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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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ジャブジャブ、ストレート

 ジャクエルがその場から猛ダッシュで逃げようとするのを、首根っこを捕まえて引き戻す。

「後生です。後生ですから、離してください。ユマノヴァ様」

「あ~はっはっはっはっ、死んでも離さない。ていうか、逃げ場所なんてどこにもないんだから、大人しく座れ」

 ジタバタと暴れるジャクエルを、頭から押さえつけその場に座らせる。はい、正座、正座。

 一通り暴れると、ぜ~ぜ~は~は~っと荒い呼吸を繰り返し、その場に倒れ込んだジャクエルに半目になる。体力ねえな、おい。

 そうして目の前の仁王立ちの人物に、チラリと目を向ける。

「……どうして貴方が、ここにいるのですか? 領地に行かれたのではなかったのですか、ディリア嬢」

 ジャクエルが恐る恐る口を開くと目の前の人物、ディリア・スープレー公爵令嬢は仁王立ちのまま「本当ね、何故かしら?」と目を細める。

「……貴方はまた、自分の行動が分からなくなっているのですか? そのようなお体で、何かあったらどうするつもりなのですか?」

 そう言って、ディリア嬢の膨れ上がったお腹を盗み見る。

 その目を見て、俺は納得する。なんだ、やっぱりちゃんと分かってるんじゃないか。自分にその子が愛しいと思う気持ちがある事を。

 けれどその言葉に気を悪くしたディリア嬢は、怒りを隠さずに声を荒げた。

「煩い上に失礼だわ。確かに今までの私は自分の行動をよく分かっていなかったけれど、それを利用した人間に言われたくないわよ」

 ズバリと言われたジャクエルは一気に脂汗を流したかと思うと、固まった。

 はっはっはっ、いいぞいいぞ、ディリア嬢。もっと打ってやれ。

 内容を知っているアリやブライアン達の肩が揺れている。どうやら笑いをこらえているようだ。兄上やキシェリ達にはそこまで詳しく話していないから、ちょっと困惑している。

「まったく、全部貴方の所為じゃない。貴方が問題を起こしたから来てほしいって、ユマノヴァ様に呼ばれたの。彼には恩があるんだから、無視するわけにはいかないでしょう。私だってこんな体で王都になんて来たくなかったわよ。でもユマノヴァ様が安定期に入ってるから大丈夫だって。ていうか、安定期ってなんですか、ユマノヴァ様?」

 突然クルリと俺の方を向くディリア嬢。う~ん、安定期の意味も分からずに戻って来たんだ。なんか、本当にディリア嬢って掴み所がないよな。

「お腹の子が落ち着いた状態の期間の事をいうんだよ。ディリア嬢の体調なんかも落ちついているんじゃないかな?」

 とはいえ、やはり身重の体で馬車に何日も揺られるのは良くはないだろう。

 俺はジャクエルを迎えに行く前に、アリと共にディリア嬢を迎えに行っていた。

 スープレー公爵には、王都に住む息子から俺が不思議な力を使うようになったと聞いていたみたいなので、そのまま隠さずに輿にディリア嬢を乗せてアリと共に運びますと告げると、少し心配した様子は見せたものの、俺を信じると快く送り出してくれた。

 スープレー公爵には、俺の好感度爆上がり?

「確かに最近、気分はいいです」

 スッキリとした表情で言うディリア嬢。空の旅はディリア嬢が眠っていた時にこっそりと運んだから、本人はあんまりよく分かってなかったみたいだが、それを詳しく聞いてこないところがディリア嬢の良いところ。

「……ユマノヴァ、十六歳で妊婦の体調の事まで分かるお前を、私はどう見たらいいのだろう?」

 兄上が額を押さえて呻くように聞いてくる。

 いや、これは単に前世の姉が子供を産んだ時の情報です。なんらやましい事はないんだが、なんか誤解されてる?

「あの……」

 ああ、石化していたジャクエルが我に返ったようだ。俺達を挙動不審な態度で見ている。誰に何を聞いたらいいのか分からなくなっているのだろう。ディリア嬢の攻撃も効いているようだ。

 動揺しているジャクエルに、俺はニンマリと笑う。

 うん、そうそう。俺はお前のそういう焦った姿が見たかったんだ。何もかも達観して、全てを受け入れている姿が気に入らなかったからな。

「俺はもの凄く怒っている。俺の大切なアリを傷付けたんだからな。どう調理してやろうかと色々考えたが、お前は罪をすべて認め、達観してなんでも受け入れようとする。そんなの面白くない。俺はお前にアリが味わった苦しさをおなじように味わわせてやりたいのに、拷問したところでお前はケロッとした顔で受け入れてしまうだろう。それでは意味がない。そこで考えた処罰がこれだ」

 そう言ってディリア嬢を両手で指し示す。

 ディリア嬢がとっても嫌な顔をする。う~ん、いいね。ディリア嬢のそんな表情も新鮮だね。

「え? あ、あの……、え?」

 ジャクエルが再び固まってしまった。帰ってこい、帰ってこい。それでは話が進まないだろう。

「ユマノヴァ、もっと分かりやすく言ってやったらどうだ? 正直、私も分からない」

 兄上が、もう降参だというような顔をする。キシェリ達も首を傾げている。

 まあ、そうだな。兄上達はジャクエルとディリア嬢の関係を知らないもんな。でもこれはかなりプライベートな話なので、本人にちゃんと確認は取らないとね。

「ディリア嬢、兄上やキシェリの耳に入れてもいいかな?」

「構いません。たいした問題ではないので」

 ディリア嬢の言葉を聞いたジャクエルが一瞬、辛そうな顔をした。ジャブが効いている。

 それにしても、ディリア嬢が本当にジャクエルをお腹の子の父親として必要としていない事がよく分かる。

 俺はその様子を横目に、兄上に説明を始めた。

「では、簡単に説明させていただきます。ディリア嬢のお腹の子の父親は、このジャクエルなのです。そしてジャクエルはジュメルバ卿に復讐をする事を優先して、ディリア嬢とお腹の子供を捨てたのです。ですからディリア嬢は、反対にジャクエルを捨てました。子供は自分一人の子供だと。スープレー公爵家で大切に育てるので、父親は必要ないという決心をされました」

 俺はサラッと二人の関係を話した。

 ディリア嬢はうんうんと頷いて、ジャクエルは俯いている。

 更に俺はそのまま奴への処罰を口にした。

「私の罰はこれです。ジャクエルをスープレー公爵家で執事として働かせます。ディリア嬢のお腹の子供を、一生その身を犠牲にしてでも支える事を命じます。ですが絶対に、その子供に自分が父親だと名乗る事は許しません。あくまで一使用人として彼らを支えるのです。どうです? これ以上の苦行はないでしょう?」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  良いねえ!  未練が有っても死ぬ気でいた考え無し野郎に勤めさせる役務としては上出来!  それこそ「死ぬ気で」ディリアの子を支えるだろうし。  遠い未来のこの「家族」の姿を見てみたいw
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