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#2 おとなの相談

「娘の同行を許可してくれてありがとう。」


妻と娘を退室させ、客人に礼を告げてから後ろで控えていたニールを横に座らせる。

ニール・ヴィーバラはヴィーバラ公爵家の嫡男で、来年の代替わりを予定している。

旅に同行し、帰国後は王に全てを報告する役回りだ。




今回の外交には多くの意味がある。

わたしは貿易を増やして、より国を、市民の生活を豊かにしたい貿易推進派のひとりだ。

我がナーバダ公爵家は、西の2つの大国との海路での取引で食と経済の安定を手に入れた。

当家は東の小国群とは付き合いが無いが、東側を領する貴族やその領民たちはそれなりに潤っている。


王の御前会議で東の貴族のひとりがつぶやいた。


「東の小国群より更に東に「テン」と言う名の大国があって、そこの大きな商家が我が国との付き合いを望んでいるらしい」


東の貴族たちは皆、同じうわさを聞いていた。

しかし未だうわさで、その商家からの接触はないそうだ。


御前会議から領に戻ると、ちょうどエイバラーン王国からの交易船団が来た。

いつ見ても大きな船だ。

我が国にもこれだけの船があれば、来てもらうだけでなく、こちらからも行ける。

更に東の「テン」とも海から繋がる芽が出てくる。


「うちにも、これだけの船があれば」


雑談の中でそうつぶやくと、主船のエドワード・グッドラン副艦長が話に乗ってきた。


グッドラン副艦長は、緑色の髪に動けそうな引き締まった身体、目つきは鋭いが話していても威圧感はなく、むしろ話し上手で話題も多い優秀な男だ。今回の代表である3人の中では一番年上らしい。わたしと同じくらいの年廻り、40歳くらいだろうか。


「アレックス様、詳しく伺いましょう。」


どうやらエイバラーン王国のタツミ領では、船大工の技術は日々進歩して、資材の確保も必要以上にうまく行き過ぎたので、友好国に売れないか?との案が持ち上がったとか。


一領主が勝手には決められないので、次期領主のドナルド・バーライン・タツミが「王に相談してみる」と、交易船団の出航と同時にエイバラーン王都に向かったらしい。


それが2年前。


エイバラーン王国からの交易船団が来るのは春と秋の年2回で、グッドラン副艦長と下話を詰めてようやく今回ドナルドがやって来た。

もう一人はエイバラーン王直属の外交官でジョン・コバックス侯爵。

少しお腹が出ていて運動は得意ではなさそうだ。

コバックス侯爵は「王の側近として、タツミのお目付け役として来た。ナーグドラ王国の状況を把握してお互いに不利益がない取引がしたい、腹芸は好かない」と、いろいろとぶっちゃけてきた。


代表の3人は友好的で、コバックス侯爵の人選はエイバラーン王がタツミを後押しして上手く話をすすめたいと言うメッセージそのものと思われる。


対して、こちらで同行するニールも良い人選だった。

ヴィーバラ公爵家は領地を持たず、貿易に関しては中立でわたしとも近すぎない。

ニールは王太子の友人だ。

フラットな立場で視察、交渉に同行して脚色なく国に報告できると思うし、ニールの言葉なら反対派も聞く耳をもつだろう。

我らが王も絶妙だ。




「先ほど娘への説明で供は6人と言ったが、ニールとその従者も含めてこちらの使節団は13人の予定です。」


「はい、予定通りですね。あと1週間、できる限り調整しましょう。」


それから軽い調整と雑談で、この日はお開きとなった。




その日の夕食の席で、ついに妻のプリヤがグズグズと泣き出した。

娘のディーシャは困った顔をしているが、次男のアーディブはオロオロとまわりを見渡したあと


「お母さま、悲しいの?」


と言って、一緒に泣き出した。

アーディブはまだ4才で幼いのもあるが、見た目も、優しい心根も、母そっくりだ。

いつも家族の誰かが悲しそうにしているだけで、伝染したように泣いてしまう。


「大丈夫だよ、プリヤ、アーディブ。心配ない、いっぱいお土産を持って帰ってくるよ。」


政治より、2人をなだめる方が難しい気がする。

長男のオルシュが居ればわたしより鮮やかに2人を落ち着かせるだろうが、あいにく軍の野営に行ってしまった。軍の顧問をしている父上の付き添いだ。父上が切れたらなだめる係り。

まだ13才だが先が楽しみだ。


それより今はこの食卓をなんとかしないと。


「。。。2人と離れるのも心配だけど。ズルイ」


ん?妻よ、何を言い出すのだ。


「わたしもベサイブに行きたかった」


そっち?どうしよう。





2日後、父上とオルシュが帰ってきた。

演習は上手くいき父上はゴキゲンで、オルシュは少し疲れていたが自分の力に少し手ごたえがあったようで課題が見えたとこちらも嬉しそうだ。


「なるほど、わかった。3人で行ってきなさい。オルシュとアーディブは俺にまかせろ。ちゃんと留守は守るからな。」


父上もプリヤの涙に弱かった。そうだった。



ドナルドたちは快く、プリヤと従者、5人の追加を了承してくれた。

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