とにかくイチャイチャしたい
「この子は初めましてですよね。火の妖精かな? どうして一緒に連れているのですか?」
「アリの居場所を教えてくれたんだ。元々はこの辺りにいた妖精だったらしい」
(皆がお菓子をくれる人間がいるって騒いでたんだ。そしたら面白そうだったからついてきた)
「餌付けの成果だね」
「駄目ですよぅ、誰かれ構わず餌付けしちゃあ。私も初めて会った時、餌付けされちゃったんですよね。シフォンヌに後で言われました」
「え、あれは違うよ。でもケーキを頬張るアリは可愛かった♡」
「もう、ユマ様ってば♡」
(おれもケーキ欲しい。ちょうだい)
「戻ったらすぐに用意するからもう少し待ってて。あと、ちょっと邪魔しないでくれる。せっかくアリとのイチャイチャタイムに入ってるんだから。ティンなんか空気読んで大人しくしてるよ」
((……………………))
「もう、ユマ様ってば。妖精二人を困らせちゃ駄目ですよ。……でも来てくれた時のユマ様、凄くカッコよかったです♡」
「もう、アリってば♡ 本当? もっと言って」
「私の王子様は素敵です♡」
「囚われのお姫様を無事、救出出来て俺も幸せ♡」
「…………………………………………あの、私は一体何を見せられているのでしょうか?」
今まで我慢していた気持ちが溢れ出し、アリと手を繋ぎ見つめ合いながらイチャイチャしていると、ジャクエル・カエンから半目で突っ込みが入った。
「煩い。邪魔するなって言ったろ。妖精でも気をつかっているのに、恋人同士を引き裂いた張本人が文句を言うな。これも罰だと思って黙ってろ」
俺達はそのまま廃墟でブライアンとシフォンヌ嬢の迎えを待っていた。
俺とアリだけなら力を使って王都に戻る事は可能だが、ジャクエルをここに放っておく訳にもいかない。疲れているアリには申し訳ないが、俺達は迎えが来るのを一緒に待っていたのだが、離れていた間に俺は自分の気持ちを自覚してしまった。
俺は本気でアリを愛しく思っていたのだと。
前世の歴代の彼女達とは違う。多分、俺は聖女に振られた時の兄上のようにアリがいないと立っている事も出来なくなると思う。
それを理解してしまったから、もう我慢は出来ない。
俺は先程、アリに告白した。
「アリが攫われて君を失うかと思った時、俺は本当の気持ちに気が付いた。アリが好きだ。もう婚約破棄なんて出来ない。本当に俺の婚約者になってくれないか」
跪き、彼女に愛を乞う。
す~~~~~~~~~~っごく、恥ずかしい。
いや、もうマジで。二十九歳のおっさんが十五歳の少女相手に何やってんだ。とか思いながらも、今は十六歳なんだから問題ない! と自分に喝を入れながらも、心臓はバクバクいっている。
断られたらどうしよう。俺マジで死ぬかもしれない。え、今度の死は失恋で? それって考えようによっては、前世の死よりマシかも。とか訳の分からない事まで考える。
いやいや、冷静になろうぜ、俺。いやいやいや、なれるかよ。手まで震えてきたってのに、アリ~、頼むよ。返事プリーズ。
真っ赤な顔で驚いている姿が可愛いとか興奮するとか考えてんじゃないぞ、俺。
う~わぁ~、背中に嫌な汗が滲み出て来た。
やばい、このままの状況が続いたら俺、泣くかもしんない。うん、泣く。絶対に泣く。
思わずグッと目を閉じてしまう。あああ~、俺のヘタレ。
知らなかった。本気の恋ってこんなにも苦しくて辛いものだったんだな。
なんとなく付き合っていた歴代の彼女達、ごめん。君達が離れていったのは、俺が本気で君達の想いに応えていなかったからなんだね。自分が恋をして初めて知った。
乙女ゲームでイケメンの勉強をしろって言ったのも、彼らのようにものの善悪も分からなくなる程、一途にその人だけを想えって事だったんだろうな。
いつか離れてもいいと思っている関係なんて、恋なはずないじゃないか。
俺はアリと離れたくない。ずっと、死ぬまで彼女と一緒にいたいんだ。
俺は腹に力を入れてグッと顔を上げる。と同時にアリに首根っこに抱きつかれた。屈んでいるから立っていたアリが抱きつくにはこういう形になるのは分かるが、え、ええ? アリ、返事は?
「……喜んで。私を本当の婚約者にしてください」
う~わ、う~わ、う~わ、やばい! やばすぎる。可愛い、可愛い、可愛いぃぃ♡♡♡
内心は狂喜乱舞しているというのに、表面だけは真面目な顔をして「嬉しいよ、アリ」なんて言って立ち上がってアリを抱きしめ返している俺。
あああ~、面の皮が厚くて助かった。王族の仮面が役に立つ。
あんまり情けない姿は見せられないからね。十六歳はカッコつけたいお年頃だ。いや、幾つ何十になっても好きな人にはカッコつけたいよね。
そんなこんなで俺の告白は無事受け入れられ、今はただ単に隙があったらイチャイチャしたいだけの時間を過ごしていた。バカップル、最高だ!
最初は(おめでとう)と喜んでくれていたティンも、今はただ呆れている。火の妖精は俺に邪魔するなと言われて、口元を両手で押さえている。ちょっと可愛い。
「……こんな拷問もあったのですね」
ジャクエルが首を振りながら、溜息を吐く。まあね、他人のラブシーンを延々と見せられるなんて確かに拷問以外の何物でもない。
だが、しかし、今の俺に周りを気遣う余裕などないのだ。ただ単にイチャイチャしたい。ただそれだけ。
そんな会話を繰り返しながらも、俺の視線はアリに釘付け。ブライアン、シフォンヌ嬢、君達も二人きりでイチャイチャしたいだろう。お迎えは少しぐらい遅くなってもいいからね。ってか、遅くなれ。
「……先程から拝見しておりましたが、お二人は本当に妖精が見えるのですね」
ジャクエルが俺達の周りに視線を向ける。見えないものを一生懸命見ようとしているのだろうが、おしい。二人は俺達の肩にいて、周りで飛んでいるわけではない。
俺が妖精を連れて来たので、アリは普通に妖精と会話しているし、不思議な力も目にしているジャクエルは、意外というかなんと言うか普通に妖精の存在を受け入れた。過酷な人生を生きてきただけの事はある。
因みに案内してくれた妖精達は、一旦引き返した。後から来るブライアン達の案内もしてくれるそうだ。
「教会は聖女の力を認めていたくせに、どうして妖精の力だと推理出来る者はいなかったんだ?」
そういえばと、俺は教会の考えを聞いてみる。以前から不思議に思っていたのだ。誰も妖精の力の事を知らないのかと。
「……普通、そこを繋げられる者はいませんよ。まず妖精にそのような力があるとは誰も思いませんので」
あっさりと否定するジャクエルに、俺は首を傾げる。そんなものなのか? だが妖精にまつわる話は昔から色々と書かれていたぞ。
俺はチラリとアリと妖精達を見る。
「まあ、あれだな。要するにこの国の者達の思考を、もう少し柔軟にすればいいんだな。妖精の件にしても男尊女卑の考え方にしても、こうあるべきだと決めつけず、もしかしたら、という考えにもっていけばいいんだ」
「それって難しい事じゃないですか?」
アリがコテンと首を傾げる。
「まあね。でも今回の件で、少なからずは兵士達に妖精の存在は気付かれているし、俺が魔法を使っている姿も見られた。そこから少しずつ広げていくのもいいかもしれない」
「現実に人前で使ってみます?」
「その場合は俺が使うよ。アリに余計な好奇心の目がいくのは嫌だからね」
「嬉しい、ユマ様。でも私も、ユマ様一人に辛い思いはさせたくないですよ。やるなら一緒に頑張ります」
「アリ」
ジ~ンと感動する俺と微笑むアリ。
二人で見つめ合っていると、突然数人の妖精が部屋に飛び込んで来た。
(ブライアンからの報告ぅ。王都に魔獣の群れが突進してるよ。そのまま行けば教会とぶつかるって。はい、伝えたからお菓子おくれ)
そう言って一斉に小さな手を向けて来る妖精達。その可愛さに一瞬絆される俺とアリ。
え~っと、今お菓子なんて持ってたっけ?
懐を探ろうとして…………………………なんだとうぅ~~~~~~!




