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三題噺もどき2

新しい同居人

作者: 狐彪
掲載日:2023/10/16

三題噺もどき―さんびゃくごじゅうろく。

 


 少し離れたキッチンで、ケトルのぐつぐつという音がしている。

 少し前まではひんやりとしていた部屋は、同居人の為に温かくなった。

 ……ホットカーペットってこんなあったかいんだなぁ。

「……」

 10月も残り半分となった。

 秋も通り過ぎて冬なのではと思えるほどに寒くなる日々だ。

 昼間は少し汗が滲むが、朝晩は冷え込む。

 その上、この周りは高めの建物ばかりがあるせいで、日差しが入りにくい。夏場は涼しかったりでちょうどいいが、冬はどうしたって寒い。

「……」

 今度、炬燵でも探しに行こうかなぁ……とぼんやりと思いつつ。

 正直金銭的な余裕はないが、同居人の事を思えばそうも言っていられない。

 過保護かどうかは分からないが……あの寒さを覚えてしまった彼女には。

「……ね?」

 まだまだ、サイズの合わない大き目のクッション。

 少し前には考えられなかったような大胆な格好で眠っている。

 女の子としてそれはいいのかと思いつつも、まぁ、彼女が幸せならそれで。

「……」

 さらりと撫でると、少し反応はするが、起きる気配はない。

 ぷすぷすと不思議な音を立てながら眠る彼女。

 少し前からやってきた我が家の同居人。

「……」

 小さな体で。

 夏日が続く中、ようやく秋めいてきたかと思い始めたあの日。

 とてつもなく冷え込んで、奥から冬服を引っ張り出したぐらいに寒かったあの日。

 懸命に鳴いて、生きようと藻掻いていた仔。

「……」

 あのひ、珍しく残業もせずに、早めに帰路についた日。

 薄暮の町を歩きながら、冷え込んだ空気に身を震わせていた。

 さっさと帰って風呂にでも入って寝ることにしようと足早に。

「……」

 毎日横切る公園に入る。

 昼間は親子連れがよく遊んでいたり、夕方ごろになるとそこに小学生も混じって遊んだりしている。

 暗くなるのが早くなったせいか、今日は人の影は見当たらない。

 寒さも相まって、いつも以上にがらんとして見えた。

「……」

 いつもならわき目もふらず、さっさと抜ける公園を。

 なぜか少しスピードを落として歩いた。

 寒いから早く帰りたいのに、その思いとは裏腹に足はスピードを落とした。

 ―それがなぜだったのかは全く分からない。職場からここまで速足で来ていたせいで疲れたのか。それとも人1人いない公園に何かを覚えたのか。

「……」

 歩き進めていくうち、公園の端、出入り口の方に差し掛かる。

 その周りに明日低木の茂みの中に、白い塊があるのが見えた。

 普段なら、どうせ誰かが捨てたのだろうと、何も思わず通り過ぎるはずなのに。

 この日は、なぜか、ふと、気になった。

「……」

 よく見れば、それは小さな空き箱のように見えた。

 中身は何かは全く見当もつかなかったが、こんな茂みにわざわざ置いてあるのだから、見られたくないものでも入っているのだろうかと、的外れなことを思いもした。

 やはり、何でもないのか、と帰路を急ごうとしたところ。

 ―視界の隅で、その空き箱が幽かに動いだのだ。

「……」

 気のせいかと思いなおした次の瞬間に。

 その空き箱の中から、小さな声が聞こえた。

 か細く、耳をそばだてないと聞こえないような。

 いつもの通りに公園が賑やかであれば気づけないような。

 強風が吹いていれば飛ばされそうな。

 小さな、小さな。

「……」

 咄嗟に箱手を伸ばした。

 そこには確かな重さがあり、空き箱なんかではなかった。

 閉じられた蓋を開ける。

 ―そこに、小さな仔猫がいた。

「……」

 それから、急いで近所の病院に駆け込んだ。

 幸いというか……実家での経験もあってか、迎え入れることに抵抗もなければ、不都合も何もなかった。

 もちろん、仔猫は初めてだったので、獣医からの助言は頂いた。

「……」

 その後。

 特に病気にかかることもなく。

 大きなけがもなく。

 弱っていた体もしっかりと回復していき。

 今では、こんなに、大胆な寝相をさらしている。

「……」

 まだまだ幼い子の同居人は、あの寒さを忘れて、今のぬくもりに甘えてくれているだろうか。

 また一人になるかもしれないと怯えて居ないだろうか。

 もう空腹に鳴くことはないと安心してくれているんだろうか。

「……」

 残念ながら、彼女の言葉は分からない。

 きっとこちらの言葉も思いも伝わりづらいだろう。

 それでも、今を享受してくれているのだから、それが答えなのかもしれない。

「……」

 これから、1人と1匹。

 どんな生活が来るのか、楽しみになってきた。

 まずは、炬燵を買わないとなぁ。






 お題:薄暮・仔猫・空き箱


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