたしはその考えに至らなかったがニール殿の父君はすばらしい男だ、とも思いました。子が家を継ぎやすくする見事な仕事で花道を飾られた。

 まあ、今、反省し続けても仕事をしくじるかもしれない、今は切り替えて、帰ったら長男のビンセントに謝りますよ、はっはっは。」


この短時間でコバックス侯爵は上がったり下がったり忙しい。

が、こちらを嫌な気分にはさせない楽しいおっさんだ。


まあ、どこの家でもいろいろあるのだな。

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