#10 ユージとシェイラ
何度読んでも初代の日記は途中でときどきふざけるから「悲壮感」が無いんだよな。
本人は表紙に筆書きで「辰巳家初代の記録」なんて書いてるけど、これは日記だよ。
ピクニックのノリで魔獣狩ったり、ドラゴンと仲良くなってたり。
無理に書かなくてもいいのに、って内容がときどきある。
まあ、そんな記録を残してくれたから、今回のように気持ちが不安定になった時にこれを読むと落ち着くし、レオニードさんが実は長命の吸血鬼って知れたし。
情報の宝庫、「日記」。
初代が最初に開拓したのがこの造船村で、この屋敷の地下に一族しか入れない書庫がある。
最初の日記が書かれたのが190年前なのに、日記は保存の魔法で新品同様だし、
地下室もたぶんここの結界が世界最強じゃないか?ってくらい外界と遮断されている。
音もしないから気を付けないと朝入って出たら夜だったこともあった。
地下室を出て、2匹のグレイウルフがいる部屋に向かう。
部屋ではデカーンが迎えてくれて、獣医のトースガー先生と助手のパッシモーネさんは自分と交代で寝た、と教えてくれた。
2匹のそばにはしゃがんでのぞき込んでいる子供がふたり。
「おはよう、ベルンハルト、可愛いね。あ、ベルンハルトじゃなくてこの子たちが」
ときどき言い回しが不思議でとっちらかってしゃべることがある、ペレッカ男爵家の長女、シェイラ。
「よう、ベルンハルト、可愛いな。グレイウルフが。」
いつもシェイラをおちょくりつつ、ぼくもついでにからかってくるテイラー子爵家の次男、ユージ。
こいつら、ぼくと同じ8才なのに生意気なんだよ。
だから気が合うのかもしれないけど。
ペレッカ男爵家は、ここ造船村で魔道具職人を代々取り仕切る一族。
テイラー子爵家は、同じく造船村で船大工の棟梁一族。
「野盗が出たって?昨日はずっと守備隊が巡回していてお祭り騒ぎだったぞ。
お前が倒したのか?」
「ぼくの訳ないだろ?護衛隊が瞬殺してたよ。あ、殺してないよ、捕まえて取り調べるって。
その後、どうなったか聞いてる?」
ぼくはまだその後を知らないのでユージに聞いてみた。
「サカナ村で取り調べたら、ヤツらが現れた山のてっぺんで熊に襲われたんだと。
その前は、それより西側でグレイウルフの死骸を見つけ、子どもが3匹いたから確保して
『まだ何かあるかも』って色気を出して山頂に行ったら熊がいた、と。
で、8人はこっちに向かって捕まったけど、違う方向に逃げたのが5人いて
そいつらのうちの一人がもう1匹のグレイウルフを抱えて逃げたけどどうなったかは知らない、と。
もともとはその向こうにあるケンドリック州の村を襲った流れで入山したんだと。
だからまだ入山した13人以外が近隣の村を襲うかもしれなくて、
ベルヴェルート様が1部隊率いてケンドリック州に向かったのが昨日の夕方。
オレが知ってるのはここまでだよ。」
「いつも迅速な情報、ありがとう。」
ユージの父、テイラー子爵は造船村の代官だから情報の共有は早いし、ユージにもちゃんと教えてくれるから子ども同士も情報の伝達が早い。
「まあ、野盗の言うことなんか鵜吞みに出来ないけど、その通りならタツミ領はいつもの警戒態勢で良くて、おじさんが向かった先に野盗がいるなら同情するな。」
ベルヴェルート・バーライン・タツミ子爵は、お爺さまの次男でぼくのおじさん。
世間では「大魔導士」なんて言われているけどぼくに言わせれば「魔法バカ」。
トリッキーな魔法開発が大好きだからか、ベサイブの街のバーのマスター、レオニードさんとは仲良しだ。
冒険者をやらせたりしたら強力な攻撃魔法を開発しまくりそうだから、王が「もう少しおちつきましょう」と通知表に書くように叙爵した。
その話をきいたユージからは「おまえも子爵になりそうだな」なんて言われた。不本意な。
そんな話をしていたら、部屋にディーシャ、トースガー先生、パッシモーネさんが入ってきた。
トースガー先生は2匹を診てから
「大丈夫そうだね。しばらくは日に1回、僕かパッシモーネが来るから。緊急の時には呼んでください」
そう言って、トースガー先生とパッシモーネさんは部屋を出た。
「ディーシャ、2人は初めて?」
とぼくが聞いたら、ユージが小声で「もう呼び捨てかよ」なんて言ってやがる。
「もう挨拶は済ませたわよ、ね?シェイラ、ユージ」
それからディーシャと2人の間にも、「砕けて話そう同盟」は成立した。
しばらく4人でしゃがんで2匹を見ながら、デカーンの「獣 豆知識」を聞いた。
子どものころから育て、人と共存した例は多い。
おとなの大きさになるまで1年、4ツ足立ちで今のシェイラより背が少し高いくらい。
性格がおとなになるのは2年くらい。
夜目が利く。
ほとんど吠えない。
「ただ、この頭から尻尾に走る青黒いラインは初めて見ました」
「デカーン、詳しいね」
飼っていたひとを何人か知っているそうだ。
「ここで飼えるかな」
「この村なら大丈夫でしょ」
ぼくの問いにシェイラが答えてくれた。




