#26 魔法マニアの軽い暴走
「さて、マルティーノ君、きみが得意な魔法はなんですか?」
気を取り直して話を続けよう。
「ぼくは風魔法が得意です。この庭に大きな風を起こせます。」
マルティーノがドヤ顔で答えた。
「その魔法を使うのは楽しいですか?」
と聞くと、「チョー楽しいです!」と答えたので、後でマルティーノの父親のケンドリック公爵から「変な言葉を教えるな」と怒られそうだな、と思いつつ、続けた。
「楽しいのなら、その練習は続けましょう。但し今は、この庭で使うと木をなぎ倒してしまうかもしれませんので使えませんね?」
「木は倒せませんが、葉を落としたり枝を折るかも知れません。」
「庭師さんが一生懸命、キレイにしてくれた庭を汚したり壊してはいけませんよね。では、ちょっと違う練習をしましょう。さっきマルティーノ君は『戦いに勝つため』に魔法を使うと言いました。では、戦いで使うのにはどんな風魔法が良いでしょう。」
マルティーノが悩んで黙ってしまったので、ディーシャに振る。
「ディーシャ君、きみは身を守るためと言いました。では、そのために得意の魔法でどうすればいいでしょう?」
「身を守るためと言いましたけど、魔法の練習をしながらそれを考えたことはありませんでした。」
「そうだね。ふたりとも、今のは意地悪な質問なんだ。学校でもそう聞く先生はあまりいないんだよ。まずはちゃんと使えるようになることが1番だからね。」
そう言うと、二人はホッと胸をなでおろしてから『じゃあなぜ?』と言いたげな顔をこちらに向けた。
「自分で工夫して、考えながら練習すると楽しいからだよ。
ディーシャ、そこ、5メートル先に魔法練習用の木の人形があるけど、あれが悪者としよう。ディーシャと悪者は幅1メートルの廊下に居る。間には誰も居ない。どうする?」
「得意の火魔法で、火の玉をぶつけます。」
ではやってみよう、と促すと、ディーシャは『ファイヤーボール』と呟いて直径80センチメートルくらいの火の玉を手のひらの30センチメートル上方に作り出し、ボールを投げる動作をすると、火の玉は大きさを保ったまま木の人形にぶつかった。
本人の自覚があるかはわからないが、あれだけの大きさの火だと、少なくとも火の玉を手放すまでは自分や自分の衣服が燃えないように、同時に別の魔法を発動しているはずだ。
8歳にしてはなかなかの魔法操作だな。姪のマリサが「ディーシャすごーい」と言いながら拍手して、ディーシャ本人は「どや!」と声にだしてマリサの拍手に答えていた。随分、仲良くなったようで何よりだ。
「いいね。じゃあ、火の大きさを変えたり動く速さを変えたり曲げたり出来る?」
「小さい火も作れますけど、これです。これ以外の大きさは出来ません。速さも変えようとすると途中で消えたりします。曲げるのも無理です。」
ディーシャがそう答えると、後ろで控えていたディーシャの護衛であるユニカが付け足した。
「ベルヴェルート様、私もそれは出来ません。魔法が得意な子どもでも出来る子はそう居ないと思いますが。」
まあ、そうだよね。あんまりいないし、やろうとも思わない。
「さっきの廊下だけどね、ディーシャ君と悪者の間にユニカさんが居たらあの火魔法は使えないよね。でも火の大きさを変えられたり曲げたり出来れば使えるかもしれないよ。
ユニカさんが言う通り、わたしが言ったような変化球が出来る人は大人でも少ない。でも8歳でさっきの火球が作れるディーシャ君なら、出来るようになると思うよ。魔法はイメージが大事だからね。」
ディーシャは「練習してみます!」と燃えているが、ユニカは「子どもに無茶言うな」と言いたげな顔だ。
「難しいからね、出来たらいいな、くらいに練習するといいよ。それが出来たらこんなことも出来る。」
そう言って、5メートル先の木の人形の頭に直接火をつけた。
するとディーシャは目を輝かせ、ユニカはジト目で俺を見る。
「ベルヴェルート様、それが出来る人は世界中でも少ないんですが。」
なぜか、ベルンハルトの護衛のデカーンが、ユニカの援護射撃のような突っ込みを入れてきた。
自分から1メートルを超える距離で魔法を発動できる人間は少ないからな、人間はな。その反応は正解だよ。しかしディーシャの心の灯は消えなかったようだ。
「ベルヴェルート先生、いつか、出来るようになるまで練習しますよ!」
むしろ、燃え広がったようだ。がんばれ、ディーシャ。笑顔で頷くと、もう一人にも火がついていた。
「ベルヴェルート先生、風でも同じ練習はできますか?」
マルティーノが両手に握りこぶしを作ってこっちを見ている。
「マルティーノ君は、兵士や冒険者が使うウィンドカッターと言う風魔法を知っているかな?」
「知っていますが、使えません。」
少し項垂れてしまったが、「どう練習すればいいですか?」と聞いて来た。良い傾向だ。
「まずは風の刃を作る練習からだね。慣れないうちに飛ばそうとすると、目隠ししながらナイフを投げるようなものだから危ないんだよ。風の刃を作ったら、自分の1メートル先の地面に作った目標にぶつける。その練習を繰り返して目標から外れなくなったら2メートルにする。その繰り返しで伸ばすといいよ。刃を作るイメージはね、。。。。。」
そんな風に、ディーシャとマルティーノへの指導で終わってしまった。
マリサは楽しんで一緒に聞いていたが、ベルンハルトは奥の椅子に座ってお茶を飲み『縁側でくつろぐお爺ちゃん』の雰囲気を醸し出していた。ベルンハルトには教えた内容だし、あいつはディーシャが笑っていれば嬉しそうだから良しとしよう。
一応、8歳のベルンハルト君が主役のつもりで書いてます。。。




