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#12 夕食会の、その後で

久しぶりにナーグドラ王国側とエイバラーン王国側が集まっての夕食会。

造船村の小学校に通っているタツミ家の次期領主ドナルド様の嫡子、フィリップ様が紹介された。


「この夕食会の主役はフィリップ様」と、ディーシャ様も自分からの発言を控えていた。


わたしは男爵家の次女だが、ディーシャ様と違い10歳のお披露目までは他家との交流は無かった。お披露目の交流会以降、大人たちから何か聞かれてもどう答えていいかわからず黙ってしまったり、しゃべっていると母が口に指をあてて「今はあなたが話す時間ではありませんよ」とサインを送ってきたり。

でも成人前の子どもはこんなもの、しょうがないと思っていた。


ナーバダ公爵家に仕え、ディーシャ様の護衛を任された。

わたしの立場ではとても幸運ではあるが、当時のディーシャ様はまだ6歳で、高位貴族のお嬢様に短気なわたしがどこまで我慢できるか不安だった。けれど見た目の可愛らしさだけでなく素直なディーシャ様のことを初対面から好きになった。

わたしはいつも彼女のそばに付き、時には剣や魔法を教えた。


四六時中、付き従っていると心からの笑顔とそうでないものがわかるようになった。まわりに気を使った笑顔。


「わたしと2人だけの時は、我慢しないでなんでも話してくださいね」


そう伝えてから「あれは楽しかったけどこれはイヤだった」と、言ってくれるようになった。とても口には出せないが、21歳のわたしを「何でも話せる親戚のお姉さん」くらいに思ってくれていたら嬉しい。21歳はオバサンでも行き遅れでも無い。断じて無い。相手はいないがわたしの王子さまはいつでも募集中だ。


話が逸れた。


ここ、エイバラーン王国のタツミ領に来てからは、ディーシャ様の「気を使った笑顔」を見ていないと思う。

「勇者物語」で読んだ港町ベサイブに行けるとなった時から、はじめて乗る大型船での船旅、見た限りはほぼ全ての道が舗装されて整然としたタツミ領の街並み、貴族に限らず市井の人々も優しく接してくれる。はじめて見る魔法に高性能な馬車、半自動化されたリヤカー。狼の子ども。

何よりベルンハルト様たち、友人ができた。

この1カ月にも満たない期間は、ディーシャ様が心からの笑顔を絶やさない日々となっている。

わたしは自分も楽しんだ上に喜ぶディーシャ様を見れることで2倍の幸せを感じている。


本来これは貿易交渉で、国家間の一大プロジェクトなのだが。




そんなことを考えていると、アレックス様がディーシャ様に火をつけてしまった。


「ディーシャ、狼を連れて、みんなで砂浜に行ったんだって?

 狼はまだ歩けないだろう、抱いて行ったのかい?」


「スーパーリヤカーの快適くん23号に載せて行きました」


「スーパーリヤカーの快適くん23号?」


アレックス様のオウム返しを聞いたのは初めてかもしれない。

火が付いたディーシャ様は止まらない。

23号の素晴らしさを語り、帰りには数メートル運転したり乗ったりしたが、今回の交易で一番楽しい乗り物だった、と。リヤカーは貴族の乗り物ではない。

まくし立てたディーシャ様に引くアレックス様。自分で聞いたくせに。




夕食会の後はゲストハウスに戻り、ナーグドラ王国側の、従者も含めたほとんどでラウンジに集まった。


「お父さま、さっきは調子に乗って話し過ぎてしまいました、ごめんなさい。」


ディーシャ様が反省しているとアレックス様が


「いいんだよ、今日の夕食会の主役はフィリップ君だとわかっていたから、あのあとフィリップ君に話しかけたのだろう?わたしも話題の振り方が悪かったと反省しているよ。」


と続けてから話題を変えた。


「ニール、ここまでは大筋で良い交渉が出来ていると思うが、きみはどうだ?」


「そうですね。細かい調整内容もアレックス様とわたしの文官の報告では、どちらの国にも利益があると思います。ただ、海が荒れる夏前に帰国となると時間が足りません。大筋合意までは持っていき、帰国後にアレックス様とわたしで王に報告、わたしが秋の交易船に乗せてもらい再入国し、大使としてエイバラーン王に謁見、それまで文官2人にはここに残って調整を続けてもらうつもりです。」


ニール様の報告に、文官の苦労がうかがえる。


「あの2人には申し訳ないが、頑張ってもらおう。疲れが見えたから先に休ませて正解だったかな」


アレックス様が自嘲気味に笑うとニール様も笑った。


「ははは、疲れていましたね。ですが2人に礼を言われましたよ。確かに我々の帰国までは時間が無く大変だけど、その後2人に決定権は無いので、これまでの宿題と今後予想される内容をまとめる仕事量を考えれば、むしろ長期休暇を約束されたのだと。

代表の我々はともかく、従者は冷遇されるのではないかと心配もあったそうです。

2人とも、トラキアギア連合国で嫌なことがあったそうで。

しかし蓋を開けると好待遇で、気づけばこちらのメイドにあちらのメイドがついている。

大きな声では言えないが、むしろ交渉の場がここでよかったと。我々ではここまでもてなせなかったのではないか、と言われて笑ってしまいました。」


「けしからんヤツらだ。まあ今回は皆が次につながる経験ができて良かったということにするか」


けしからんと言いつつ、アレックス様はとても嬉しそうだ。

アレックス様の横に座るディーシャ様が一瞬、何か悪だくみを思いついたような表情になったのが気になった。

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