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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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初めましてのお茶会

「突然の呼び出しに応じてくれてありがとう、アリ」

「いいえ、ユマノヴァ様とお会いできるのは嬉しいですから、いつでもお呼びください」

「そんな事言っていいの? 調子に乗るよ」

「フフフ、シフォンヌも同じような事言ってました。私の態度はユマノヴァ様の行動を増長させると」

「それは目に余るという事かな?」

「いいじゃないですか。私はユマノヴァ様に調子に乗ってもらいたいです」

「……ねえ、前から思ってたんだけど、なんでユマノヴァ様なの? ユマって呼んでって言ったよね。俺はアリって呼んでるよ」

「あ、あれは、あの時だけで……そんな、今は状況が違うし……」

「うん、前より親密になったよね。なんと言ったって正式に婚約は認められたんだし。だから、ね」

「………………」

 真っ赤な顔で俯いてしまった可愛い婚約者の顔を撫でようとすると、その手を後ろからガっと止められる。見なくても分かる。犯人はブライアンだ。

 ブライアンは、グググっとその手を後ろに持っていきながら、アリとの距離をあけようとする。そうして俺にしか聞こえない小声で、いつもの文句を言う。

『だから、ね。てなんですか? やめてください。鳥肌が立ちます』

『だったら聞くなよ』

『そういう訳にもいかないでしょう。あちらでレナニーノ様と聖女様が、顔を赤くしてお待ちですよ』

『わざと聞かせてるんだからいいんだよ。これで聖女の口から、俺達が本当に想い合ってるとジュメルバ卿の耳に入れてもらえたら儲けものだ』

『貴方って人は……』


 暖かい陽気の中、城の庭園では第一王子と第二王子、そして第一王子の想い人、聖女様と先日晴れて第二王子の婚約者に認められたホワント伯爵令嬢、四人のお茶会が開催された。

 兄王子がちゃんと聖女に都合の良い日を確認して開かれた本日は、あの日から三日経っての事だった。

忙しかったのだろうな。ほら、ちゃんと予定聞いて良かっただろ。

 俺はアリを連れて、兄王子と聖女が待つ場所へ移動した。

「兄上、イルミーゼ様、お待たせいたしました。愛しい婚約者に会えて喜びの余りついはしたない姿を見せてしまいました。お許しください。改めて紹介いたします。私の婚約者、アリテリア・ホワント伯爵令嬢です」

 俺の紹介にアリはカーテシーをとる。なかなかどうして綺麗なもんだ。とても世間知らずには見えない。

「お会い出来て光栄です。アリテリア・ホワントと申します」

「アリ、こちらが兄のレナニーノ・クロ・リガルティと聖女のイルミーゼ・ジュメルバ嬢だよ」

 アリの頭を上げさせ、次に兄と聖女の紹介をする。

「やあ、君がユマノヴァの大切な人か。可愛らしい方だね」

「初めまして。イルミーゼ・ジュメルバと申します」

 二人も挨拶を済ませると、俺はアリを座らせ自分も席に着く。侍女達がお茶を入れ、離れたのを確認して話を始める。

「本日はお忙しい中、お集まりいただいてありがとうございます。イルミーゼ嬢とは私も初めてお目にかかりますが、堅苦しいものではありませんので、どうかお気楽に。本日は女性に評判だという〔アクア〕というカフェから取り寄せたお菓子をご用意させていただきました。お口にあえばよいのですが」

「まあ、懐かしい」

 俺の言葉に目を輝かせたのは、聖女様。そんな聖女に兄王子は訝し気な顔をする。

「イルミーゼ、懐かしいってこの店を知っているのかい?」

「はい。私が教会に引き取られる前に食べた事のあるお菓子です。父がたまたま王都に出かけた時に買って帰ってくれた物で、一つしか食べられなかったけれど、それでも父が一生懸命お金を都合してくれて……フフ、本当に懐かしい」

「よろしければどうぞ。遠慮などいりませんよ」

「はい、ありがとうございます」

 聖女は片田舎の村娘だ。贅沢は出来なかっただろうが、両親と姉との四人暮らしの生活は彼女を満たしてくれていたのだろう。お菓子を頬張る嬉しそうな笑顔がそれを物語る。

 本来ならその幸福は一生続いて行くものだっただろう。聖女の力などが現れさえしなければ……。彼女もまた被害者ではあるよな。権力争いや妖精の気まぐれの。

 そうそう、本日はアリにくっついている妖精ティンには留守番を命じている。その他の妖精にも城には来るなとティンの方から話してもらっている。万が一、聖女がアリの力に気付いたら、ちょっとややこしい事になるからね。

 だから聖女のそばにも妖精はいない。今はまだ気付いていないがその内、違和感を感じるだろう。

 実はそれを誤魔化す為の〔アクア〕のお菓子でもある。聖女の過去はリサーチ済みだからね。まあ、それだけじゃなく聖女も色々と大変だろうから、ちょっとした同情心もあるかな。アクアのお菓子で束の間の癒しを楽しんでもらえたらとも思う。

 しかし、改めて見ると聖女は流石ヒロインという見た目をしている。ピンクゴールドの美しい髪に愛らしい容姿。貴族令嬢にはない溌剌さが、彼女の行動のあちらこちらに現れている。兄王子が夢中になるのも分かる気がするな。

 まあ、俺にはアリの小動物のようなクリクリした大きな垂れ目に、仔犬のような愛らしさの方が興味を惹かれるけどね。たまに見せるしっぽの垂れたオドオドした感じが堪らない。

 俺がニマニマ笑っていると、目が合ったアリに目を細められた。

「……ユマノヴァ様、何か変な事考えてます?」

「う~ん、アリが可愛いなって事しか考えてないよ。それよりも今日も淑女口調だね。ちょっと寂しいな」

「うっ、だって、それは……レナニーノ殿下の前では、無理です」

「うん、我慢しよう。それよりもアリも食べて。毒見で一通り食べたから、これなんかアリの好みかもしれないね」

「王子様が何やってんの⁉」

 俺の毒見発言に、思わずタメ口に戻ったアリ。うん、こっちの方が好きだな。

 アリはハッと我に返って、真っ赤になって俯いてしまった。ごめん、ごめん、いじめすぎちゃったかな? 控えているシフォンヌ嬢とブライアンの視線が冷たい。

「……お二人は、とても仲がいいんですね」

 アリの肩を抱いていい子いい子と頭を撫でていると、唖然とした聖女の声が聞こえてきた。

「ユマノヴァは女性に対しては誰にでもこういう態度をとるけれど、アリテリア嬢には少し特別かな?」

 あ、カチンときた。

 おい、兄王子さんよ。誰にでもこんな態度取るわけないだろう。言っとくけどな、俺は口は軽いがスキンシップはアリにしかとった事ないぞ。前婚約者とも、エスコート以外体に触れた事もないからな。マジでやってたら、例え王子といえど普通に変態で通報されるぞ。

 アリに変な誤解させるような発言をした兄王子を睨むと、兄王子も負けずに俺に険しい顔を向けている。

 なんだ? 首を傾げる俺の視界に、お菓子を見ながら微笑む聖女の顔が入ってくる。

 ああ、そうか。聖女の笑顔を奪ったからか。

 アクアのお菓子で聖女が嬉しそうにする姿を目の当たりにして、そんな笑顔を容易く引き出した俺に嫉妬しているのだろう。

 ――なんて心の狭い奴なんだ。乙女ゲームの余裕ある王子様とは全然違うじゃないか。

 俺はげんなりしながらも雰囲気を悪くしない為、兄と聖女に笑顔を向ける。

「分かります? アリは特別です。なんと言ったって運命の相手ですからね。私は彼女に出会えた幸運を神に祈りたい。ああ、ここに神の代行である聖女様がいらっしゃいます。貴方にもお礼を申し上げたい。アリに出会わせてくれてありがとうと」

 俺はアリを抱きしめていない手を、大げさに聖女に向ける。

「兄上と聖女は如何ですか? お二人はお互いに運命を感じた事はございませんか? 私から見るとお似合いのお二人だとは思うのですが」

 そんな事を言ってやると、それまで憤然としていた兄王子はパッと輝かしい笑顔を聖女に向ける。

「私は初めて会った時からイルミーゼ、君に運命を感じていたよ。君は? 君は私に何も感じてはくれないのかい?」

「え? あの、私……」

 俺の行動に唖然としていた聖女だったが、兄王子に答えを求められ我に返る。そうしてジッと見つめられ、ワタワタと焦り始める。

 ちょっと可哀そうだったかな? でも仕方がない。ここで聖女に話をふらないと兄王子からのいらぬ嫉妬が倍増しそうだったから。下手したらアリにまで嫌な思いをさせてしまう。

 俺はそっとアリに耳打ちする。

『ごめんね。変な事に巻き込まれたね。けれど心配しないで。ちゃんと俺が守るから』

『ユマ様、私大丈夫だよ。全然気にしてない』

『それはそれでちょっと……』

 俺の女性問題を全く気にしていないと言うアリに、なんとなく複雑な思いを感じたけれど、まあ、仕方がない。それよりも今は目の前の聖女が、どんな答えを兄王子に返すかが問題だ。

 俺とアリは大人しく二人を見守る。周囲にいる使用人達も息を潜めている。

 静寂が辺りを包む中……一際高い声が聞こえてきた。

「これは一体どういう事ですの、レナニーノ様!」

 おおお~、レナニーノの婚約者ガーネット・グランディ公爵令嬢、悪役令嬢の登場だ。

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