#17 ユニカ、庭で考える
遠くで休んでいたベルンハルト様とユージ様が近づいて来た。
「おはようディーシャ、ユニカさん」
ベルンハルト様は体が小さく、妹のマリサ様と伸長が変わらない。
対してユージ様は8歳にしては大きく闊達なので、2人が並ぶと自信家の兄とその後ろに控えるおとなしい弟のようだ。先ほどの稽古でも、ユージ様が攻め続けベルンハルト様が受け流す流れが続いた。
「おはよう、ベルンハルト。さっきデカーンさんに聞かれたんだけどね、今日は1日ゲストハウスでお父さまと過ごすつもりでいたんだけど、朝食後にお父さまがドナルド様とベサイブに行ってしまったのよ。
どうしようか考えていたらユニカから『外でパチパチと聞きなれない音がするので行ってみましょう』って言われて来てみたの。」
ディーシャ様の説明に、ベルンハルト様とユージ様が「ああ」と納得したように声を上げてから、竹刀を打ち合ってパチパチと音を鳴らせた。
「この音かな?竹刀はタツミ領以外ではあまり見ないらしいね」
ベルンハルト様に問いかけられるとディーシャ様がこちらを見たので、わたしが答えた。
「そうですね。わたしは初めて見ました。先ほどの稽古を拝見しましたが、良い道具のようですね。」
「わたしもユニカやお父さまから剣の稽古をつけてもらうけど、今はまだ木剣の素振りくらいね。そもそもわたしは剣をふだん持たないから、剣を持つ相手がいたらどうするかの訓練だけどね。」
そんな感じで剣の稽古の話が続く間、会話しながらもわたしはいろいろと考えていた。
昨日の話では、今日はアレックス様とディーシャ様はゲストハウスで過ごし、ニール様は村を案内してもらう予定だった。ニール様の護衛以外は交代で休むはずだったのが、アレックス様が朝食の席で『予定が変わった』と言い出した。
『皆で移動ですか?』と聞くと『わたしだけだ。ニールとディーシャはここに残る。明日には戻るつもりだが、明日戻れなくなれば連絡する。』と、執事と護衛を一人ずつ連れて行ってしまった。
護衛はドーリを置いて行った。あいつを連れて行けばいいのに。
アレックス様が突然予定を変えることはあまりない。
交渉のことなら、ニール様と突然別行動をするのはおかしい。
まさか、ベサイブにひとり滞在しているプリヤ奥様に何かあったとか。
うん、わからないことを考えていてもしょうがないな。
なんて一人で考えていると、いつのまにか話題は子狼に移っていた。
ディーシャ様だけでなく、ここで会う子どもたちもしっかりしているが、ときどき目まぐるしく話題が変わるのが子供っぽくて微笑ましい。
デカーン殿も、にこやかに子どもたちを見ている。
エイバラーン王国に入ってタツミ領に上陸してから、ディーシャ様がベルンハルト様と行動を共にすることが多く、ベルンハルト様にはデカーン殿が付いていることが多いので、自然と長く一緒にいるな。
たぶん、腕は立つと思う。
わたしと違って聞かれたことにだけ答え、自分から話すことは無い。
紹介されたときに家名は名乗らなかったので平民だと思うが。
話し方などが平民らしくないのは、大店の商家の出か、元は高位の冒険者か、ここタツミ領でよほど鍛えられたか。
謎だ。
帰るまでに正体をつかむのも面白いかもしれないな。
「この子たちの名前は決まったのですか?」
ああ、また自分から話してしまった。
デカーン殿のように護衛らしくしなければ。
「オスはジャンゴ。でもメスが思いつかないんだよね。」
「ジャンゴか。いいな、勇ましくて。」
ベルンハルト様にユージ様が同意した。
「女の子の名前かぁ」
シェイラ様も一緒に悩んでいる。
名前ねー、名づけなんて考えたことがなかったから思いつかないわ。
「マーヤ、ってどう?」
ディーシャ様の提案に、皆が肯定的な笑顔になった。
「でも、わたしの意見でいいのかな?」
「大丈夫ですよ。子狼たちはベルンハルト様に任されていますから。」
ディーシャ様が少し不安気に聞くと、デカーン殿が肯定してくれた。
デカーン殿は話し方が穏やかで、聞くと落ち着くいい声なのよね。
。。。モテるのかな。
「ジャンゴとマーヤで決まりだ。ディーシャ、ありがとう。みんなも一緒に考えてくれてありがとう」
幸せな時間が流れていると、自分の使命を忘れそうになるな。わたしは護衛なのに。
たった数日だけど、この人たちを信用してしまう。
甘いなぁ。
それから男性3人は「着替えてくる」と席を外してしまった。
シェイラ様をひとり残して。
シェイラ様はわたしと同じ男爵家の娘だ。わたしも四六時中、専属の護衛がついた身分ではないが、さすがに成人まではひとりでの行動は許されなかった。ここがそれだけ安全ということだろうが、わたしたちも信用されたものだな。
「ねぇディーシャ、今日はこれから何しようか」
「うーん。あ、砂浜を走ってみたい。昨日は海と砂浜を見ただけだったけど。スーパーリヤカーもまた見たいし。あとは技術街にも行ってみたい。スーパーリヤカーみたいなものが他にもあれば見てみたいし。」
スーパーリヤカー。あのような魔道具が他にもあるならわたしも見てみたいな。
技術街と言う名前から、多くの技術者がいろいろなものを作ってそうだ。
ベルンハルト様たち3人が戻ってきたので希望を伝えると
「ユニカさん、すみません、午後は兄上と約束があってぼくは行けません。
みんなはジャンゴとマーヤを連れて行ってあげて。
デカーンは案内役を頼めるかな?」
ベルンハルト様は、自分が別行動なのが残念そうに2匹を見た。ディーシャ様も、一瞬悲しそうな顔をしたが、
「ジャンゴとマーヤのことはまかせて」
と、いつもの笑顔で答えていた。




