序幕
村外れにある小さな家には新婚の夫婦が住んでいた。
裕福とは言えなかったが、何事も夫婦で力を合わせ乗り越え、2人は幸せに暮らしていた。
そんなある日の夕暮れ時のこと。
柴刈りから帰ってきたトビは家の戸の前で急に立ち止まった。
その瞬間、トビの目の前をクナイが横切る。もう半歩進んでいればクナイはトビの命を奪っていただろう。
それでもトビが動揺することはない。
背負っていた薪を急いで下ろしたトビは、家の前に立て掛けてあった鍬に掴もうとする。しかし、そんな間もなく1人の男が短刀で斬りかかった。男の左の頬には口が裂けた傷跡がある。
トビは仕方なく胸元に隠していたクナイを両手に持って応戦した。
その最中、家の中から1人、屋根の上から1人、背後から2人の合計4人による奇襲がトビを襲う。
服装もトビとさほど変わらない5人だが、人間離れした身体能力と反応速度で戦闘を繰り広げる。
5人に囲まれたトビは、一人ひとりを睨みつけながら口を開く。
「サギはどうした?」
口元に裂けた跡がある男が答える。
「ユウカゲ達がもう始末してる」
5人の攻撃がより激しくなった。
多勢に無勢。
トビには反撃する隙も与えられないまま、疲労と切り傷が増えていく。
しばらくすると、口元に裂けた跡がある男がトビの胸元に短刀を突き刺していた。
「とんだ愚か者だな。お前達は」
息も絶え絶えにトビが口を開く。
「お前こそ、お前こそただの犬だろ。シュラ」
「そうじゃなきゃ生きられねぇ」
そう言ってシュラはトビに刺さった短刀を抜き、トビの首元に刃を当てる。