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モブの生活が穏やかだなんて誰が言ったんだ?  作者: 白まゆら


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お義父さん、娘さんを僕にください

 王家の紋章が入った煌びやかな馬車がホワント伯爵邸に入った事は、翌日には城中で噂の的となっていた。

 思惑通りの反応に、俺は内心ほくそ笑む。

 あの派手な馬車は、第二王子の存在を明確にする時に乗り回している代物だ。要は、第二王子は金遣いの荒い遊び人であると印象付ける時にわざと乗っているのだ。

 その甲斐あって、翌日には必ずといっていいほど噂になる。俺はそれを知っていて、あえてこの馬車に乗ってホワント伯爵家に向かったのだ。

「まだ婚約が決まった訳でもないのに、こんな馬車に乗ってきて良かったのですか? ジュメルバ卿には、まだユマ様の存在は知られない方が良かったのでは?」

 派手派手しい馬車に辟易したように、ブライアンが問う。

 ブライアンは最初、いつものお忍び用の馬車を用意しようとしていた。そこをこの馬車にかえたのは俺だ。

 彼女と俺との関係がまだ表沙汰に出来ない今、疑問に思うのも当然だよな。

 俺はブライアンに簡単に説明する事にした。

「対策の一つだよ。婚約が決まれば俺の存在がハッキリするし、婚約しなければ俺が彼女の周りをウロチョロしている事が伝わる。どちらにせよ、ホワント伯爵とは別に俺がつけた護衛の存在で協力者が出来た事は、ジュメルバ卿にも伝わっていると思う。それが王子だって事は、良くも悪くも早めに伝わった方が良いと思ったんだ。後ろに王族が控えている。まあ、下手な事はしない方がいいぞという脅しだね」

「……なるほど。確かにどのような状態であれ、ユマ様の存在を公にする事はいいかもしれませんね。王族が気にかけている者を害した場合、待ち受けるのは破滅のみ」

 俺の話にブライアンがコクコクと頷く。いや、破滅って……どんだけ王族怖いの。あ、この国の王族は怖いか。拳で話付けるからね。

「俺は友人設定に持ち込んでもいいと思っているんだけど、この際ブライアンがシフォンヌ嬢と恋仲だと発表しようか。それならば俺がちょっかい掛けてシフォンヌ嬢の働き先、ホワント伯爵邸に出入りするのも変には思われない」

 ゴンッ!

 隣で盛大な物音が響いた。

 どうやらブライアンが、馬車の壁に頭を打ち付けたようだ。壊さないでね。

「な、な、何をおっしゃっているんですか、貴方は。俺とシフォンヌ嬢が……そんな。彼女に迷惑です」

 ブライアンは顔を真っ赤にしながらも、俺の提案に反論する。打ち付けた頭は痛くないのだろうか? 全くもって頑丈な奴だ。

「そうかな? 彼女、俺とアリの婚約よりも喜んで賛成してくれると思うけれど」

 俺がそう言うとブライアンは「そんな事、絶対に彼女に言わないでください」と喚き散らす。

 なんで? 誰から見たってもう完全に両想いなんだから、いいじゃないか。俺は知ってるぞ。今日の訪問の連絡を取り合うのにお前がわざわざホワント伯爵邸に向かい、シフォンヌ嬢もわざわざ玄関口まで出てきていた事を。下の者に任せればいい事をお互いにしていたのだから、それだけで十分気持ちは伝わっているだろう。

 ブライアンの顔を見ながらニヤニヤ笑っていると「やめてください、その顔」とものすごく嫌そうに言われた。おかしいな? イケメンはニヤニヤ笑いをしても、許されるはずなんだけどな。

 そうこうしている間に、俺の派手派手馬車はホワント伯爵邸に到着した。

 出迎えに出たホワント伯爵邸の使用人達は、一瞬で皆頬を引き攣らせている。

 ハハハ、想像通りの良い表情だ。



「……ユマノヴァ様、使用人に聞きました。あの馬車に乗って来られたのですね」

 ホワント家の応接室に案内された俺達を出迎えてくれたホワント伯爵は、挨拶もそこそこに胡乱な目で俺を見据えた。

「ああ、一種の余興だ。気にするな。アリ、元気だった?」

「はい、ユマノヴァ様におかれましては……」

 ホワント伯爵を片手で制すると、俺はアリに向けて手を上げる。

 前回の少年姿も可愛らしかったが、今日はちゃんと貴族令嬢として着飾ってくれている。

 クリーム色のワンピースドレスに白色のレースのリボンで髪をハーフアップに結っている姿は、年相応でなかなか可愛らしい。結構好みだ。

 アリはカーテシーをとりながら、定例的な挨拶をしようとする。

「俺とアリの仲だ。堅苦しい挨拶は抜きにしよう」

 俺がアリの手を取り挨拶をやめさせると、ホワント伯爵にアリの手を奪われた。

「どんな仲ですか? まだお会いしたのは二回目でしょう」

「時間は関係ないよ。ね、ブライアン、シフォンヌ嬢」

「ごほお、げほげほ」

 俺は伯爵の言葉を否定し、隣で静かに控えていたブライアンとシフォンヌ嬢に話をふった。

 ブライアンが盛大にむせた。

 からかい甲斐のある奴だ。だが俺は知っている。お互い顔は見ない様にしてはいるが、入室した際、目と目で会話をしていた事に。アイコンタクトが出来るまでの仲にはなったようだね。


 俺はソファに促され、ブライアンと共に伯爵の対面に座る。伯爵の横にはアリとシフォンヌ嬢が座っている。

 最初、ブライアンとシフォンヌ嬢は護衛と侍女の立場からソファに共に座る事を辞退していたのだが、伯爵に促され渋々腰を下ろした。

 どうやら伯爵は気さくな上に、シフォンヌ嬢においては娘と同様に可愛いらしい。

 これはシフォンヌ嬢に婚約を申し込む際、ブライアンは父親であるイーブス子爵はもちろんの事、伯爵にも許可を得ないといけないようだ。ガンバレ、ブライアン。

 お茶を出されるとすぐに人払いをしてもらい、本題に入る。

「早速で悪いのだが、伯爵の見解を聞かせてほしい。お互いにアリから話は聞いていると思うから率直に聞くが、伯爵はジュメルバ卿と繋がりを持ちたいか? 私が王族だという事はこの際横に置いてくれると嬉しい。でないと本心が聞けないからね」

 俺は伯爵がアリを嫁がせて、ジュメルバ卿すなわち教会との関係を強固にしたいかとたずねる。

 反対勢力にある王族の俺の前では言いにくい事ではあるが、そこはちゃんと確認しておかないと、後で問題が生じる事になりかねない。まあ、伯爵の性格からして娘に無理をさせてまで教会と結びつきたいと思う人間ではないと思うが……。

「第二王子である貴方様を王族だと思わず話せとは、無茶を言われる」

「無茶は承知だ。しかし、娘が可愛いのであればそこは許容してもらわないとな」

「では、その前に聞かせていただきたい。何故そこまでして娘に協力してくださるのですか? ユマノヴァ様には、娘をジュメルバ卿からお守りして頂いても何も得する事はございませんでしょう?」

 ――意外と狸だな。

 ホワント伯爵は、王側と教会との中立の立場を取っている。どちらかというと領地にいる方が好きで、権力やら王都には興味がない人物だった。年頃の娘がいなければ領地でのんびり暮らしたかっただろう。

 彼が王都に来たのはひとえにアリとシフォンヌ嬢の為だ。

 年頃の娘を社交界に出さずに田舎に閉じ込めるのは、流石に忍びなかったのだろう。そこでジュメルバ卿に捕まってしまったのは、なんだかやるせないが。

 王都にいた頃の彼の噂を耳にすると、この国では珍しく性格は穏やか。官僚職に就いてくれているのだが、力を誇示する上級貴族の中で下っ端官僚にも優しく接してくれるため、評判はいい様だ。

 王都に戻った今もまた同様の席で頑張ってもらっているが、既に中々の人気を得ている。

 上司にしたいナンバーワン。それがホワント伯爵だ。

 だが、優しいだけでは中間管理職は務まらない。裏を読み取る能力がなければ、城ではやっていけないのだ。まさに今、ホワント伯爵からはそれを感じた。

 王族が反対勢力である教会トップのジュメルバ卿が狙う娘に、なんの感情も抱かず無欲で助けるなどありえるはずもない。

「要するに、アリを助けた見返りにホワント伯爵は王族側に付けと。もっと欲を言うならアリの力を聖女の様に利用したい。と私の口から言わせたいのだな」

「「「!」」」

 伯爵と俺との話を聞いていたアリとシフォンヌ嬢、ブライアンは俺の口から出た言葉に驚いた表情をする。いや、少女二人は仕方がないとしても、ブライアンならそこは読み取っておけよ。俺達腐っても貴族だぞ。

「お気を悪くされましたか?」

 ホワント伯爵が俺の顔色を見てくる。うん、これぐらいの度胸はないとね。ジュメルバ卿から娘は守れないよ。俺は軽く首を振る。

「いや、それぐらいは想定済だ。正直、もっと辛辣に考えられても仕方がないと思っている」

「では、認められるのですか?」

「う~ん、そう思われても仕方がないとは言ったが、認めるか認めないかと言われると認められない。違うと言いたいね」

「それは、どういう……?」

「いや、私の思考はもっと単純なものだったんだ。単に二人が可愛くって助けてやりたいと思っただけだよ」

「は?」

 それまで俺の真意を探ろうと鷹のように目を光らせていた伯爵が、一気に間の抜けた表情になる。ああ、その顔の方が親近感湧くね。俺はアリに視線を向ける。

「もっとぶっちゃけると、アリが気に入った。それだけ」

「は? ぶっちゃけ、とは? いえ、気に入ったって……娘をですか?」

「うん、可愛いよね」

 ニッコリと笑う俺に固まる伯爵。ブライアンが右手で顔を覆い、シフォンヌ嬢が胡乱な目をしている。アリは可愛く真っ赤になっていた。

「それは、あれですか? その、婚約という話は、偽装ではなく本心だと?」

 伯爵はフルフルと震えながらも、俺の思考を読み取ろうと頑張っている。

「いや、偽装だよ」

 ちゃんと本当の事を言ったのに、また固まられてしまった。正直に話しているだけなのにな。

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