#13 ラウンジ会の、その後で
夜間の当直。
あれからアレックス様、ディーシャ様ともに就寝された。
お二人がそれぞれ休まれている部屋の間の部屋で、ドーリと宿直だ。
ドーリ・ソルベラ。ソルベラ伯爵家の三男で、普段から隊長たちと交代でアレックス様を護衛するひとりだ。今回の交易交渉では単独でアレックス様の護衛を任された上に護衛の臨時隊長でもある。
正直、ドーリが来るとは思わなかった。
剣のみの稽古ではわたしより弱いし、攻撃魔法も得意ではない。
口も悪いし目つきもよろしくない。
他に尊敬できる先輩方が多くいる中での彼の着任には疑問だった。
今回、宿直の人数はいつも2人で、護衛が少ないので文官やメイドにも混ざってもらってローテーションしている。ゲストハウスの横に建つ小屋にはタツミ家の護衛も詰めてくれているが、こちらの護衛を外すわけには行かない。
プリヤ様がひとりベサイブに残ると聞いた時、我々は反対したが、「大丈夫よ」と押し切られた。今でも心配だ。
タツミ領に来てからは一度野盗を見ただけで、それ以外は問題ない。
むしろ安全過ぎて、初めて訪れる外国という現実を忘れそうになる。最悪は騙し討ちで全滅、その国の混乱に巻き込まれるなどの可能性を考えながら行動するのが普通だ。
「ユニカ、お前は毎日が楽しそうだな」
こいつに言われると、なんかイラっとする。
確かに楽しいけど。
毎日、新しい経験があって、ディーシャ様はいつも楽しそうで、実戦は一度もない。
こんな護衛任務は初めてだ。
でも、イラっとする。
「ドーリこそ、口を開けっ放しで周りを見回したりニヤニヤしたり大笑いしたり、護衛中のそんな姿は今まで見たことないわよ」
ドーリの方がわたしより、たしか4つくらい年上だけど、隊では隊長と副隊長以外は敬語や敬称などは不要で、イレギュラーに王族などが隊員として来ない限りは皆がこんな感じだ。
「そ、そうか?それはマズいな、これから気を付ける。」
そうしてくれ。同僚がバカっぽいのは恥ずかしいから。
「それより、護衛任務が楽しいっておかしくないか?タツミ領はおかしいぞ」
わたしにも掴みどころのない違和感はあるけど、おかしいとまでは。
わたしが思いあぐねていると、ドーリは続けた。
「我が国の王宮並みに安全なんだよ。王都じゃない、王宮。
もちろん王都もまわりの街に比べたら安全だが、王都には犯罪者も入ってくるし、スラム街もある。もしディーシャ様が王宮の庭を散歩したいと言ったらお前ひとりでも許可されるだろうが、王都を散策したいと言ったらアレックス様は許さないだろうな。百歩譲っても護衛を10人は付けるだろう。
それがタツミ領では、お前ひとりを付けて街にも村にも出した。
お前の信用もあるだろうが、そこまでアレックス様は信用したんだよ、タツミ家を。」
お前が「お前、お前」言うな。
「港町ベサイブに到着した日、俺が夕食の時間まで居なかったのを知っているか?」
「知ってるよ」
もちろんだ。ただでさえ少ない護衛が減ったんだ。ドコ行ったあのバカ、と心の中で罵ったことも覚えている。
「ひとりで街を見たんだよ。あっちの兵士が3人付いてきたけどな。
よその船の荷や人が、港から街に入るルートの検問は厳重だったな。
隣の領地と結ぶ街道にも、似たような検問があるらしいぞ。
街道以外は険しい山に囲まれて、街には出てこないが奥には魔獣が多くいるらしいから、よっぽどの実力者や軍隊でなければこちら側に来れないそうだ。フルーツ売りのおばちゃんに聞いた。
だから、あの野盗はずいぶんなイレギュラーらしいな。今、領主の次男が調べてるとさ。
野盗が現れた時もな、俺は音に気付いたんで、お前たちがアレックス様たちのそばにいたのを確認してから対応しようと行きかけたんだ。それが馬車の死角を超えたらもう終わってた。いくら魔獣に追われてへろへろになった野盗とは言え、8人を瞬殺だぞ、殺してないけど。
捕まえた側の兵士は一般兵だそうだ。任務ごとに「護衛隊」とか、編成するらしい。お前なら3対1でも勝てるだろうが、俺には無理だな。だから初日に見張りで3人付けられたんだな、ってあの時思ったよ。
万が一、この国に到着してからアレックス様たちが害されそうになっても、アレックス様の戦闘力に俺とお前が居れば、船を奪うなり山に潜るなり、トラキラギア連合国まで行けるだろうと思っていたが、今は簡単じゃないと思っているよ。
まあ、今のところは良好な関係だけどな」
なぜ、こいつが護衛に選ばれたのか。
こいつは立場は護衛だけど、アレックス様がこいつに求めているのは諜報とか分析の能力なのかも知れないな。
今回の従者は文官もメイドも全く戦えない者は一人もいない。
今まで深く考えなかったけど、アレックス様は状況毎に対応できる人選をされていたのだな。
「ああ、ところで、お前は今まで通りでいいぞ。せっかくディーシャ様とベルンハルト様があれだけ仲良くなられて、他にも友人が出来たんだ。深読みしたりタツミ家から警戒されるのは俺だけでいいからな。」
だから「お前」言うなって。
「そうさせてもらうよ。
話はこれくらいにしてドーリが先に寝ていいぞ。わたしは明日の午前中、半休だからな」
そう言って先に寝ようとしたが、いろいろ考えすぎて全く眠れなかった。




