新しい同居人
三題噺もどき―さんびゃくごじゅうろく。
少し離れたキッチンで、ケトルのぐつぐつという音がしている。
少し前まではひんやりとしていた部屋は、同居人の為に温かくなった。
……ホットカーペットってこんなあったかいんだなぁ。
「……」
10月も残り半分となった。
秋も通り過ぎて冬なのではと思えるほどに寒くなる日々だ。
昼間は少し汗が滲むが、朝晩は冷え込む。
その上、この周りは高めの建物ばかりがあるせいで、日差しが入りにくい。夏場は涼しかったりでちょうどいいが、冬はどうしたって寒い。
「……」
今度、炬燵でも探しに行こうかなぁ……とぼんやりと思いつつ。
正直金銭的な余裕はないが、同居人の事を思えばそうも言っていられない。
過保護かどうかは分からないが……あの寒さを覚えてしまった彼女には。
「……ね?」
まだまだ、サイズの合わない大き目のクッション。
少し前には考えられなかったような大胆な格好で眠っている。
女の子としてそれはいいのかと思いつつも、まぁ、彼女が幸せならそれで。
「……」
さらりと撫でると、少し反応はするが、起きる気配はない。
ぷすぷすと不思議な音を立てながら眠る彼女。
少し前からやってきた我が家の同居人。
「……」
小さな体で。
夏日が続く中、ようやく秋めいてきたかと思い始めたあの日。
とてつもなく冷え込んで、奥から冬服を引っ張り出したぐらいに寒かったあの日。
懸命に鳴いて、生きようと藻掻いていた仔。
「……」
あのひ、珍しく残業もせずに、早めに帰路についた日。
薄暮の町を歩きながら、冷え込んだ空気に身を震わせていた。
さっさと帰って風呂にでも入って寝ることにしようと足早に。
「……」
毎日横切る公園に入る。
昼間は親子連れがよく遊んでいたり、夕方ごろになるとそこに小学生も混じって遊んだりしている。
暗くなるのが早くなったせいか、今日は人の影は見当たらない。
寒さも相まって、いつも以上にがらんとして見えた。
「……」
いつもならわき目もふらず、さっさと抜ける公園を。
なぜか少しスピードを落として歩いた。
寒いから早く帰りたいのに、その思いとは裏腹に足はスピードを落とした。
―それがなぜだったのかは全く分からない。職場からここまで速足で来ていたせいで疲れたのか。それとも人1人いない公園に何かを覚えたのか。
「……」
歩き進めていくうち、公園の端、出入り口の方に差し掛かる。
その周りに明日低木の茂みの中に、白い塊があるのが見えた。
普段なら、どうせ誰かが捨てたのだろうと、何も思わず通り過ぎるはずなのに。
この日は、なぜか、ふと、気になった。
「……」
よく見れば、それは小さな空き箱のように見えた。
中身は何かは全く見当もつかなかったが、こんな茂みにわざわざ置いてあるのだから、見られたくないものでも入っているのだろうかと、的外れなことを思いもした。
やはり、何でもないのか、と帰路を急ごうとしたところ。
―視界の隅で、その空き箱が幽かに動いだのだ。
「……」
気のせいかと思いなおした次の瞬間に。
その空き箱の中から、小さな声が聞こえた。
か細く、耳をそばだてないと聞こえないような。
いつもの通りに公園が賑やかであれば気づけないような。
強風が吹いていれば飛ばされそうな。
小さな、小さな。
「……」
咄嗟に箱手を伸ばした。
そこには確かな重さがあり、空き箱なんかではなかった。
閉じられた蓋を開ける。
―そこに、小さな仔猫がいた。
「……」
それから、急いで近所の病院に駆け込んだ。
幸いというか……実家での経験もあってか、迎え入れることに抵抗もなければ、不都合も何もなかった。
もちろん、仔猫は初めてだったので、獣医からの助言は頂いた。
「……」
その後。
特に病気にかかることもなく。
大きなけがもなく。
弱っていた体もしっかりと回復していき。
今では、こんなに、大胆な寝相をさらしている。
「……」
まだまだ幼い子の同居人は、あの寒さを忘れて、今のぬくもりに甘えてくれているだろうか。
また一人になるかもしれないと怯えて居ないだろうか。
もう空腹に鳴くことはないと安心してくれているんだろうか。
「……」
残念ながら、彼女の言葉は分からない。
きっとこちらの言葉も思いも伝わりづらいだろう。
それでも、今を享受してくれているのだから、それが答えなのかもしれない。
「……」
これから、1人と1匹。
どんな生活が来るのか、楽しみになってきた。
まずは、炬燵を買わないとなぁ。
お題:薄暮・仔猫・空き箱




