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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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本物の男装令嬢だぁ

 俺は城下町を歩いている。もちろんお忍びだ。いや、正確には逃げて来たと言った方がいいか。だって今の城は俺には居心地が悪すぎる。


 俺の婚約者、ディリア・スープレー公爵令嬢がやらかしてしまった日から、一か月が経った。

 書記官によって提出された内容から、父親スープレー公爵に全てがバレてしまったディリア嬢だが、頑として男の名は言わなかった。その為、修道院に入れられそうになったのだが、お腹に子がいる以上、環境の厳しい場所では子を育てる事は難しいと判断されて、公爵の領地で引きこもり生きていける事になった。

 当初、スープレー公爵はディリア嬢の俺に対する言動が余りにも常軌を逸している為、彼女を勘当し、賠償として資産の四分の一を国に支払おうとしていた。

 それでも没落させられるよりはマシだと考えていたのだろうが、俺はそれを断った。

 彼女との最後の約束通り、あの部屋での件は公にせず、賠償も望まない。そして婚約解消は全て、俺の軽薄な行動の所為だという事にしたのだ。

 公爵は泣いて喜んだが、俺の父である王様はそれでは王家の面目丸つぶれたと怒った。

 そこで俺は、公爵には王家に対しての貸しだという事で話を付けた。

 例えば、兄王子がヒロインの聖女と結ばれた時、一度は貴族位に養子縁組させないといけない。その養子先をスープレー公爵にお願いするという形に。

 聖女を養子にしてゆくゆくは王家と縁戚になる。それは貴族にとって得にはなっても損にはならないではないかと思うかもしれないが、スープレー公爵家にとってはそんな事は得にも何にもならない。

 スープレー公爵家は古くから孤児院や修道院に力を入れており、教会へも多額の寄付金を収めている為、民からの信頼も厚かった。

 中立の立場として、王家と教会それぞれに固執している訳でもないので、王家との結びつきは公爵家にとってさほど重要なものではなかったのだ。

 俺とディリア嬢の婚約もスープレー公爵家を取り入れたかった王家の為のものだったがそれが破談となった今、聖女を公爵家へ入れる事でこちらが当初目論んでいた通りになる、その上、スープレー公爵家なら教会側も聖女を養子に出すのを断る事は出来ない。なんせ多額の寄付金を何十年と頂いているのだから。そして極めつけは第一王子の婚約者ともなれば、未来はこの国の王妃、国母となる。どの貴族も喉から手が出るほど望む地位だ。それを王家に借りのある公爵家がなるのだ。発言権は無いに等しい。王家の権力を利用する事は出来ないのだ。

 王家にとってこれほど都合の良い事はない。公爵家は娘の妊娠、醜聞を隠し通せる。外れくじを引くのは俺だけ。

 まあ、スープレー公爵が思った以上に優しかったのが、この平和な結果を招いたのだろう。

 お腹の子も彼女も殺されなくて、本当に良かったと思う。

 そして後に残されたのは、俺への醜聞だけ。

 いい加減な俺は、婚約者のディリア嬢の前でも他の女性に優しくして、彼女を酷く不快にさせていたとか、フラフラした俺は婚約者を放っておいて、夜な夜な遊び惚けているとか、俺の部屋には色んな女が出入りしていて、その現場を彼女に見られたとか、もう笑えるくらいくだらないものばかり。

 根も葉もない噂の出所は分かっているが、流石に女性達にまでクスクス笑われるといたたまれなくなる。

 ブライアンは本気で怒っていたが、俺が招いた結果だからね。それは謝っておく。俺の側近として肩身が狭いよなって。

 ブライアンはそう言う事じゃない。と言って、またもやプリプリ怒るので、こうして城下町に無理矢理引っ張って来た。


 お互いに気分転換になればいいなあ。隣を歩くブライアンの表情を見ながら、俺は何と無しに笑う。

「何笑ってるんですか? 今日はユマが誘ったんですから、貴方のおごりですよ」

 ブライアンはお忍びの時、俺の事をユマと呼び捨てにする。俺はその響きが好きでニマニマと笑いながらも「任せろ」と胸を叩き、目指している屋台に彼を連れて行く。

 途中、美形二人の俺達を見ながら頬を染める町娘に手を振る事を忘れない。

 キャーっという黄色い悲鳴を聞きながら先に進むと、ブライアンが物陰に引っ張り込まれる少年少女を見つけた。

「……あれ、見つけちゃった?」

「行きますよ」

「はぁい」

 俺はブライアンと共に、彼らの後を追って行った。



「何をする、離せ! 彼女に触るな!」

「うるせえよ、お前は引っ込んでな。俺達が用があるのはこっちのお嬢ちゃんだけだ」

「やめろ。汚い手で触るな!」

「駄目よ、アリは逃げて」

「勇ましいな。ほら、逃げろってさ。女を置いてサッサと逃げな、坊や」


 う~わぁ~、なんかドラマや映画で見るようなテンプレが実際目の前で行われている。

 五人のいかつい男達が一人の女性を捕まえて、彼氏かな? 同伴の男を追いやろうとしている。

 女性は……あれ、あれ? 無茶苦茶美人だぞ。濃い金髪に青の瞳。ふわふわの巻き毛は誰もが触りたくなる。あれは狙われるのも無理ないかな? もうちょっと予防しないと。護衛を付けるなり、複数で歩くなりね。

 そして彼氏の方は……なんか、小さいな。

 帽子を深く被っていて顔は見えないが、護衛としては些か力不足だ。

 あ、肩を押されて尻もちついちゃった。

「やめろ、見苦しい。嫌がっているだろう」

 ブライアンがヒーローの様に、カッコよくいかつい男を避けて助けに入った。

「なんだと。邪魔すんじゃねぇよ!」

 後はブライアンの独壇場。

 ボコボコっと殴り倒していく様を、少女と少年は呆然と見ている。

 俺はゆっくりと歩いて行き、尻もちをついている少年の横に行って声をかけた。

「大丈夫か? ここに座っていると危ないから、君は立ち上がった方がいいと思うよ」

「え?」

 そう言って俺は後ろからヒョイと彼の脇に両手を入れて、立ち上がらせる。

「ひょえ~」

 あれ? 滅茶苦茶軽い。何喰って生きてんだ?

「や、やめ……」

 急に脇に手を入れられ立ち上がらされた少年は、俺の手をどけようと暴れ出す。

 クルリと向いた拍子に、数本の髪の毛が帽子から零れだす。

 茶髪に焦げ茶の大きな目が印象的だ。うん、可愛い。仔犬みたいだ。

「何やってるんですか、ユマ。終わりましたよ」

 クリクリの大きな目に見惚れていると、呆れたような声でブライアンが声をかけて来た。

「お疲れ~。どうする、こいつら? 警備兵に引き渡す?」

 俺は仔犬を抱えたまま、ブライアンがぶっ倒した五人組を見る。完全にのびているな。

「シフォンヌ、シフォンヌ、無事?」

 バタバタと俺の腕から逃れようと暴れる仔犬は、一緒にいた彼女に手を伸ばす。

「アリ、私は無事よ。アリこそ大丈夫?」

 少女はバタバタと慌てて近寄って来たが、俺が仔犬を放さないのでどうしようかと悩んでいるようだ。

「ユマ、放してあげてください」

「はぁい」

 ブライアンがそばに来て仔犬を放すよう言ってきたので、俺は素直に従った。

 仔犬と彼女はお互いの無事を抱き合って喜んでいる。

 少女に抱かれた仔犬を頭の中で妄想しながら眺めていると、ブライアンがテキパキと五人組をどこからか出してきたロープで縛りあげていった。

 ロープのありかを不思議に思いながらも深くは突っ込まないぞと俺は見て見ぬふりをして、懐から紙とペンを出してさらさらと書いた紙を彼らに貼る。

〔人攫いです。後はよろしく。乙女を守る正義の使者より〕

 その紙を見た仔犬がジトッとした目で俺を見てくる。

「間違ってないでしょう? それとも知り合い?」

「……いえ、あの、ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げてくる仔犬は、本当に愛くるしい。

 ニコニコと笑っていると、少女が黙々と男を縛るブライアンに近寄って声をかける。

「本当に助かりました。ありがとうございます」

「いえ、俺は当然の事をしたまでで……」

 振り返ったブライアンの目は、ハッというように女性に釘付けになる。

 女性もうっとりとブライアンを見つめる。

 見つめ合ったまま動かない二人を、仔犬はコテンと首を傾げて見ている。

「邪魔しちゃ駄目だよ。恋が始まったからね」

 俺は仔犬を連れて、少しだけ彼らから離れる。

「こい?」

「うん、お似合いだと思わない?」

「お似合い?」

 オウム返しで聞く仔犬は、またもや首をコテンと傾げる。

 なんだ、この子。本当に可愛いな。

 俺は帽子から零れている髪の束を手に取り、帽子の中に入れ込んでやる。

「綺麗な髪が零れているよ。男装なんかしてお忍び? どこのお屋敷まで送って行けばいいのかな、お嬢様」

 仔犬は声にならない悲鳴を上げた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いきなり大人(?)な流れにも表れてますが、政治に関わらずに身分と金で放蕩三昧の主人公が、何をしたいのかフラフラと第三者を気取って周りにチョッカイを掛ける、意味不明な小説?なのかな? あ…
[良い点] 王子、いい人ですね・・・。 [一言] そこで俺は、公爵には王家に対しての貸しだという事で話を付けた。 ↑ 公爵には王家に対しての借り ではないでしょうか。
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