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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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ヘイ、カモン

 バタンっと重い扉が開かれたのは、そんな時だった。

「申し上げます。先程王都に押し寄せてきていた魔獣は、一斉にその姿を消した模様。空に何者かが突然現れ、その者が光を放ち魔獣を消したのだという報告が上がっております。見ていた者の話によれば、それは聖女様と同じ力だという事でした」

 ナイス、タイミング。

 報告に上がった騎士は入ってくるなり首を垂れ、興奮したように一気に捲し立てた。そして落ち着いて顔を上げるなり、その部屋に集う人の数の多さにビクッと体を揺らした。

 そうだよなぁ~。怖いよなぁ~。とその騎士に同情の目を向けながらも「本人、ここにいま~す」と手を上げてやる。

 騎士に集中していた目を俺に向けてやると、彼はあからさまにホッとした態度をとる。が俺の言葉に不思議な顔をする。

 周囲も同じで「何言ってるんだ、こいつは」というような顔をしている。う~ん、楽しい。

「魔獣を倒したという光を放ったのは私です。まあ、兄上と聖女様や討伐隊が頑張ってくれていたのもありますが、最終的に気配を探れる範囲までは根絶やしにしたつもりです。実はこの力を私はずっと秘めておりました。魔王の生まれ変わりなのですよ、私は」

 フハハハハハハ! と高笑いをすると、横からポコッと可愛く叩かれた。

 ごめんなさい、アリテリアさん。

「というのは冗談です」

「「「「「どこから冗談なのですか?」」」」」

 皆の声がハモった。

 どうしよう、めちゃめちゃ楽しい。

 浮かれそうになる俺の横で、アリが俺の服の裾を引っ張っている。妖精にも半目で見られてしまった。

 冷静になった俺は、コホンと咳払いをする。

「聖女様張りに光を放出しまくって、魔獣を消滅して回ったのは私です。これは本当。先程、皆様もごらんになったでしょう。私の不可思議な力を。ですので魔王というところだけ嘘ですね」

 ちゃんと説明してやったのに、皆唖然とした表情で固まっている。

 まぁ、仕方がないかな。これでも十分常識の範囲を逸脱している話だからね。

 皆が放心している中、ヘルディン卿がぼそりと呟いた。

「……ユマノヴァ様は、聖女様でしたか」

 ぶっ!

 聖女って何? 俺どこからどう見ても男ですよ。それを言うなら聖人でいいでしょう。ヘルディン卿ってちょっと面白いんだよね。なんか感性が。

「いえいえ、私は聖人などという尊い者では決してないですよ。それはよくご存知ですよね、教皇様」

 わざとキシェリに話を振ってやると「聖人ではないが、変人ではあるよな」という答えが返ってきた。おい、教皇の仮面はずすなや。

「私はちょっと器用なんですよ。なんか色々調べていたら魔法が使えるようになりました。因みに婚約者のアリテリア嬢とイチャイチャしていたら、彼女にまで伝染してしまいました。ハハハハハ」

 そう言って笑ってやると、皆ますます呆けた顔になっている。


 ――ここに来るまでに、アリと妖精達とは話し合った。

 彼らの存在と魔法の成り立ちを話していいものかどうかと。

 正直言うと、妖精達は自分達の存在を話してもいいとは言っている。だが、姿を見せてやるかどうかは別だ。とも言う。

 アリも妖精が魔法の力を与えるものだと知ったら、邪な者が妖精達を狙って暴挙にでるかもしれないと危惧した。

 確かにそうだ。

 アリと聖女の力を知ったジュメルバ卿がいるように、その力を己のものにしようと企む輩が必ずいる。

 そしてそんな人間が多発したら、妖精達はますます姿をくらまし、下手をすれば彼らの居場所がなくなるかもしれない。

 妖精達と普通に会話している姿は、兵士や騎士達に割と見られている。わざわざ確認してくる者はいなかったが、不思議には感じていたはずだ。だが彼らは現実には己の目では何も見えていない。存在も感じとれてはいないはずだ。ならば確かな証拠をと言われても、何も出来ないのが現実だろう。

 それにあの場にいた者達は、兄上の直々の部下だ。兄上の意に反する事を喚き散らすような真似はしないだろう。

 そして力を使いまくっている姿は、隠しようもないほど(最初からその気もなかったけど)沢山の者に目撃されている。

 そうして俺達の間では、妖精の存在はバレてもいいが魔法に関係しているという事は秘密にする。という事に話を合わせる事にした。

 まあ、わざわざ妖精の存在を今この場で話す必要もないからね。


 だから俺とアリが使った魔法は、先程俺に敵意を向けてきた男性貴族が言ったカラクリという事にしようと考えた。

 だって今まで現代知識で行ったものの説明をしても誰も理解しなかったのだから、もうこの際、魔法も俺の七不思議って事でいいよね。

 俺がカラカラと笑っていると、額を押さえた兄上が「全く、ユマノヴァは……」と呟く。

「イルミーゼやユマノヴァの力は突然変異か、それこそ我々の身を案じてくださった神の思し召しかもしれないね。他国には似たような力を持つ者も、多数存在していると聞く。まあ、心配する事はないよ。その力の保持者はユマノヴァとアリテリア嬢、そしてイルミーゼ。彼女は近いうちに私の伴侶となってくれる身。誰もこの国に害をなそうとする者はいない。むしろ王族に名を連ね、国を守り民を守る為にのみ使用する。とても心強いではないか」

 そう言って王妃張りの美貌でニッコリと笑う。

 その笑顔に周囲がホウッと見惚れている。

 おお、兄上が上手く誑し込んでくれた。

 どういう力か分からないが、不安材料は自分達に不利になるかどうかという事だもんな。

 それを取っ払ってやると、どういう力か探る気は薄れるというもの。まあ、もともと脳筋ですから。

 考える事が苦手な奴らが、頭の良い兄上に考えなくていいよと言われれば、その通りに考える事は放棄するだろう。うん、それがこの国の悪い所であって、こういう時には良い所でもあるよな。一言で言うと、単純♡

 しかしその中でも、逆らう者はいる。

「先程から聞いていますと、レナニーノ様はユマノヴァ様に甘いですよ。彼は先程、自分を魔王だと言った。ユマノヴァ様の意に添わぬ事をレナニーノ様が犯した場合、彼は貴方までをも裏切るかもしれません。その力で魔獣を引き連れて来たらどうなりますか? 今のうちに彼を排除した方がいい。ユマノヴァ様は化け物だ」

 そう言って男性貴族は俺を指さしてきた。

 おおお~、いいね、いいね。彼は確かゲルドン侯爵。兄上派閥の筆頭者で、幼い頃から俺を目の敵にしていた人物だ。

 まあ、俺も悪かったんだけどね。



 俺が三歳の頃、近付いてきた侯爵の息子に「もう少し痩せろ、デブ」と言ってしまったからなんだけれど。ああ、一応理由はあるよ。

 当時の奴は十歳。奴は一切自分の足で歩こうとはしなかったんだ。いつも侍女におんぶや抱っこをさせていた。

 食っちゃ寝の生活では、男性でもその体を運ぶのは大変な作業だった。それを思春期という年齢も重ねて侍女達に抱きついていたんだ。嫌がる侍女を殴りながら。

 城でまでその行為をしていた奴を見かねた俺は、つい侍女の胸にへばりついて近付いてきた奴に言ってしまったんだよな。

 それから奴は父親に泣きながらチクった。

 食っちゃ寝を許すような親だ。子供の言う事を鵜呑みにして俺を逆恨みしてきたんだ。

 もとより俺は、高位貴族の男主義に反した考えを口にし始めた時期だったから、彼には嫌われる要因はありまくりだったけどね。



 しかし、この状況でまでその行動を覆さない態度には見上げた根性だ。と称賛を送りたい。

 天晴れ、ゲルドン侯爵。

 俺はゲルドン侯爵にニヤリと笑う。

「そんなに私を排除したいのなら、貴方がすればいい。化け物の私を倒したとなると英雄になれるかもしれませんよ」

 そう言うと、ゲルドン侯爵はハッとした表情になる。

 流石脳筋。英雄と聞いて俄然やる気が出たようだ。

「よかろう。私が化け物を退治してやる。ずっと気に入らなかったのだ。女にばかり媚び諂う貴方が。王族だろうと容赦はしない。来い。私が引導をくれてや……へぎゅ!」

 あ、ごめん。

 彼の長いセリフに飽きた俺は、つい魔法で頭から水をぶっかけていた。

 どしゃっと頭から大量の水をぶっかけられたゲルトン侯爵は、勢いに尻もちをついていた。そして何が起こったのかと辺りを見回している。

「あ~、びしょ濡れだな。これではまともに戦えないよね。待ってて。今乾かすから」

 今度は彼に向かって、小さな火の塊を放つ。

 ボヒュ、ボヒュっと単発で放つが、彼は中々いい運動神経で避けきっている。

「ひいいぃぃぃ~~~」

 情けない声が部屋中に響き渡る。

 因みに火の塊は火の妖精が回収してくれているので、周囲の人間に当たる事もなく、また火事になる心配もない。

 火の妖精と二人で遊んでいると力尽きたのか、ゲルドン侯爵がドテッと重い体で転んだ。

 そのお尻に火の塊が当たるが、もとからずぶ濡れなので火が燃えるような事にはならない。

 だが、火が自分に当たった事にパニックを起こした侯爵は「た、助けてくれ。熱い。殺される」と叫んで地面を転がっている。

 俺はもう一回、侯爵に頭から水をかぶせた。

 ハッと我に返った侯爵は、俺の顔を見ると「ば、化け物」と言い、転がるようにその場を立ち去って行った。

「……やり過ぎです、ユマ様」

「ごめんなさい」

「ユマノヴァ……」

「はい、今アリに怒られました」

「ユマノヴァ様……」

 うわあぁぁん、皆で俺を窘めに来た。はい、調子に乗り過ぎました。ごめんなさい。

 シュンとする俺の肩をポンと叩く兄上は、皆に振り返る。

「すまない。今のはユマノヴァの悪い癖だ。調子に乗り過ぎてしまったようだな。だがこの通り。ユマノヴァには悪気はないし、私達の話も聞いてくれる。危険な事はないと私が約束しよう。だからお前達も私の弟に酷い事ばかり言うのはやめてくれないか。ユマノヴァを勘違いしている貴族も多いが、ユマノヴァは本当に優れた人間だ。そしていつもその力を他人の為に使おうと必死で努力している優しい奴だ。これ以上、ユマノヴァを批判する言葉は聞くに堪えない。まだユマノヴァを化け物だと罵る者がいるのなら、私が相手になろう」

 そう言って俺を背中に庇うように、男性貴族の前に立つ。

 あれ? 兄上ってばもしかして、化け物発言、滅茶苦茶怒ってます?

 ああ、そうか。聖女も同じ力を使うもんな。俺でとどまればいいが、聖女まで変な風に言われたらたまらないよね。

 兄上に小声でそう言うと、少し呆れたような苦笑した笑みを返された。

 どうした、兄上? 俺、なんか間違ってました?

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