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春を愁う

作者: 夏雪足跡

こんにちは。作者の夏雪足跡です。まずは、作品を閲覧してくださり、誠にありがとうございます。

なるべく早く更新していきますがなにぶんしがない学生ですので、作品の更新が遅くなるかもしれません。すみませんがご了承ください。では、存分に作品をお楽しみください。改めて作品を閲覧してくださり本当にありがとうごさいます。感想お待ちしております!

 「大嫌いだ」

 こんな退屈な世界なんて消えてしまえばいい。ずっとそう思っていた。変わらぬ日常、くだらないクラスメイトの笑い声、すべてが空虚な無駄の産物としか思えなかった。あの日までは。

女子高生の橋本楓は「生活」が嫌いだった。毎日毎日同じことの繰り返しで何も変わらないことが嫌だったのだ。いつも通り朝起きて、制服に袖を通し、いつもと同じ時間の電車に乗る。くたびれたサラリーマンや、朝早くから電車に乗っている老人、月一で優先席に座っているのを見るおなかの大きな妊婦さん。今日も今日とてすべてがいつも通り。むしろこの普遍さに感嘆の意さえ彼女は抱いていた。

高校の最寄り駅で降りて、片耳にイヤホンジャックをつける。これも、いつも通りのこと。

学校では仲のいい女子たちが固まって、イケメンアイドルの話をして、男子は深夜まで夜更かしして行ったであろうゲームの話で盛り上がる。こんなありふれた風景を私は一人、窓際の自分の席で眺める。イヤホンからは相変わらず好きなバンドの曲が流れている。こんな普遍的な人生を歩んで気が付けば18年の歳月がたっていた。高校卒業の約2週間前というようなこの時期、もう自分を含め、ほとんどの人の進路は決まっている。進学する人がほとんどだが、一部就職する人もいるらしい。どんな道を進もうと、慣れてしまえばまた退屈な日々が続くだけなんだ。と彼女は思っていた。始業のチャイムが鳴り、授業が始まる。とはいえ、ほとんどが進む道が決まっている中、やる気のある生徒は全くと言っていいほどおらず、みんな友達に会いたいから学校に来ている。というのが正直な心境だろう。

 その日常に異変が起こったのは五限目のときだった。その時間は英語の授業で、単語の小テストを受けているときだった。問題用紙が配られ、教師のはじめ、の合図で一斉に用紙を表に向ける。真面目に解く気もなかったので、なんとなく問題を眺める。そこで異変が起こった。


突然の静寂。


誰も話さなかったからではない。隣のクラスの授業の声も、ペンを走らせる音も聞こえない。顔を上げて、教室を見渡してみる。そこには誰もいなかった。しかし机の上の荷物やカバンはそのままになっていた。教室を出て学校内を周る。教室にもグラウンドにも体育館にも、先生も下級生も、誰もいなかった。学校の外に出る。いつも人があふれかえっている渋谷のスクランブル交差点や慣れ親しんだ商店街にも人はいなかった。

こうして、退屈な世界が消えるという楓の願いは唐突に叶えられてしまった。


ーいつからだろうか、この世界が退屈に思えたのは。

この世に生まれついてからずっと厭世的だったはずはない。だんだんと、自分という人間の小ささを実感するたびに、嫌いに思ってしまったのだ。

幼いころに抱いていた夢がかなうはずがないとわかってしまった。いつでも自分の言いたいことを主張できなくなることを知ってしまった。利益を考えるようになった。大人というものがそこまで強くないこと、案外世界は汚いこと、自分の限界。いろいろなことを知ってしまった。成長するにつれ、誰もが知ることであるのだが、それを受け入れるのは、思っていたよりもつらかった。次第に、希望の持てない将来や、自分の身近な人たちでさえ、苦手になってしまったのだった。

一人きりになった世界で、楓は不安になり、携帯で親や友達に連絡をした。が、つながるはずもない。当然、LINEが既読になるわけもなく、そこで彼女は本当に、自分が一人になってしまったことを実感した。以前SNSを利用した相談で日々が退屈すぎると相談したことがあった。相談員の回答は、でもそんな日常が貴重で大切なんだよ。だった。そんな分かり切ったことを言われても。と当時の彼女は思った。しかし、彼女は日常の大切さを理解しているつもりなだけだった。自分の願いが叶ったというのに元の日常を渇望していた。

「お願いだから、もとに戻ってください…」

彼女は世界に祈る。思えば、退屈だった元の世界にも涙や笑いがなかったわけではないのだ。そのありがたみが、今実感できた。また誰もいない町を歩き学校に戻る。席に座り、音楽に耳を澄ませ、もとの世界の喧騒と風景を思い浮かべる。するとまた徐々に日常の気配が近づいてくるのが分かった。目を開けて、教室を見渡す。するとやはりそこには「いつも通り」が広がっていた。楓の中にある将来の不安も染みついた厭世的な観念も消えることはなかったが、少なくとも世界が消えることを望むことはなくなり、少しは前向きな気持ちを抱くことができるようになった。

___いつかこの日々を大切に思えるのなら。いつも通りの日々でも明日が来て、私が生きているならば___。

「それだけでいいや。」

彼女は一人呟いてまた日常の風景を眺める。


「本当は大好きだ。」



 












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