#24 ケンドリック公爵の次男、マルティーノ
ベサイブに来ても楽しくない。
なぜ父上は、ぼくだけ連れてきたのか。
兄上か姉上が居れば、一緒に遊べたのに。兄上の剣はすごい。姉上の魔法もすごい。
ぼくは、やっとどちらも始めたばかりだから、二人が居れば稽古をしてくれたはずなのに。
いつも、州都にいても街には行けない。
ときどき、家族の誰かが行くときに連れて行ってもらえるかどうかだ。
「お前はまだ一人で街に出てはいけないよ」と言われる。まだ小さいからと。
街に行くのも馬車で、貴族のお店に行くだけだけど、いつもお城にいると別のところに行きたくなる。
でも街を歩くのも、貴族のお店以外のお店も「まだだめ」って。
ベサイブに初めて来た時は楽しかった。
護衛は居たけど街の中を歩いて、行ってみたいお店を見つけては入った。
港には、大きい船も小さい船もいっぱいあって、人もいっぱい居た。
大きい船に乗った。海は楽しかった。
でも今日は、「何日もかけて着いたばかりだから、夕食会までゆっくり休もう」って父上が。
街にも出れない。今日はフィリップも居ないって。つまんないな。
去年、ドナルドさんがフィリップを連れて州都のお城に来た。
兄上とフィリップは剣の稽古をしてたけど、フィリップの方が強かった。兄上の方が年上なのに。ぼくだったら年下に負けたら悔しいけど、兄上は「次は勝つ!練習しておくぞ」と言って、フィリップは「負けませんよ」と言って、二人とも笑ってた。
だから、ぼくは兄上にもフィリップにも勝ちたいから、今は剣の稽古がしたいのに。休んでるヒマなんて無いんだよ、父上。
「起きなさい、マルティーノ。夕食会の前に、部屋着から着替えなきゃだめだろう。」
父上に起こされた。いつの間にか寝てたんだな。疲れてたのかな。
「夕食会にはフィリップの弟と妹、それから今、ベサイブに居る異国のお客様も来るぞ。仲良くなれるといいな。」
そう言えば、フィリップには弟と妹がいて、弟がぼくと同い年だと言っていた。同い年って、いとこのトーマスみたいな子かな。トーマスは、剣も魔法も「外に出たら汚れるだろ」ってやりたがらないんだよな。
夕食会の前に挨拶した。初めて会うひとばかりで名前を覚えられないから、子どものベルンハルトとディーシャとマーヤだけ覚えた。食事する貴族だけで12人いて、従者もいっぱいいるんだ。覚えるのはあきらめた。
異国のお客様って言うディーシャの家族とか、肌の色が黒いんだな。聞いたら失礼なのかな。
ベルンハルトはちっちゃいな。妹のマリサと同じくらいだ。
ディーシャはぼくより大きい。
ベルンハルトがぼくのことを「マルティーノ様」って言ったら父上が、
「ベルンハルト、王都の高校に行くまでマルティーノに『様』は必要ないよ。君たちには対等でいて欲しい。ただ王都には、つまらないことを気にする貴族が多いからね。二人とも、なぜここと王都が違うかをこれから考えてみてくれ。」
と言った。『たいとう』ってなんだっけ。今聞くと恥ずかしいから、後で聞こう。
夕食会で、ぼくら子どもが話すことはほとんど無かった。
ときどき聞かれたことに答えたけど、子ども同士では話せなかった。
夕食会が終わって広いラウンジに行くと、大人の男の人、女の人、子どもの3つのグループに分かれた。ここに来るまで、ぼく以外の3人は少し話してた。仲良さそうだな、いいな。
「みんな、剣とか魔法とか練習してる?」
ぼくは思い切って聞いてみた。知らない子に自分から話しかけるなんて初めてだ。
すると、マリサは魔法だけだけど、ベルンハルトとディーシャはどっちも練習してるって。
明日、大人がゆるしてくれたらやろうってことになった。楽しみだ。
ベルンハルトが教えてくれた。
「ぼくは兄上にも村の友だちにも勝てないから、剣は上手じゃないよ。」
「村の友だちって?」
聞くとベルンハルトは、このベサイブと近くの村の両方を行ったり来たりしていて、どっちにも友だちがいるって。その村の小学校にフィリップが通っているから今日は居ないんだって。
「ベルンハルトは友だちがいっぱいいるんだな。いいな。」
ぼくがそう言うと、ディーシャが「わたしたちも今日から友だちでしょう?」と言って来た。
「うん。」
そうだね、友だちだ。ちょっとうれしい。
それに、剣はあまり上手じゃないって、ぼくでも勝てるかもしれないな。ベルンハルト、ちっちゃいし。
魔法の事を聞くと、
「ベルンハルトは風と水が得意かな。わたしとマリサは火魔法が得意ね。」
と、ディーシャが答えた。
「ぼくは風魔法と火魔法が得意だよ。」
大きな風を吹かせられるし、姉上より大きな火の玉が作れる。明日はみんなをびっくりさせてやろう。そう思っていると、ディーシャが変なことを聞いて来た。
「マルティーノは足は速い?」
そんなことが気になるの?足の速さより、剣の腕が強かったり大きな魔法が使えたほうがすごいのに。
「うーん、兄上や姉上よりは遅いけど、いとこのトーマスよりは速いかなあ?」
ぼくはちゃんと正直に答えたよ。するとディーシャが両手をグーで握りながら
「じゃあ明日、時間があってお父さまたちの許可があれば、魔法の練習とかけっこをしましょう」
と、目をキラキラさせながら言ってきた。




