この物語のオチは最悪です
彼は一言で表すとダメ人間でした。何をやってもダメな人というものです。彼はコミュニケーション能力に問題があり、中学校で友達作りに失敗してしまいました。彼は学校が嫌いになりました。
「学校に行く理由がないから行かない。」
彼はよく分からない理屈を親に言って、学校を休むようになりました。
自宅ではゲームをします。しかし、彼はゲームも下手くそなので、すぐに辞めてしまいました。
彼は本を読み始めました。本の世界は彼を魅了しました。中でも「異世界転生もの」は彼を大変元気づけることができました。
「僕だって、チート能力さえあれば……」
彼はそんなことを口にしながら度々妄想の世界に浸ります。
ある朝、彼は目を覚ますと周囲が何もない空間であることに気付きます。彼が呆けていると、突然少女が現れて、言いました。
「死んじゃったんだよ。君。」
「えっ。死んだ?」
彼はまだ混乱しています。少女は説明します。
「うん。火事で燃えちゃったんだよ。本がたくさんあったから、すぐに燃えちゃった。」
ああ、やっぱり僕はなにをやってもダメなんだ、と彼は自分が死んだことを実感します。少女は、彼が納得したことを確認すると
「君はこれからその体で異世界に転生するんだよ。ちなみに、何か欲しいものはある?」
と、言いました。彼は、思わぬ展開に目を見開きます。
「僕は、チート能力が欲しい。」
彼は、すぐに答えます。考えるより先に口が動いていました。
それを聞いた少女は彼の頭に手を当てて、何やら呪文のようなものを唱え始めました。
能力を与える儀式だろう、と彼は解釈して儀式が終わるのを待ちます。
しばらくして、少女は呪文を唱え終わり、最後に
「じゃあ、いってらっしゃい!」
と、言いました。その瞬間、彼は突然の眠気に襲われ、意識がだんだんと薄れていくのを感じました。
彼が目を覚ますと、彼の周囲にみたことのない世界が広がります。
七色に光る木々。緑色の空。赤色の湖。二足歩行する獣。
彼は異世界に転生されました。
想像していた世界と多少違いますが、それでも彼は異世界に来たことに喜び、これからの未来に期待して胸を膨らませます。
「まずは情報収集と、食糧だな。」
と、彼はつぶやきます。なんだか頭がいつもより冴えている気がしました。
彼は早速、行動に移そうとします。その瞬間でした。
グサリ。
どこからともなくやってきた矢が、背中から彼の心臓を貫きます。
「うっ……嘘……だ……」
と、彼は血を吐きながら言います。
彼の体から大量の血が流れます。心臓を貫かれた彼は、もはや身体を動かすことができません。
一体なぜこんなことになったのだろうか。彼の脳は異常な速度でひとつの結論に辿り着きます。
チート能力が欲しい。
チート能力。
ちーとのうりょく。
"血"と"脳力"。
彼は中学校の頃に言われた「早口すぎて聞き取れない。」という自身のコミュニケーション能力の最大の問題点を思い出します。今更思い出したところで、何も変わりません。後の祭りです。
彼の脳はまだ活動を続けています。しかし、彼の脳力をもってしても、この状況を打破する策を導きだすことは不可能でした。
はい。駄洒落オチです。しょーもな。