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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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ブライアン様、素敵です

 ガタガタッ、ガタガタッ、ガタンッ!

 いたっ、いたたたた。え、ここはどこ?

 余りの痛さに目をあけた私の視界に飛び込んできたのは、暗闇。どんなに目を凝らしても何も見えない。

 口に何かが詰め込まれている。猿轡でもされているのか。声も出ないし、身動きもとれない。手足も縛られているようだ。

 とにかく、こういう時は冷静にならなければいけない。

 アリじゃないけれど、小さい頃から容姿の整っていた私は狙われる事が多かった。その為、攫われた場合はどのように運ばれるかを想像した事がある。

 うちは子爵家だったから、領地内なら父が必死で探してくれるだろう。だが、領地から出てしまったらその後は……もう二度と家に戻る事は出来なくなる。

 私はとにかく外でも屋敷でも一人にならない様に気を付けた。馬車や大きな箱のそばにも行かない様にした。だって押し込まれたら、そのまま運ばれてしまう。

 今、私はそういう状況なのだろう。

 どこかに押し込まれて運ばれようとしている。クンクンと匂いを嗅いでみる。かすかにワインの香りがする。これは樽、だろうか?

 そしてハッと気付く。

 アリは? アリはどこ?

 攫われた状況を思い出したが、急に馬車が止まったのを最後に記憶はない。

 アリも一緒に別の樽で運ばれているのだろうか? それとも他のどこかに? 私一人が攫われたなんて事は決してないはずだ。

 もしも信者が攫ったのなら、アリはジュメルバ卿の元に送られるだろう。それならばすぐにアリの身が危険に晒されるなんて事はない。

 先程会った聖女も近くにいるかもしれないし、彼女はアリを気に入っていた。きっと助けてくれる。

 それにユマ様。彼はこの国の王子だし、アリを本当に大事に想ってくれている。どんな事があっても、絶対に助けてくれるはずだ。

 私は少し安心した。

 アリが無事ならそれで……。っていやいや、私も助からないといけない。自己犠牲は駄目だとブライアン様に言われているわ。

 きっとブライアン様が私を探してくれている。彼ならきっと諦めない。

 長年ユマ様の行動に呆れながらも、ずっと信じてそばにいた人だもん。私の事も諦めたりなんてしないわ。

 体を左右に揺さぶってみよう。倒れて蓋が開くかもしれない。

 近くに攫った人間がいるかもしれないが、それでも場所や状況が少しでも分かる方がいい。このまま暗闇で何も分からない状況は絶対に駄目だわ。

 私は体にグッと力を入れる。

 せぇのぉ~。

 ガっと蓋が何かでこじ開けられた。光が急激に私の視界を照らす。

「シフォンヌ!」

 そこに現れたのは、ブライアン様。

 ああ、やっぱり来てくれた。彼ならきっと来てくれると思っていたわ。って、何この光?

「ああ、シフォンヌ。無事で良かった」

 そう言って私を樽から引っ張り出し、口に詰められていた布を取り、抱きしめてくるブライアン様。私も彼に身を委ねて……って、それよりもこの光が気になって感動出来ない。どれほどの妖精が集まっているのだろうか? 数えきれない。

 チカチカと目を回していると、私を放さないままブライアン様がその光に向かって話し始めた。

「ありがとう、セイ。君の、君達妖精のお蔭だ」

 ……………………。

「ああ、そうだな。すぐにユマ様に知らせないとな」

 ……………………。

「あはは、大丈夫。このまま連れて行くさ。雑貨屋に王宮の医師が来てくれているようだからね」

「……ブライアン様、もしかして、妖精、見えています?」

「もちろんだ。俺の親友の水の妖精、セイだ。可愛いだろう」

 妖精の光に負けない輝かしい笑顔を向けて来るブライアン様。なんか色々と言いたい事はあるけれど、とりあえずは……素敵です、ブライアン様。



 感動の再会? の後、樽から引っ張り出された私は、体の自由を拘束していた縄を全て解いてもらった。ホッとするのも束の間、周りを見渡すと沢山の兵士が黒いローブの男達と町の人々、数名の兵士を地面に座らせ取り囲んでいる。

 これはどういう事だろうとブライアン様を見上げると、彼は私の背中と膝裏に腕を回して横抱きにすると、サッとそばにいた馬に乗せ、サッサとその場を走り去ってしまった。

 ダダダッとものすごい勢いに目を回しそうになりながらも、ブライアン様に必死で説明を求める。

「ブライアン様、一体何を? アリは、アリは無事ですか? それにあの人達は?」

「ごめん、急いで雑貨屋に戻りたいんだ。アリテリア様が見つからない。ユマ様は俺にシフォンヌ嬢を優先しろと仰られた。こうして君が見つかった以上、俺は一刻も早くアリテリア様の捜索に参加したい」

「どういう事です?」

「それはシフォンヌの方が見つかる確率が高かったし、ユマ様は俺の気持ちを慮ってくれたんだ。だから次は……」

「そういう事じゃなくて、どうしてアリが見つかっていないの? アリはジュメルバ卿の元にいるんでしょう?」

「いや……ジュメルバ卿は、この件に関わってなかった」

「何、それ?」

 どうやら私が想像していた展開とは違っていたようだ。ブライアン様は馬を走らせながら、経緯を説明し始めた。



 私達を攫ったのは、教会の信者で間違いなかった。

 その町の住民や兵士までが加わった犯罪だったのだ。だが、それは一部始終見ていた妖精と教会の教皇様により、あきらかになった。

 ユマ様が妖精の話を聞き、友人である教皇様に話したのだ。

 教皇様とすぐにジュメルバ卿の元に行ったユマ様は、そこでジュメルバ卿の側仕え、ジャック・ダルマン一人の計画だと知った。

 教皇様は信者達に騙されている旨を伝え、自ら名乗り出て、私を解放する様に伝えてくれたそうだ。

 ちょうどブライアン様が妖精達と共に雑貨屋がある町の兵を集め乗り込み、こちらの町の兵士と揉めていた時にそのお触れは届いたのだと言う。

 因みにレナニーノ様の命令も出ていた為、困惑していた兵士も数多くいたそうだ。文句を言っていたのは信者だと、その行動で判別出来た為、捕らえるのは簡単だったとブライアン様は言った。

 誰も怪我する事なく、無事に君が見つかって良かったと涙ぐまれた時は、そんな場合じゃないのに胸がキュンと高鳴った。

 聖女と共に雑貨屋に戻ったユマ様は、そこで皆の情報を集めているそうだ。

 私を救出してくれた時に捕らえた黒いローブの男達は、あの町のゴロツキで信者達同様、何も知らないようだった。

 馬車は町の片隅で乗り捨てられてあった。どうやら信者が隠していたようだ。

 アリの行方は、そこからパッタリと分からなくなってしまった……。

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