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#23 黒い相談はふたつに割れる

「貴様らは、酒と食事を済ませてから店を出ろ。我らは先に出る。見送りはいらぬ。」


弟が言ってから二人で席を立つ。

扉を開けて廊下に出て左手奥に向かい、先ほどの部屋の隣の扉をノックしてから開けた。仲介人にこの店を指定されたので、ダグラス家出入りの商会に命じてすぐに並びの個室を予約させた。この部屋は裏口があり、直接外に出て待たせている馬車に乗れる。

部屋の中では、薄いワインで食事を取っていた護衛が揃って立上り迎えるが、ひとりは頬を膨らませている。


「あわてるな、落ち着いて食べなさい。」


笑いながら指示していると、弟がこらえきれなかったのか座る前に話し出した。


「兄上、まずいですぞ。」


私は右手の人差し指を立てて唇に当て、左手の人差し指で弟が持つカバンを指さす。

弟は頷いて、カバンから先ほどの盗聴防止魔道具を取り出してテーブルに置き、起動させてから席についた。


「兄上、ヤツらはやり過ぎです。なんとかしないと。」


弟のミゲルは慌てるばかりで、護衛たちは訳が分からず無表情のままだ。ふたりは直属の護衛だ。説明してやらねば護衛としての動きに迷いが出るかと思い、先ほどの内容を伝えるとふたりで頭を抱え、私の部下であるベニーが小さい声をなんとか振り絞った。


「タツミに被害が出ぬようにと、なぜ伝えなかったのですか。タツミは我らがダグラス家で言うところの『影』を持ち、それは国中に目があると言いますぞ。ヤツらに知られたならば倍返しです。それこそお二人のどちらかが消されても不思議ではありませんぞ。」


我らがダグラス家には、『影』と呼ぶ諜報、暗殺機関がある。だが影によれば、タツミのそれはつかみどころが無く、且つそれの仕事と思われる事象はいくらでも浮かぶという。一度、ウチの影が接触した時は「タツミ家と国家の大事に関わらなければ我々は手を出さぬよ」と釘を刺されたそうだ。


「そうだな、ベニー。我らは期せずして関わってしまった。どう手を引くか、落としどころを探さねばならんな。」


私付きの護衛、ベニーにそう言うと、まだ弟は落ち着かぬのか、震える声で


「だから私はイヤだったのだ。現当主のチャールズが余計なことを言わねば、こんなことにはならなかったのだ」と。


いや、待て。我が甥、チャールズが呟いた「南部に一泡吹かせられぬか」などというつまらぬ戯言を、拾い、膨らませたのは貴様であろう。「では、ゲイル叔父上、頼まれてくれるか」と指示されたのも貴様だ。私は巻き込まれたのだ。「ゲイル叔父上だけでは大変であろう、カーティス叔父上、手伝ってやってくれ」とな。

その場にいてチャールズの指示を聞いていた、目の前の護衛ふたりも呆れ顔で貴様を見ているぞ。


「とにかく、ヤツらと関係を断つ。影にはタツミに接触させて、「当家は無関係だ」と伝えさせる。」


私が言うと、弟はポカンと腑抜けた顔で私を見てからうったえた。


「兄上は先ほど『やるなら失敗は許さん』と。継続を許したのでは無いのですか?」


わかっていない。弟は、しばらく外の仕事をさせてはいかんな。


「あの場で止めろなどと言えば、仲介人の隣に座っていた実働部隊の男が『梯子を外された』と反発するかもしれん。それにヤツらの部下にも野盗のような思慮の浅い末端がいれば、こちらに牙を向けるかもしれない。仲介人にあらためて使者を出し、中止させるのだ。間に合わず『想定外の不幸』があれば、仲介人には責任をとらせる。」


3人とも、わかったような顔で頷いているが、良くわかっていないだろう。

私自身、それらしいことを言っただけで良くわかっていないかもしれない、まだ混乱しているからな。

この後すぐに『影』をよばねば。


 ◇ ◇ ◇


「おい露天商、お前どうするつもりだ?」


緑髪のふたりが部屋を出て、部屋に備え付けの盗聴防止用魔道具を起動させてから仲介人を問い詰めた。


「大丈夫だ。もったいないからお前も食え、ミゲル。」


名前を呼ばれてぴくりと動いて反応してしまった。


「警戒すんなよ。名前くらいすぐに調べられるさ。それより教えてやるよ。俺もお前も今回はセーフだ、『たぶん』だけどな。」


「どういうことだ?」


仲介人のあまりの余裕な態度に納得がいかない。ウチの組織だけではなく、こいつもタツミに狙われたら終わりのはずだ。


「まず、ケンドリック州の村を全滅させたのは、あんたんトコの下請け野盗の勇み足だ。勝手にやったのさ。だからあんたのカシラも俺も話を聞いて頭をかかえたよ。その野盗、統制が取れてなくて一部のはねっ帰りが山に金目の物を探しに入ってタツミに捕まった、ってとこまではあんたも聞いてるな。

どういうルートか知らんが、タツミの人間があんたのカシラに接触した。『野盗とは手を切れ。カシラと仲介人は貸しだ』ってさ。

仲介人の俺が普段は露天商をやってて、この店の裏のオーナーだってことも知ってた。

野盗はタツミで処理するってさ、だからエサだけまけって。

客にはやる気を見せとけってよ。仕事の終了を告げられたらもったいぶってから受け入れて、もし続けろと言われたらやってるフリだけしてろって。」


こいつもカシラも、タツミと接触してたのか。って、ここはこいつの店かよ。


「たぶん、中止を指示してくるだろうってさ。いきなり俺たちを消しにかかってくるとしたら、そこまでは知らんから勝手に逃げろって。]


「客がビビってくれたら仕事は終わるが、ビビり過ぎたら俺たちを消すってことか。」


「そうかもな。今ごろさっきの客な、予約した隣の部屋で相談してると思うぜ。」

初あとがき。

初いいねいただきました、ありがとうございます。

読んでいただいている皆様も、ありがとうございます。

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