口裏合わせようね
「はい、注目。いいですか皆さん。先程の光は俺が先日、町で仕入れた奇妙な品物が爆発したという事で統一しましょう。ブライアン、母上かマアムに言ってドレスを借りて来て。アリはそれに着替えて令嬢姿に戻ってください。シフォンヌ嬢、手伝ってあげて。ディリア嬢はここで待機。お前達は新しいお茶とお菓子の用意を。三人でお茶をしていたけれど、二人が俺の話で盛り上がってしまったから、居心地の悪い俺が珍しい玩具があると言って取り出した物がいきなり爆発した。という設定。爆発は小さなものでたいした事はなかったけれど、光だけがやけに眩しかった。という事でいいかい? ではアリバイ作り開始!」
パンパンと手を叩き注目を集め、アリバイを作る為行動をとるように皆を促す。
「ユマ様は何をなされるのですか?」
「ん、爆発をしたという玩具の残骸を作る」
「なるほど。では行ってまいります」
「あ、私も一緒に参ります。サイズが必要でしょう」
「ああ、そうですね。ではお願いします」
そう言って、ブライアンとシフォンヌ嬢は部屋を出て行った。従者達もお菓子の用意をすべく一旦引き下がる。因みに従者達にはその姿を人に見られないようにと念押ししておく。
ドレスを用意してもらう母上やマアムなら余計な事は言わないだろうが、他の者に見られたら時間差をおかしく思われるかもしれない。まあ、そこまで大事にはならないだろうが、念には念を入れて。
後に残されたのは俺とアリ、ディリア嬢といったある意味本当に気まずい三人だけどなった。
「ディリア様、ひとまずこちらに座って待ってましょう」
アリが床に座りっぱなしのディリア嬢の手を取って、ソファへと誘導する。
「ありがとうございます。え~っと……」
「アリテリア・ホワントです。仲良し設定ですもの。アリテリアとお呼びください」
「え、ええ。では私の事も……って、もう呼んでくださってますわね」
「フフ」
二人の柔らかい雰囲気に放っておいても大丈夫だと確信した俺は、ごそごそと玩具の残骸になりそうな物を集め出す。
「ユマ様の執務室にはなんでもあるんですね」
俺の手元をジッと見つめながらアリがそんな事を言う。ん、これ?
「遊んでいる訳じゃないよ。これは民からの訴えで証拠の品として提出された物。露店で売られていたそうだが、ほとんどの物が元から壊れているような粗悪品だったそうだ。店主が他国の者だから呼び寄せるのに時間がかかっているけれど、ちゃんと責任を取らせないといけないだろう」
初めから壊れていると分かったうえで売りつけたのかそれとも全く知らなかったのか、それによって罪の重さも変わるだろうとソファの前の机の上に置く。
それは犬の形をした木で出来た玩具だった。足の部分が車輪になっていて首元の紐を引っ張って歩く。前世の俺の周りでは〔お散歩わんちゃん〕とか言われてたような気がする。
「民の訴えではこの車輪の部分が上手く回転しないとか、多分綺麗な円形ではないんだろうね。それとすぐ車輪や紐、首が取れたりするそうだ」
俺が首が取れると言った途端、二人はそれを想像したのかウェッとした表情を浮かべた。
アリは以前からとして、ディリア嬢はこの短時間ですごく表情豊かになったね。
「でもユマ様、これをどうやって爆発させるのですか?」
アリの疑問に俺はニヤリと笑う。
「ちょっと離れて見ててね」
俺は二人をソファから立たせて、少し距離をあけさせた。
『アリ、今から爆発させるから玩具の周りに見えない壁みたいなものとか作れる? 音や爆発物が飛ばない様にしたいんだけれど』
俺が小声でアリに防御壁みたいなものが作れるかと聞くと、アリはコクリと頷いてうっすらとした膜のようなものを玩具の周りに展開させた。
『私とユマ様だけに見えるようにしてみたんだけれど、こんな感じ?』
流石アリ、気が利く。俺の注文以上の事をしてくれたアリに感謝を述べて、行動を再開する。
巨大な爆発が起きて被害が出たら、シャレにならないからね。
「俺が手を加えて滑りやすくした車輪を上にして、勢いよく回転させておきます」
車輪に紐を巻き付け、それを勢いよく引っ張った。シャッと音が鳴った車輪はものすごいスピードで回転する。二人が目をぱちくりとさせている間に俺はソファに置いておいた物体を手にする。
「さてここに、別で押収した小麦粉があります。これを勢いよく振りかけます」
パッと高い位置から振りかけた小麦粉は、辺りを舞い、犬の玩具へと落ちていく。そうして車輪がガタガタガタッと音が鳴ったと思ったら、次の瞬間ボフッと小さく爆発したのだ。
二人が驚き、抱き合う様に身を寄せてお互いの両手を絡めている姿を横目にしながら、俺は火が燃え移らない様にサッと布を被せ消火活動をした。
アリの魔法で周りに被害はなかったが、玩具の残骸は軽く燃えている。ちゃんと消しておかないと危ないからね。
そして驚いている二人をそのままに、サッサと片づけに入る。ああ、証拠品である玩具の残骸はそのままに。
「ふう、こんなものか」
俺が片付け終わって振り返ると二人の令嬢はまだくっついたまま離れられずにいる。
そんなに怖かっただろうか?
「どうしたの? もういいよ、座って」
俺がソファに促すと、やっとディリア嬢から離れたアリが恐る恐る俺にたずねてくる。
「今、何が起こったのですか?」
「ん? 小麦粉は爆発するでしょう。車輪で火をつけて事故現場の完成」
「いえ、全く分かりません。小麦粉が爆発? 初めて聞きました」
俺の言う事を胡乱な目つきで答えるアリ。うわあ、アリのそんな目、初めて見た。ブライアンやシフォンヌ嬢にはよくされるけどね。でも、そっかあ。向こうの世界では結構皆知ってるはずなんだけれど、この世界では誰も知らないのかな? じゃあ、ちょっと説明。
「ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で火花を散らすと爆発するという現象がおこるんだけれど、今の状況がそれになるんだよね。粉塵が小麦粉、浮遊させるにはバラまいたらいい訳。そこに車輪を高速で回転させ摩擦を起こす事で火花が出やすい様にしておいた。一回で成功するとは俺も運がいい」
ニコニコと笑って二人を見ると、唖然とした表情で俺を見つめていた。
「……ユマ様の頭の中身はどうなっているのかというブライアン様の気持ちが、今初めて分かりました」
え、どういう事? アリが引いちゃった? 怖がられてる?
恐る恐るアリに近付いて手を出したり引っ込めたりしていると、俺の行動に気付いたアリが首を傾げる。
「どうしました、ユマ様?」
「いや、なんか、その、驚かせたかなって……」
「今更じゃないですか?」
グサッ!
うん、いや、本当、アリの前では今まで好き放題してきたから今更だと言われれば今更なんだけれど……なんだろう? なんかアリに距離を取られるのは辛いなって思ってしまった。
俺が項垂れていると、キョトンとしたアリがそんな俺を見てクスリと笑う。
「変なユマ様。こんなに凄い事を披露した後に落ち込むなんて。改めて第二王子様の知識は凄いんですねって思っただけですよ」
「そ、れだけかな? 気持ち悪いとか、離れたいとか思わなかった?」
「どうしてそう思うんですか? それなら私も充分気持ち悪い人ですよ」
ハッと気付く。
そうだ、アリは普通の人が見えない妖精のお蔭で、幼い頃からずっと人に距離を取られていたんだ。
思わずジッとアリを見つめていると、ニコリと微笑まれた。その笑顔からは俺を気味悪がっている様子は微塵も感じられない。
辛い環境で育ってきた子だというのに、本当に良い子だよな。俺は自分の中から溢れる彼女への愛しさで思わずアリへと手を伸ばす。
その手をガッと掴まれた。
「何をしているんですか、ユマ様」
ブライアンの登場だ。うん、本当にお前は最高のタイミングで現れるよ。
ふと横を見ると、ディリア嬢が真っ赤な顔で固まっている。どうした? と視線を向けると彼女は弾かれたように肩を揺らす。
「も、申し訳ありません。なんだか二人の空気が、その……」
なんかもごもごと言いながら俯いてしまった。なんか俺、やらかした?
玩具の残骸を見た二人に状況説明すると、半目をしたシフォンヌ嬢に魔法で燃やせばよかったんじゃないですかと言われた。ディリア嬢も俺の力だとは思っているが、魔法を知っているのだからその方が簡単じゃなかったのかと言われて、ちょっと落ち込む。
どうやら俺の行動は、令嬢二人を怖がらせただけだったようだ。
そうこうしている間に従者達も戻って来て、アリは隣室へシフォンヌ嬢と着替えに行った。
お茶の用意が出来たので、改めてディリア嬢と二人お茶を飲む。
「……ユマノヴァ様は、本当にアリテリア様を大切に思われているんですね。でもどうして彼女はあの様な姿をしてらっしゃるの?」
ディリア嬢が小首を傾げて聞いてくる。まあ、確かに普通はそこに疑問がいくよね。
俺はシラッとお茶を飲みながら答える。
「貴方も知ってるだろうが、俺の評判は余り良くないからね。俺が会いたいからって彼女を呼びつけていると、俺のいない所で彼女を傷付ける輩がいるかもしれない。その予防策」
「そこで男装をさせるというのが、ユマノヴァ様の不思議な発想ですわね」
男装姿が俺の発想だと簡単に受け入れられているのは少し引っかかるが、この際些末な事だと受け流しておく。
「気付かないでしょう。まさか第二王子の婚約者の貴族令嬢が男装しているなんて」
「確かにそうですが、アリテリア様もよく受け入れられましたね。令嬢ならそのような姿、屈辱とは言いませんが不本意ではありますよね」
「そこがアリの素晴らしいところだね。君も感じただろう、彼女の純粋さ」
「はい。……そうですね、ユマノヴァ様と大変お似合いでした」
「ん? それはどういう意味かな? 俺が純粋なアリを騙していると?」
「いいえ、純粋なお似合いの二人だと申しております」
俺が純粋? 何そのおかしなセリフ? ディリア嬢ってば落ち着いたと思ったけれど、またプチパニックおこしているのかな?
首を傾げる俺にディリア嬢は苦笑する。そうして何かを考え込むように、口元に自分の拳をあてがうと、突然居ずまいを正す。
「……ユマノヴァ様、こんな事、私が申しあげるのも如何なものかと思いますが、教会にはお気を付けください」
今の今まで微笑んで会話していたディリア嬢が突然、深刻な表情をしてそんな事を述べて来た。
ん、ディリア嬢の口から教会? とな。




