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#21 行ってきます

子どもだけの夕食会は、皆はじめてでとても楽しかった。


兄上が、ナーグドラ王国ではひとり造船村のゲストハウスに残っているニールさんにも声を掛けたけど「みんなで楽しんで。こんな機会はもうないかもしれないくらい貴重だよ、わたしはゲストハウスで食事するから」と、子どもだけの食事会にしてくれた。

兄上は積極的に話題を振ってくれて、ディーシャは筋肉痛が治らないのも悔しいと言い、ユージはディーシャに「鍛えましょうか?」とからかい、シェイラは「早く子狼たちとも砂浜を走り回りたい」と最速の女の子らしいことを言い、ぼくは笑って聞いていた。

その後、ラウンジで引き続き楽しく過ごしたけど遅くなりすぎない時間でお開きとなった。


「大人なら、お酒を飲みながら夜更かしするんだろうね」


なんてシェイラが帰り際に言ったので、みんなでいつか出来たらいいね、と。




翌日。

父上がいるベサイブから連絡員が来た。

「予定が変わり、アレックス様は造船村に戻らないので、ニール様、ディーシャ様、ベルンハルト様は明日以降の出来るだけ早い時間にベサイブに移動してください」

3人とも、明日朝の出発で問題ないことを確認すると、連絡員はベサイブに戻って行った。


兄上は、今日もみんなでの夕食会を準備してくれていた。兄上、グッジョブ。

今日はニールさんも参加。ニールさんは20才くらいだと思うけど、ぼくのまわりでこのくらいの歳の人は「子どもが苦手」と言う人もいる。自分の子どもが産まれたとたんに変わる人が多いけどね。

ニールさんは結婚していないらしいけど、ぼくらの話を聞いてくれて、ときどきナーグドラ王国の王都の話とか、ぼくらだけでなくディーシャも知らない話を聞かせてくれた。


明日の朝、ベサイブに行く。

ぼくは普段から、ここ造船村とベサイブを行ったり来たりしているけど、ディーシャは明日ここを出たらもう来ないかもしれない。ユージとシェイラは、もうディーシャと会えないかもしれない。

そう思うと、あらためてディーシャが遠い異国のひとだと思いだす。

ディーシャがナーグドラ王国に帰る時が来たら、ぼくももう会えないかもしれない。

そう思うと泣きたくなったけど、頭の後ろのほうで何かがじわじわ動いているような変な感じになったけど、ディーシャもユージもシェイラも、気づいていて言ってない。みんなで楽しい話で笑ってる。

ぼくも笑った。ぼくにとってのその日はいつかくるけど、今は笑った。




翌朝。

獣医の助手、パッシモーネさんがわざわざ早朝に来てくれた。ぼくらの出発前に子狼たちのこれからのことを伝えるために。

ぼくが造船村に居られないときは、ときどき様子を見にきてくれる。うちの動物が苦手ではないメイドたちと、ユージとシェイラにも歩き出してからの世話の仕方を教えてくれる。

そう言われ「ありがとう」と答えると同時に、ぼくはこの子たちが立ち上がる瞬間を見逃すんだな、と残念な気持ちになった。


そこにディーシャとユニカさんが来た。二匹にお別れを言いに。

ユニカさんがドアを閉めようとしたときに、ユージとシェイラも来た。

オスのジャンゴがいつものようにノペッと足を左右に広げて寝ている横で、メスのマーヤがもぞもぞと動き出した。前足を前に出し、後ろ足をおなか側に引き寄せている。いつもと違う動きにみんな黙ってマーヤをじっと見た。

するとゆっくり、少しずつ後ろ足で踏ん張って、おしり側から上に上がっていく。立ち上がろうとしているようで、みんなでこぶしを握り締めて声を出さずに応援した。

後ろ足がぐぐっと持ち上がって背伸びのようなポーズになる。次は前足。

と思ったところで「ぺちゃっ」とからだが落ちて潰れるように元のうつ伏せ状態に戻った。

みんなで「あ~」と残念がる声が重なったけど、パッシモーネさんも、子狼たちを順番に世話してくれているメイドも、みんな笑っていた。



馬車の準備ができたと声がかかったので、ユージがジャンゴを、シェイラがマーヤをそれぞれ抱き上げて、小学校に遅れそうな時間なのに兄上も、見送りに来てくれた。


「マーヤはね、きっと『わたし、立ち上がれるの、すごいでしょ』ってディーシャに自慢したくて頑張ったんだよ」


シェイラがそう言うと、それまで笑顔だったディーシャが泣き出した。


「わたし変なこと言った?ごめんね?」


シェイラはもらい泣きしてオロオロしながら言うと、ディーシャは


「違うの、もしそうなら嬉しいし、それを言って気づかせてくれたシェイラの言葉も嬉しいの」


そう言って、二人で少しのあいだ泣いていた。



ふたりが落ち着くまで待っていてくれたニールさんが


「では、出発しましょう」


と声をかけると、ディーシャがシェイラに


「またね、かな、行ってきます、かな」


と問いかけた。すると、シェイラは


「行ってきます、じゃない?」


と答え、ふたりで『行ってきます』『行ってらっしゃい』と言い合って笑っていた。


そしてぼくらを乗せた馬車と、護衛や造船村から出荷する魔道具を載せた幌馬車数台で動き出した。

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