燻る光
人の歴史は繰り返す。「翡翠の瞳」そう呼ばれた者たちは、時に迫害を受け、時に英雄と呼ばれ、そしてまた黒き運命を背負わんとしたとき、一つの魂が命と成る。
「アメク」、そう名付けたのは同じ名をもつ神社の宮司だ。決して裕福ではないが青々とした木々に囲まれ、そこに住む者たちが各々で自給自足の生活を営むくらいには豊かな自然の残る小さな村の小さな神社に二人で暮らしていた。
「天久神社に祀られている神様と同じ瞳の色を
しているからって頂いた名前だけど僕には荷が重すぎるな」
そうぼやきつつ薪として使えそうな枝を集めながら山道をとぼとぼと歩く少年の姿ははたからみれば変わり者と思われても仕方がなかった。
「やーいヨソ者ー」そうののしりながら石を投げつける村の少年少女が3、4人はいただろうか。「さっさとでてけヨソ者ー、お前がいると野菜の育ちが悪いってとーちゃんが言ってたぞー」「そうよそうよ、あんたのせいで神主様も死んじゃったし、吾郎にーちゃんも都会に行っちゃったってお母さん言ってたもん」子供たちの屈託も容赦もない言葉の刃を背中に受け涙をこらえながら、家路に着くアメクであった。
「すまないねアメク我が村の子ながら嘆かわしいよ」薪を火にくべるアメクの心に囁きかけるのは捨て子だったアメクを拾い、育てた宮司が亡くなった日の蒸し暑さと涙とでとても湿度の高い夜に現れ自らを「氏神」と名乗りアメクをより一層変わり者たらしめる存在である。「僕が氏神さまとお話しできることを妬んでいるんですよ。なんたって氏神さまはこの村の英雄なんですもの」そう呟くアメクの心は薪をつぎたされながら明るく温かさを保つ焚き火とは裏腹に湿っていた。
「ああああああああああああああああああああああ!」
何事だと飛び起きたアメクは大慌てで外へと飛び出した。
満月がちょうど真上にわざとらしいほどに輝いているので一瞬わからなかったが、よく目をこらしてみると村の方から真夜中より黒い煙と熱さを感じないあるいは感じたくない火がぼんやりと光っているのが見えた。人の肉の焼けた臭いが風に乗って鼻腔で思い出す頃にはアメクの目の前におそらく村人を焼き殺した犯人であろう男が立っていた。「ご…吾郎お兄さん…」月の光に照らされ潤いにより輝きを増す翡翠の瞳に映るのは宮司以外で自分に良くしてくれて村人からの嫌がらせからも守ってくれていたアメクが兄と慕う人物であった。アメクは焼け焦げた臭いを纏う吾郎の変わり果てた姿に絶句し、後退りすらできずにただふるえていた。そんなアメクを血走った目で睨みつけ言葉とも呻き声ともつかない音を苦しみを交えながら喉でならす吾郎は赤白く不気味な右手でアメクを村人にしたように焼き殺そうとした刹那
魂が叫んだ(呼べ)と我が名は「カミヤドシ」
アメクは無我夢中でその名を叫ぶとアメクの瞳と同じ色の光で包まれ気がつくと自分の手が吾郎の胸の辺りを貫いていた。しかしそれは物理的なものではなくなにかこう人の心や魂に触れるような識ってはいけないようなことを識るようなそんな不愉快さと生ぬるさを感じながら手を引き抜くとどす黒く輝く物質ともいいがたいなにかを握っていた。あぁこれが魂なんだと察した瞬間吾郎はどさりと倒れた。
「う…うわあああああああ!」人を殺してしまった、しかもこの世で数少ない自分に優しくしてくれたひとを、この手で。