#18 アレックスとプリヤの相談
わたしの突然の申し出に、ドナルド殿は快くベサイブへ行く馬車に同乗させてくれた。
馬車での移動中は、交渉ではない、お互いの家族や生活の話をして個人間の理解を深める有意義なものとなった。
ベサイブに到着後、妻のプリヤと二人で昼食をとり、メイドたちにはお茶を用意してもらってから下がらせてふたりでゆっくりお茶を飲む。
「ひとりでベサイブに残って寂しい思いをさせなかったかな」
わたしが問うと、プリヤは嬉しそうに続けた。
「いいえ、ひとりベサイブに残るのは私が望んだことですし、従者もついています。
ドナルド様の奥様、ステファニア様も街をご案内くださったり、こちらに様々な商人を呼んで初めて見る服やアクセサリーを見せてくださいました。予算内でいろいろと買わせていただいただけでなく、プレゼントもいただきましたよ。皆様からとても良くしていただいております。
お嬢様のマリサちゃんも、素直でとても可愛くて連れて帰りたいくらい」
「連れて帰ってはだめだろう。まあ、楽しんでいたようで何よりだ。」
そう言えば、プリヤは特に子供たち優先で過ごしてきた。
プリヤが「ベサイブにわたしも行きたい」と言い出した時には驚いた。
長男のオルシュと違い、ディーシャはまだ10歳のお披露目も済んでいないし女の子は外に出る機会はあまりない。ディーシャは「勇者物語」を何度も読んでいたので、ここベサイブに連れてくると本人も喜ぶだろうし良い経験にもなるだろうと提案したが、今考えるとディーシャが「勇者物語」を好きなのはプリヤの影響もあったのだろうな。
安全を考えると迷ってしまったが、一緒に来て、プリヤも楽しんでくれていて良かった。
「ところで、マズいことになった。」
私がかしこまると、妻も何事かと表情を少し引き締めたが、笑顔のまま
「どうしました?」
と落ち着いて聞いて来た。
「もう少しで国に帰るだろう?
だが調整することは残っているから文官を2人残す。
それを知ったディーシャがな、『私も残りたい」と言い出した。『わがままだとおもうが、文官の2人が残って秋に戻るまで私もここに居たい』と。『秋までの間、ウチに戻って家で過ごすよりも楽しくてとても勉強になるから』、とな。
そう言いだすかもしれない、とも前々から思ってはいた。
だからディーシャに説明したんだ。実際に数カ月1人で残ると寂しくなるだろうし、たったひとりで残すわけには行かないから護衛のユニカとメイドのシーラも一緒にとどまることとなる。2人は帰りたいかもしれないが、主人のわたしから言えば帰れない。タツミ家も、文官は了承をもらっているが、ディーシャたち3人がこれ以上の長期滞在となると迷惑かもしれない。途中で帰りたくなっても夏は海が荒れるから船は出せない。
それでも残りたいか聞くと、『ユニカとシーラには自分から意思を聞いて、どちらか1人でも帰りたければあきらめる。プリヤから反対されてもあきらめる。タツミ家が少しでも迷惑なら、あきらめる。でも大丈夫ならここに居たい。』そう言われた。」
一息で言い切った。ディーシャと夜中まで話し合った細かい内容を省いてはいるが、伝わっただろう。
「いいんじゃないですか?あなたたち2人が話した条件を満足して、ディーシャが泣き言を一つでも言えば成人までは二度と家から出さない条件も足した上で、それでも意思を通したいならやらせてもいいと思いますよ」
まさかの肯定。
ホントにいいの?わたしはディーシャと離れるのは寂しいぞ。
プリヤは反対してくれると思っていたのに、わたしより厳しい条件を足してむしろすすめてきた。
「わかった。関係者に聞いてみよう。」
務めて冷静に、わたしがディーシャと離れたくない思いを悟られないよう答えた。
でも、プリヤにはバレているだろう。
「宜しくお願いしますね。ところで、人払いをしたからわたしはあちらの話だと思ったのだけれど。」
「ああ、その話か。まだ良くわからんな」
今回の交渉は、出来るだけ少ない人数で若い人選とした。護衛以外の従者も一般兵よりは戦える者を選び、護衛もそれなりの実力者を揃えた。わたしにつける護衛をドーリに決めると、ドーリの実力を知らない者たちは納得しかねる表情を見せた。
ドーリの攻撃は強くないが、守りは剣も魔法も一級品だ。普段の警護や稽古で見せていないのでそれを知らない者が多い。
「まさかドーリがユニカを気にかけているとはなぁ。」
妻に言われるまで全く気付かなかった。
警護中のドーリは配下に不手際があると容赦なく叱責する。ときどきわたしでさえ『もう少し別の言い方は無いものか』と思う厳しい意見をぶつけることもある。それはユニカも例外ではない。
「ドーリはユニカを一番見ていて、一番注意していますよ。
私がドーリに『楽になりなさい』と思いを白状させて、本人にも気持ちを伝えるように言ったんですけど『怖くて言えない。お二人から様子をうかがってもらえませんか』などと言うものですから、あなたにも伝えて一緒にいる時間を増やしてもらってるはずですけど。」
「それも含めて同行者の人数を絞ったのだけどな。ダメだ、相変わらずだな。ユニカはドーリを上司のひとりとしか見ていないよ。こればかりは主人のわたしがごり押ししたところで不幸になられても困るからな。」
「ごり押しは私が許しませんけどね」
妻、怖いことを言う。
「それよりも、ベルンハルトくんの護衛のデカーンのことだが。
一緒にいる時間が長いこともあるのか、ユニカがとても楽しそうに話しているところを何度か見たぞ」
「その話、詳しく聞かせていただきます。」
プリヤが身を乗り出してきたので、いったん落ち着こうと新しいお茶を自分でいれた。




