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#16 剣の稽古

朝。子狼の部屋に一番乗りした。


今日は1日、大人たちの交渉も休みで、ぼくも家でのんびり過ごすつもりなので、

デカーンには休んでと言ったんだけど


「久しぶりに剣の稽古をしましょう」


と言われてしまった。

しばらくしていなかったので、そろそろ言われそうだと思っていたから休んでほしかったのがバレバレだったようだ。やるな、デカーン。


1mくらい離れて子狼たちをじっと見ていると、1匹がもぞもぞと動き出した。

ちょっと元気になってきたかな。

まだ目が明いていないようだし立ち上がれてもいないけど、ウミガメが砂浜を進むように足を左右に広げて漕ぐようにゆっくりこちらに向かって来た。そしてサンダル履きのぼくのつま先に鼻をつけて止まった。

ヤバい、可愛い過ぎる。

あれ?

「もうひとつの記憶」と繋がった。たぶん、ベルヴェルート叔父さんが言ってたヤツだ。

前世で見たり聞いたり経験して強く心に残ったここと、今の人生で似たような経験をするといろいろ思い出すって。

この子たちとも仲良くなれるといいな。




朝食後、デカーンに少し遅れてユージとシェイラが来たので、剣の稽古にユージも巻き込んだ。


タツミ領の兵は領内出身者が多いけど、デカーンは飛竜部隊で有名なシャムーコリ州の出身だ。冒険者をしつつ腕を磨いて、ある商人の警護の仕事でケンドリック州の州都まで来た。

州都に到着して警護の仕事も終わり、商人と久しぶりのお酒を飲んでいたお店でベルヴェルート叔父さんと会った。デカーンはぼくと同じく人見知りなのに叔父さんとは馬が合ったらしく、そのまま一緒にタツミ領に来て、なんだかんだでここの兵に成り、ぼくの護衛に付いたらしい。

その「なんだかんだ」は教えてもらえていない。


剣の稽古は竹刀(しない)を使う。竹刀は初代様こだわりの出来らしい。

小学校の1年から木刀の使い方を習い始め、3年からは真剣も使う。兄上は時々、木刀で素振りしている。

屋内の稽古場を使うこともあるが、今日は庭に出た。

始めにストレッチ、少し走ってまたストレッチ、それから竹刀を持って素振り、木の人形に突いたり切ったりの練習、魔道具として強化された革製の防具をつけて突きと首から上への攻撃を禁止した打ち合い稽古、最後にまたストレッチ。


デカーンは、この稽古の流れをタツミ領に来てから知ったらしい。

シャムーコリ州では竹刀も無いし、ストレッチもほとんどしないとか。


稽古が終わり、疲れて芝生に座り込んだ。

デカーンの視線の先を追うと、遠くに子狼を置いた横にシェイラがいてぼくらの稽古を見ていたが、いつのまにかそこにディーシャと護衛のユニカさんが来ていた。

デカーン、見すぎだよ。


「デカーン、今日はお休みのはずなのにどうしたのか聞いて来てくれる?」


デカーンはぼくに目礼してから、少し軽やかな足取りでユニカさんのもとに向かった。


「春だねぇ」


「お前もな」


ぼくの感想にユージが突っ込む。

うん、認めるよ。ぼくも春だよ。


「ユージやシェイラだけでなく、村のみんなと一緒にいると楽しいよ。だけどディーシャとはまた楽しさが違うんだよね、なんでだろうな。あの笑顔を見ているとイヤなことも忘れるし」


「ごちそうさま。だけどもうすぐ帰っちゃうんだぜ」


うん、それも知ってる。

夏に海が荒れる前に、うちの船団がディーシャたちを送って戻ってこなければならないから、そんなに先でも無いんだよな。それを思うと悲しくなるから考えないようにしてたのに。ユージめ。


「ところで、昨日、兄上にぼくとユージのことを話したよ」


「そうか」


ユージには、それだけで伝わった。

ここ造船村では砂浜が子供の遊び場のひとつで、ユージは砂浜で良く合うひとりだった。なんだか気が合って、周りが見たら「なぜ?」ってわからないようなどうでもいいことでも2人でよく笑った。しばらくしてからユージも貴族の子と知った。

ある時、ユージが


「お前さ、おとなも知らないようなことを思いついたり知ってたりすることないか?」


と聞いてきた。

びっくりした。

そのとき、お爺さまと叔父さんは村に居なかったけど、ちょうど帰ってきていた父上のところに連れて行って3人で話した。

ユージには、2才くらいからの記憶があって、ここの言葉を覚える度に日本語があふれてきて大変だったそうだ。なんとなく、日本語を話したりまわりの子が言わないような話をしない方がいいと思って、5才くらいまでは出来るだけ喋らないようにしていたから、ぼくと気があって話していた間は「ストレスはっさん」ってヤツだっだらしい。

6才に成って、ぼくと話しているうちになんとなくぼくのことも他の子と違う、自分と同じかもしれないと思い試しに聞いてきたんだそう。

父上はユージの話を全て聞いてから、他のことは言わずにぼくのことだけ転生者だと教えた。ユージもそうだろうと。そしてその事がタツミ領以外の人に知られると家族も含めて命を狙われたり、ユージの知識を利用しようと連れ去られる可能性もあったりと危険なので、家族も含めて誰にも言わないように言った。

ユージがおとなに成って自分で判断できるときが来たら、知らせたいと思うひとに教えてもいいし、ここ以外でやりたいことがあればこの村を出てもいい。

それまでは体を鍛えて勉強を頑張れ、と。


実際、ユージはとても頑張っている。

ぼくらより3才年上の兄上より体は大きいし剣も強い。知ることが楽しいと勉強もよくしている。ぼくがユージに勝てるのは魔法くらいだ。ぼくとユージは貴族の子なので、村の他の子たちのような毎日の家の手伝いが無いだけ有利だけど、たぶんそれでも同年代の中でユージは一番すごいと思う。



「まあ、フィリップ様に知られたことよりも、お前とデカーンさんの事の方が気になるけどな」


通常運転のユージだった。

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