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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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戻りました

 ユマノヴァの行動は、この国を守るためのものだった。

 今もまた、ユマノヴァはこの国を守るためにアリテリア嬢と共に魔獣を退治しに行っている。

 そんなユマノヴァを私はずっと誤解して、勝手に劣等感を抱き、女好きだと揶揄う貴族の言葉を鵜呑みにしていた。

 ガクッと膝が頽れそうになった私を、隣から支えてくれる腕がある。

 イルミーゼ。彼女は私の顔を覗き込みながら「大丈夫ですか?」と心配してくれる。

 そうだ、こんな所で私が落ち込んでいる訳にはいかない。

 私は自分の足でしっかりと立ち、母上を見る。

「母上はユマノヴァの行動を、何もかもご存知だったのですか?」

「いいえ、知らないわ。マルチーノ様や周りの者からの話を聞いたり、ユマノヴァにたずねられたりした言葉から調べたの。それでも私の知らなかった事は、まだ沢山あるわよ。例えばそこの教皇様。彼とユマノヴァは友人らしいわね」

 確かにそれは、この問題が生じた時に私も知った事だった。

 だが教皇様は幼い頃に一度城に来た事があっただけで、王都での教会といえば、全てジュメルバ卿が取り仕切っていたのだ。どうやってユマノヴァと親交があったか、誰も分かる者はいないだろう。

 私は教皇様に視線を送る。いや、私だけではない。国王や男性貴族も一斉に彼を見る。

 突然注目を浴びて、少し怯んだ様子を見せる少年教皇。

「ずっと連絡は取り合っていました。今回の件も、ユマノヴァからの助言によるものが大きいです。彼は王族と教会とが手を取り合って民を導いていけたらいいと、いつもそう言ってくれていました」

 少年教皇は国王の迫力に負けまいと、その顔に必死に笑顔を張り付ける。

「……ユマノヴァ殿下が、そこまで国の事を考えて動いてくださっていた事には脱帽します。ただの女好きだと揶揄していたのは謝罪いたしましょう。ですが、そればならば尚更、今どこにいるのでしょうか? どうしてこの非常時に、姿を現さないのです?」

 だがそんな教皇様の頑張りも虚しく、またもや高位貴族の男性からユマノヴァを非難する言葉が飛び出す。

「そうです。いつも何も言わず勝手に動き回っている殿下を、我々はどうやって信じればいいのですか? 彼さえしっかりと城にとどまり、情報を伝えてくれればこのように我々も動きを封じられる事はなかったのです。魔獣など我々が簡単に葬れるというのに。その機会を与えてくれなかったのは、ユマノヴァ様が情報を混乱させたからに違いありません」

「やはりユマノヴァ様が諸悪の根源ですよ」

「女ども、お前達は騙されているのだ。ユマノヴァ殿下に甘い言葉を掛けられて、勘違いしているのであろう。浅はかな」

「本当の優しさをはき違えるな。ユマノヴァ様の言葉は優しさではない。自分の都合のよいようにお前達を利用しているに過ぎない」

 ――こいつらは今まで何を聞いていたのだ。余りの馬鹿らしさに吐き気が込みあげる。

 自分達が何を言っているのか分かっているのか? ユマノヴァが勝手に動き回るから自分達が行動をとれない? ユマノヴァが情報を流さないから混乱する? ユマノヴァが女性を利用している? どうしてユマノヴァ一人がそんな行動をとったからといって、大の大人が何も出来なくなるんだ。こいつらは分かっているのか? 言い返せばユマノヴァの情報は正しいと、ユマノヴァに城で指示してほしいと、彼の優秀さを認めているという発言で、もっと言えば自分達が無能だと言っているのだぞ。

「……お前達の馬鹿さ加減には、ほとほと呆れる」

 私が額を押さえながら呟くと、一斉に男性貴族がこちらを見る。

「レナニーノ様、貴方様だって我々と同じ考えだったはず。ユマノヴァ様の行動には呆れるばかりだとおっしゃっていたではありませんか」

 一人の貴族が私に食って掛かってきた。

「それについては私が愚かだったとしか言いようがない。だが私は今回ユマノヴァと共に行動していた。そして彼の行動を全て把握したうえで言うが、ユマノヴァは私の自慢の弟だ。私はユマノヴァほど信頼出来る奴はいないと思っている」

 そう言ってやると、男性貴族は驚いている。まさか私がユマノヴァを擁護するとは思ってもいなかったのだろう。

「ユマノヴァがいないと言うが、それは当たり前だ。彼はずっと最前線で戦っていたのだからな。安全な城の奥に引っ込んでいた軟弱者と一緒にするな」

 私の言葉に矜持を傷付けられたのか、数人が真っ赤になって怒りをあらわにする。

「いくらレナニーノ様といえど、それは余りに失礼ではないか」

「我々だって知っていれば前線に赴いていました。知らなったのだから仕方がないでしょう」

「そうだ、ユマノヴァ様が己一人の手柄にしたくて情報を独り占めにしていたのだ」

「我々を、いや、陛下にも報告せずにいたなんて、いくら王子でも勝手が過ぎますぞ」

「責めるべきは我々ではなく、ユマノヴァ様ではないですか。レナニーノ様、貴方様までユマノヴァ様の口車に乗せられましたか? 情けない」

「馬鹿者が! 知らなかったのなら知る努力をしろ。報告がないのなら、己の足で調べろ。ユマノヴァ一人に頼っている発言に何故気付かない。あいつが怒らないからと言って、そこまであいつを愚弄するか。甘えるのもいい加減にしろ!」

 尚もユマノヴァ一人の所為にしようとする男性貴族に、我慢の限界が来た私はとうとう彼らを怒鳴りつけた。

 優秀なユマノヴァ。なんでも知っているユマノヴァ。分からなければユマノヴァに聞けばいい。そんな馬鹿な事を私達高位貴族の男性は、無意識に考えていた。

 ユマノヴァの情報の方が正しいのだからと、いつの間にか自分達の情報源を使わなくなった高位貴族が何を偉そうに言えるというのだ。こうなったのも自業自得ではないか。


 私が国王をはじめ皆を睨んでいると、頭上から呑気な声が聞こえてきた。

「なんだかすっごく険悪な雰囲気だね。これはもう少し早く戻って来るべきだったかな?」

「だから言ったんです、ユマ様。お花なんて摘まなくてもいいって」

「でも、珍しい花だったじゃない。アリも気になってたんでしょう」

「それは、とっても可愛かったから。でも私の所為で皆様にご迷惑をおかけしたのなら申し訳ないです」

「それは違うよ。君の所為じゃない。俺が好きで動いたんだ。俺の最優先はアリだからね。君が喜んでくれるのなら、俺はどんな事でもするよ。それに髪にさしているこの花は、本当に君に似合う。とっても可愛い」

「もう、ユマ様ってば。でも嬉しいです」

「アリ」

「ユマ様」

 皆の頭上の上、空に浮いた状態で戯れているのは、今話題の中心人物、ユマノヴァとその婚約者のアリテリア嬢だ。


 …………………………………………。


 皆無言で、頭上でイチャついている二人を見上げている。

 そしてそんな私達にユマノヴァが気付くと「やあ、お待たせ」と軽く右手を上げる。

 すう~っと、二人は音もなく降りて来て、ゆっくりと床に足を付けた。

「全員集合で驚きました。何かあったのですか?」

「「「「「「ユマノヴァ!」」」」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんということでしょう 浮かれた男女が浮いている
[良い点]   平 常 運 転 !
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