#22 黒い男たちの密談
王都の中心街で、少し北の貴族街寄りの店。
どこにでも良くある大衆食堂より少し高価な料理を出すので、中心街の住人や冒険者で裕福な者や、平民や一般冒険者がお祝いでちょっと贅沢な食事会をするのに利用する店だ。
「お前、この店が好きだな」
「露天商の俺が、普段からここに来てたらおかしいだろ?こんな時じゃないと使えないんだよ。さあ入るぞ」
答えた男は俺をここに連れてきた仲介人。露天商と仲介人のどっちが本業かは知らないが、儲かっているのは圧倒的に仲介業だろうな。
店に入るとすぐ、奥に多くのテーブル席が見えるがいつものように左手の通路に入る。
ちらりとテーブル席をのぞくと一人だけ知った顔と目が合ったが、お互いに挨拶もしないしサインも出さない。ヤツはウチの人間ではない同業者だが、まわり、特にこの仲介人には知り合いと知られたくはない。
通路を進むと左右に個室が5つで計10室。通路の入り口に居た店員に、奥から2番目の左側の部屋に案内された。部屋に入ると先客がふたり。軽いつまみとワインがテーブルに有った。約束の時間より早く着いたが、客はもっと早かったようだ。
「お待たせしたようで。酒と料理を注文しても?」
仲介人が最低限に挨拶すると、向かって右の男が頷くだけで答える。
中肉中背、濃い緑色の髪をオールバックに撫で付け、目は細く鋭く、唇は薄く、細い顔だが顎が角ばっている、特徴的で忘れないタイプの顔だ。報告の通りだな。
左の男。濃い緑の髪でオールバックなのは同じだが、こいつは長髪を後ろで束ねている。整った顔立ちだが冷たい目だな。こっちは報告に無かった。
どちらも高級過ぎないが、平民では買えない服装だ。
ここで対立した場合、ふたり同時では勝てないかもしれない。
新しく見つかった魔獣の話で繋いでいる間に、酒と料理が並べ終えられ給仕が部屋を出て行ったので、一旦話を切る。すると右の男が、部屋に備え付けの店の物ではなく、カバンから取り出した自前の魔法での盗聴防止用魔道具をテーブルに置いて起動した。
「今のところは順調のようだな」
右の男に仲介人が答える。
「農場の放火は成功ですね。今、王都どころか王家の直轄地には『南』の豚肉は入ってきていません。一部の直轄地には麦が入っていますが、それだけですね。今のうちに、直轄地の豚肉と麦は『北』で独占できるんじゃないですか?」
エイバラーン王国は、広大な領土の中心部が王家の領する『直轄地』だ。
直轄地の中心に王都が有り、直轄地のまわりを7つの州が囲む。
王都周辺の直轄地を囲む北の3州と南の1州は、それぞれ王家からの分家が公爵家として納めている。この4州、今も王家の土地で、本来は各州の公爵は『代官』なのだが、その家の公爵が代々受け継いでいるうちに多くの平民は、その公爵の土地と思っている。
他の、更に南側に位置する3州が、初代王の建国に協力した元々その地を治める豪族で初代王から公爵とされたので、貴族の生活に興味がなかったり元々知らない平民は『州』が同じ括りになってしまっている。
この北部と南部。
南部は潤って食も溢れているが、北部は時に不作による食糧不足が起こる。食糧不足に限らず、北部の平民は照明の魔道具すら買えないが、南部の家には当たり前にある。
どうすれば北部平民の生活が向上するか、治める貴族の対策など聞いたことはないが、北部貴族は一方的に南部貴族を憎んでいる。
今、目の前にいるふたりは、深い緑色の髪と依頼の内容、そしてウチの者の報告から北部貴族に連なる者だ。
胸糞悪いが、その片棒を担いだ仕事で食っている俺たちも褒められたもんじゃない。
『南からの物の流れを止めろ。南を混乱させろ。期限はこちらで止めろと言うまで』
それが今回の依頼内容。かなりの高額だったので、カシラが受けた。俺はやりたくなかったけどな。
仲介人は、目の前の男たちが答えなかったので発言を続けた。
「農場はすぐに警備が厳しくなったので、街道から外れた小さい村を野盗に襲わせてます」
これを俺の直属でないヤツらがやらせていると聞いて耳を疑った。ウチは今まで平民を殺すことは無かった。カシラに聞くと、『お前は別の仕事がある』としか答えなかった。
「それだ。その者たちがタツミに流れ、タツミに知られた。どうするつもりだ?」
右の男に聞かれると、仲介人が答えた。
「いや、そう言われましてもね。タツミ領は自治領でもケンドリック州の一部ですぜ。『タツミ領に手を出すな』とは言われておりませんで、約束を違えちゃぁおりません。こちらも予定とは違いましたが、これはこれで混乱は続くと思いますがね。」
「タツミにはやりすぎるな。あれが動くと厄介だ。」
右の男から言われると、仲介人が困り顔を浮かべながら言った。
「それは依頼の追加事項ですかね?タツミにちょっかい出すなってことでいいんですか?」
「そうだ、やってしまった件は致し方無いが、これからは気をつけろ。」
仲介人はため息をついてから、特に反省したでもなく答える。
「そういう大事な指示は、もう少し早くして欲しかったですね。
近々、タツミの街にタツミ辺境伯家とケンドリック公爵家、それから今タツミ家に来ているナーグドラ王国の一行が集まるってんで、その時に誰かひとり、殺っちまう計画らしいんすよ。今から連絡しても中止できるかどうか。」
すると、はじめて左の男が俺を見ながら口を開いた。
「やるなら失敗は許さん。」




