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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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皆で助けましょう

 真剣な様子の俺を見て兄上は、フッと表情を和ます。

「お前の事だからそのまま教会に殴り込みに行くかと懸念したが、その様子じゃ何か策があるようだな。分かった。ネビール、縄を解け」

 兄上は内容を聞く前に、俺の様子がおかしいのはアリに関係していると瞬時に気付いたようだ。それですぐに俺の動きを制止したのだから、流石はハイスペック王子といえよう。

 そうだな。そのまま俺の行動を自由にしていると、俺一人で教会に殴り込みに行っていたに違いない。制圧出来る自信はあるし。あ、ブライアンもついて来て、一緒に暴れていたか。

「教会と問題を起こすのは、俺も本意ではありません。敵はジュメルバ卿一人ですよね。彼を差し出してくれるように頼んでみます」

「は? 何を言っているんです。ジュメルバ卿はウルト教会の最高幹部です。彼に意見出来る者などいるはずもないでしょう」

 ネビールが俺の縄を解きながら、馬鹿か、こいつは。という様に俺を見上げて来る。

 そんなネビールからブライアンが縄を奪い取る。

「ユマ様は有言実行のお方、やると言えば必ず成し遂げてくださいます。ユマ様を知らない者が口を挟むな」

 そう言って縄を全て解くと、机に俺の上着から出した紙とペンを置いて、文字が書ける状態にしてくれた。

 俺は手をグーパーっと開いて閉じる。うん、動く。これなら文字くらいは書ける。

「……ユマノヴァ様、飲まされたのって熊にも効く痺れ薬でしたよね」

 俺がペンを持ちスラスラと書き始めると、ネビールが半目で俺に確認してきた。

「だから、まだ足は動かせない。難儀な薬持ってるね、会長」

「申し訳ありません。ですが、流石魔獣を討伐してきた王族のお方。これぐらいで貴方様の自由を奪うなど、無理な事でしたね」

「いや、お蔭で冷静さを取り戻せた。恩に着る」

 俺が普通に礼を言うと、会長は「少量ですので、一刻もすれば足も動くようになるでしょう」と笑顔で言った。

「そのお手紙も私が届けた方が宜しいかと。お届け先は教会の本部ですか?」

「よく分かったね。ヘルディン卿かハフル卿に渡してくれと頼めばいいから」

 そうして書き上げた手紙を会長に預ける。

 会長は頷くと、店はそのまま使っていてもいいし、店を出るなら鈴を鳴らしてくれれば隣の棟にいる娘に聞こえるので、そのまま放っておいてくれていいと言い残して店を出た。

「聖女は普段どこにいるのですか? ジュメルバ卿と一緒にいないのであれば良いのですが」

「残念ながら、彼女はジュメルバ卿と同じ教会の王都の支部に居住を構えている。彼女はあくまでジュメルバ卿の養女となっているからね。それに魔獣の討伐も彼からの指令に沿って動いているから、基本彼女は彼から離れる事は出来ない」

 兄上に先程帰った聖女の居場所をたずねるが、彼女はジュメルバ卿と共にいると言う。出来れば巻き込みたくなかったが、仕方がない。

 俺は次に、教会に加担したとみられる町の兵士の全指揮権をブライアンに委ねてくれと、兄上に頼んだ。それと共にパッションにも、ブライアンに妖精の光だけでも見えるようにしてくれないかと頼んだ。

 パッションは首を傾げたが、シフォンヌ嬢はまだ町のどこかにいるかもしれない。手伝ってくれる妖精がいれば、彼女の居場所をブライアンに分かる様にする為だと説明すると、隣で聞いていた一人の妖精が手を挙げた。

(僕の姿を見せてあげる)

 そう言ってパッとブライアンのそばに行くと、姿を見せたのだろう。ブライアンが「わっ!」と驚いている。

(シフォンヌ綺麗だったから、ちゃんと助けてあげてね)

 ニッコリ笑った妖精に、ブライアンは「そうか、シフォンヌ嬢の美しさは妖精にも通じるのか」と独り言を言った後、生真面目にも「協力に感謝する」と頭を下げた。その姿に好感が持てたのか、妖精は嬉しそうにブライアンの周りを飛んでいる。

 その様子を見ながら次にする事を思案していると、兄上が俺の前にやって来た。

「ユマノヴァ、お前はまだ動けないだろう。ここで指揮をとってくれ。私はブライアンに兵士の指揮権を与える為に一度城に戻る。あと教会に直接向かう事は出来なくとも、すぐにでも騎士を動かせるように準備はしておく。ネビールは置いて行くから、私との連絡に使え」

「嫌ですよ、レナニーノ様。私はいつでも貴方様のおそばに……」

「私からの命令だ。ユマノヴァに逆らうな。いいな。ユマノヴァの意思に反した場合、お前は二度と私のそばには置かない。肝に銘じよ。分かったな」

「はい。レナニーノ様の命令ならば、喜んで」

 ネビールに言いきかせると、兄上は俺の肩に手を置く。

「心配なのはよく分かる。でも、冷静になってくれて良かった。アリテリア嬢もシフォンヌ嬢も絶対に助けよう」

 力強く笑って頷く兄上は、流石乙女ゲームのハイスペック王子。男の俺でも思わず見惚れてしまうほどカッコよかった。

 あ、なんか今やっと分かった気がする。前世の元カノが言っていたイケメンの勉強をしろとお手本に渡されたのが兄上である事に。

 確かにイケメンだ。それも最高に頼もしい。

 ヒロインにかまけて悪役令嬢を断罪する姿を情けないと思っていたが、現実にするとそんな簡単な事でもなかったんだな。

 俺が一瞬呆けていると「大丈夫か? しっかりしろよ、ユマノヴァ」と言って背中をパシッと叩かれた。

 俺はその衝撃で我に返ると「あ、兄上。今現在のジュメルバ卿と聖女の居場所は分かり次第、連絡ください」と言うと「承知した」と口角を上げて颯爽と店を出て行った。

 その姿に見惚れていると、隣で寂しそうに見ているネビールの姿が視界に入った。

 はっ、いかん、いかん。こんな奴と一緒に兄上を見送っている場合ではなかった。アリがいなくなったという真実が余りにも信じられなくて、無意識に現実逃避する自分を殴り飛ばしてやりたいと思った瞬間、顔面に何かがバシンっとぶつかった。

「ぶっ」

 あれ、俺まだ殴ってないけど? と目を塞ぐものを除けようとして、それに怒鳴りつけられた。

(アリ、どこ行ったの?)

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