表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/67

7


あの日以来、恵の休日は病院に通うのが日課のようになっていた。何度か三浦と一緒に行くうちに2人の時間が合わなくなり、最近は恵のみ毎週末お邪魔している。


あまり頻繁に訪ねるのも申し訳ないと思っていたが、彼のお母さんから『来週も来れる? 』と聞かれて断ることが出来なかった。


恵が彼の声を聞けたのも、久しぶりに再会したあの初日だけだった。熱が上がったり下がったりはしているが『何とか……』最近は殆ど眠っている時間が増えていると彼のお母さんが教えてくれた。


その後、恵が病室にいても彼の声は聞くことが出来なかったが、彼のお父さんやお兄さんに会うことが出来たりと、申し訳ないくらいに良くしてもらえて彼のご家族とすっかり仲良くなっていった。


病室では、彼の幼少時代や本人が起きていては聞けないような話まで教えてもらえて楽しかった。


高校の時、何度か話が出てきていたから彼にお兄さんがいた事は知ってはいた。

彼のお兄さんは、私たちの5つ年上で、剣道を始めたばかりの頃に弟が産まれる事を知らされ、嬉しくて大好きな剣道から名前を付けてとねだったそうで……漢字も本当は【健】ではなく【剣】にしたかったと、彼の名前の由来を知れた。


彼が幼稚園の頃に、かの有名な2段詰みのアイスを食べに行った時、お兄さんは『カップで食べよう』と提案したのに『絶対にコーンで食べたい』とただをこねたあげくに、一口目から一番上が落ちて悲しくて泣いていたら、その下のアイスまで落っことして、コーンのみ食べる羽目になったとか。


雨上がりにお父さんの長靴を履いてお庭で遊んでいたら、ブカブカ過ぎて盛大に転んだ事とか。


お兄さんの週3回ある剣道の夜の稽古に、彼が物心付く前から当たり前に参加していて、自分の防具が欲しいと泣いたこと。その次の稽古日に指導の先生が園児用の竹刀よりも、半分ほど小さい竹刀をオリジナルで作ってくれたそうで『この2本の竹刀が降れるようになったら、団の防具貸してやる』と約束してもらい、肌身離さず持ち歩き家でも負けじと素振りや踏み込みを練習していたことなど……


『まぁ、俺たちの所属していた剣道錬成会は、基本面を付けての稽古は3年生からで。それまでは面以外の防具付けるのみだから、団の防具を借りるにしても本格的な稽古はしないし。それまで基本的な事を教えてもらってて……竹刀の正しい握り方や、力の入れ方、ささくれなどの手入れ、胴着、袴の着装やたたみ方。体力作りはもちろんだけど、すり足、踏み込み、体さばきが出来るようにとか? それが出来たヤツから面付けの仕方教えてもらったな~。意外と他の団よりはゆっくり指導してくれていたけど、無理がなかった分楽しかったしな。後は……そんなもんかな? 』


お兄さんは当時を思い出しながら『あ~稽古の後半は打たせてもらってたかな? 』と話してくれた。


家では、廊下でもリビングでも踏み込みの練習してたらしく『バタバタしててうるさかったけど、一生懸命練習してたから何も言えなかったわ』と困り顔の彼のお母さんが補足してくれた。


彼のお兄さんが『そうそう』と思い出したように、踏み込みで大きな音を出せるようになった時の『ドヤ顔がムカついた』など彼の話しは尽きなかった。



『こいつ実は起きていて、恥ずかしいから寝たフリしてたりして~』


なんてお兄さんがツッコミを入れたり、彼のベッドを囲んで笑いが絶えなかった。


先日は、下の売店に売られている平日限定メロンパンを、食べる分と持ち帰る分を恵の為に買ってきて頂いていた。ノーマルのメロンパンに見えるのに、クッキー生地の所はサクサクで甘く下のパンの部分はしっとりとしていて、とっても人気のあるパンということが頷けた。


「来週は夜ご飯でも一緒にどう? 」


と誘って頂いたり病室に着くや否や、今日病室には彼のお父さんがいるからと……


「気晴らしに付き合って♪ 女同士で出掛けましょ」


と買い物に出掛けたりして娘のようにして頂いた。


何度目かの面会の時に、病室から裏山の桜が見頃になっていた頃があった。彼のお母さんが……


『せっかくだから近くで見てきたら? 』


と提案され、彼のお兄さんと2人で桜を見に行く機会があった。



当初寒々そうに見えていた裏山は一面が桜の木になっていて、恵たちの他にも数人お花見をしている人の姿が見えた。


受付のおじさんたちに事情を話し、首から下げていた入室許可書を一端お返しした。


『今日は暖かいからゆっくり観ておいで~』


なんて声をかけられ、恵たちは病院の裏手に向かっていた。


裏山は誰でも散歩が出来るように整備されていて歩きやすかった。

桜の銘柄は分からなかったが、学校の校庭に植えられているのと同じ感じがしていた。


恵の住むココは、卒業シーズンよりも入学式あたりから桜が見頃になる。新学期を連想する桜の木は、どの木もほぼ満開に近くとてもキレイだった。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ