67 エピローグの その後で
石造りの大聖堂。
いつもなら転移門が発生した合図にいち早く対応する為、過去に戻った訪問者が増やしたパラレルワールドが本体と接触しないようにする為、その中央でマスターが時空の歪みを修正していて、リューズがその辺でお昼寝をしているはず、だった。
いつもなら……
今、この薄暗い大聖堂には誰もいない。
第1から第10惑星へと繋がる扉の魔法石たちも光ってもいない。
しかし、そのシンとしている大聖堂から、どこからか本をめくる音が微かに響いている。
音のする方に目を向けると微かな光が漏れている入口があった。
しかし、その入口にはいつもの魔法石はない。
入口から中を覗くと、薄暗いその空間から一人、後ろ姿がみえた。無数の本に囲まれているその空間で、マスターがいる周りのみ明るかった。
入口からその部屋を見ると、四方に点々と何かが無数に光っている。光から形状を想像すると、そこは縦長の丸い筒状な部屋の作りだとわかる。
ただ、その光があまりにも無数に見えるので何重層になっているのかわからなかった。
その光だけでは暗くて天井も底も見えないが、それでも辺りを見渡せば入口に近い壁でも所々に光っているのがランプだとわかる。
その近くに設置してあるランプのおかげで、壁にあるのが本だということが見てとれる。
その無数に見えている本は様々で、文字や背表紙の状態から新しいのも古そうなのもあり、厚みも大きさもバラバラだった。
入口からマスターの所まで視線を動かせば、どうやら大聖堂からこの空間に伸びる真っ直ぐな床が、プールの飛び込み台の様な作りになっていて、筒の様な空間にせり出ている。
その床の先には、大きなローテーブルが置いてあり、たくさんの本たちに囲まれたマスターが正座をして何やらブツブツ呟いている。
左手には本を持ち、右手にはお箸の様な棒を持ち指揮者の様に振っている。
マスターが持っていた本をパタンと閉じ、次の本を手にする。
読み終わったその本は、マスターの手を離れローテーブルに置かれると、フワリと浮かび下の方に消えていった。
次の本は上にフワリ。
そしてマスターが右手の棒を空間で動かしながらブツブツ言う毎に、どこからか本が飛んできては、ローテーブル上でパラパラと自動的に開いて静止する。そうやって何冊もの本が増えたり減ったりしていた。
「よし。こんな感じでしょう……」
マスターは次に先代から受け継いだ古の本を持つと、その表紙に向かい右手の棒で何やら記号なのか、文字なのかを書き出している。
キラキラと光る暗号が次々と本に吸収されていく。
全ての暗号が消えると、マスターは本をゆっくりテーブルに置き、棒でチョンと触れた。
何かが起動したかのように、本が光だし辺りをいっそう照らした。
「完成です」
満足げに棒を胸ポケットにしまい本を見つめる。
光が落ち着いた古の本の上には、真新しい本が重なっていた。
紫の本の表紙には金の文字と、ゼンマイの様な、魔法陣の様な模様が見えた。
文字は、先ほどマスターが棒で書いて本に吸い込まれた暗号と同じように見える。
マスターは満足げに2冊の本を持ち、机から立ち上がった。
マスターが机から離れると、周辺に残されていた本も一斉にフワリと浮かび、四方八方に動き出した。浮かび上がった本たちが元の定位置に戻り終えると、辺りはシンと静まりマスターの足音のみ響いている。
そしてこの空間から、マスターが大聖堂へと一歩踏み込んだとたんにランプが消え真っ暗な空間へと変化した。
スタスタと歩き大聖堂に戻ったマスターは、正面の壁に触れる。右手の人差し指に付けられている指輪が光ると、壁がスッと消え小さな棚が現れた。その小さな棚には既に何冊かの本が入っていた。
マスターはその中に、先代から譲り受けた古の本を並べた。
また右手をかかげ棚は壁となった。
先ほど出現した真新しい本を抱え大聖堂の中央に向かう。
そう、先代の譲り受けた数々の指南書を参考にマスターは、訪問者が審査される新たな本を生み出したのだった。
◇◇◇
いくつかの思想を思い巡らせ、先代よりも複雑な魔法陣を本に刻み性能も上げた。
ベースは今までと同じで、清らかな方々へのサポートは勿論だが、それにプラスして清らかではない人にも転移させられる様に変えた。
今までなら、本が光らなかった人は無条件で転移門を発生させる前に強制的に送り戻していた。
が、今度の本は必ず転移させる事が出来るようにした。
核が何色だろうと、心が荒んでいようと望んでいる時空へ飛ばす。
なぜ、マスターがその様な仕様の本にしたのかは、いくつかの思いがあった。
※※
審査で本が光りリューズと共に転移できた訪問者は、基本的に物を動かしたり話したりとアクションを起こす事は出来ない。
もちろん姿も見せることも出来ない。
自分の目的が叶い【良かった、ありがとう】などの感情のもと現世に戻していた。
転移した先の過去で、ごく稀に話したりアクションが起きて訪問者の未来と結果が異なる出来事が起きた場合は、そこから新たなパラレルワールドが生み出され、訪問者とは別の本が増えていた。
基本的には訪問者自身の過去、現在は何も変わらない。
変わらないのなら転移事態すら意味がないと唱える者もいるが、それでも先代のマスターたちは【捕らわれていた過去へのシガラミが消え前に向ける】と信じ…今でも続けている。
この殺伐とした下位の惑星で、理不尽に腐らず頑張っている人が一定人数いて、その方々が過去の後悔で動けなくなっているのなら、少しでもその過去の思いを軽くしてあげれたらと生み出された仕組みの本だった。
だからこそ本が光らず、1人で転移した訪問者には絶望や過ちを経験させ反省した後、現世に戻す。【今に戻れて良かった】と思えば改心するだろうとの考えのもとだった。だからこそまず、好き勝手して荒んでいる人にはダメな事を体験して頂き失敗を学んでもらう。
今までのように突き放すのではなく、あえて行きたい所へ経験を積ませる為だけに転移させるようにマスターは変えた。
しかしそこは仮の過去の時空。そこは全てにおいて可能にする。話す、触る、動かすは勿論、本を審査した年齢、性別、外見、学力もそのままで、時の流れも同じような世界へ自分として転移させる。
いかに自分の考えが愚かで歪んでいるかを実感させるためだった。
強い意志で転移門を発生させたのだから、以前の過去に戻って悪巧みをヤれない絶望よりも、その野望が叶って結果的に考えや行動が間違っていたと実感させる絶望の方がいいと、マスターは考えた。
仮の転移させた所で、それでも愚かな思考が変わらなければ、来世を1つ下のステージに行ってもらうしかない。過酷な下の惑星で人としてやり直して頂く。
プラスして人外的な非道な事を行った方々には、来世に人にすら転移できないように組み換えた。しかも虫や動物ではなく、植物や石等だ。
虫にすら転生出来ないくらいの行いをしたとの判断のもとだ。早々生まれ変われないペナルティーを付け加えた。
本来ならもっと惑星を増やし分類したいが、あまり細かくすると、ただでさえ短い人生の中での、得られる糧の質が落ちてしまう恐れがあると判断しマスターは踏み切れなかった。
その繰り返される転生の中で、送り込まれたステージにあった経験をし、感動、感銘、感性をどれだけ磨けるか。
転生する毎に全てを忘れさせ、このフルダイブ式の世界で繰り返されている、一つ一つの出来事を核に刻み、最終の第1惑星まで最短で辿り着けるのか否か。
無論、それまで何度でも繰り返させる。
擬似体験をするゲームの様に、何て事の無い生活が実際に行っている事に気が付くのはごく僅かな人だ。人々には個性的な考えを持っていると思われているだけだが、こちら側としたらバグといわれる人も少数は発生している。
マスターやリューズたちがゲームマスターや運営、天の人などと位置付けをするのならば、人間はプレイヤーそのものだ。
VRMMOと言われる仮想空間を実際に毎日プレイしている事になるのだから。
ここだけの話し、マスターと言われる存在は一人ではない。
人間世界に入り込み、あえてアクシデントやイベントを起こさせる仲間や、この本のように一定条件のもと、一時的に別の仮想空間に送り込ませる者。各惑星に牛耳っている者が存在していて操っている。
人に転移し、各惑星の人々がどの様に成長し、どのような世界を作り出せるのか。
人類を誕生させた創世記の話を各地に残し、さも自分たちが一番かのような世界を作り出してフルダイブ式で擬似体験させている。
第1、第2惑星のようにステージが上がれば上がるほど、自らの立場を理解し不明な行動は起こさないが、下位の方は自らの主張が正しいと潰し合いを繰り返している。時間のタイムラグを発生させなけれはいけないほど荒んだ思考が溢れている。
面白い事に第7惑星では、ここ数十年もの間に、我々とは別に仮想空間を作り出しゲームとして楽しんでいるのが見受けられる。
自分たちも同じことをしているのに、だ。
夢の中で夢を見ていると同じ。
全ての人が転移門を発生させ、ここで裁きを行うことは不可能だが、荒んだままここに来たからには核に刻み込ませていただく。
発生することが出来ない人々には、他の仲間に任せる。
何らかの形で核に刻み込めば、次の転生の時に考慮される。
現世で好き勝手な振る舞いをした代償だ。
誰も見てないから良いやではない。
天も地も己も見ているのだから。
努力や優しさ、正直がバカを見る世界になんてさせはしない。
人からの影響は多少受けるかもしれないが、最終的には己が決めているのが、今の見えている、感じている世界だ。
人や回りの環境のせいだけでは無い。
自分たちが振るいにかけられている事に、何回めの転生のどの時点で気が付くのかが重要であるが、下位の人々にはまだまだ厳しいようだった。
だからこそ、この本が必要になってくる。
日々、頑張っている人が過去に捕らわれ前に進めないなとど悲しすぎる。
ここのマスターの場合は、強い意思で発生させる転移門だか、リラクゼーション的なサロンを展開しているマスターもいる。
この世で起きている事、不思議な力と言われているのには、必ず理由が存在している。
※※
マスターが本を抱えたまま大聖堂の中央に立ち、右手を床に向けると指輪が光り下から譜面台のような小さな机が現れた。
その机の上に、新しく出来た本をのせると床に魔方陣が広がった。
キラキラと光りながらサークル状に広がる。
マスターはその魔方陣から外へ出て中央に向かい両手を広げかかげる。
床で光っていた魔方陣から上に一直線に光ったと思ったら、その線を中心にゼンマイのような地球儀のようなさまざまな形の魔方陣が周りだした。
マスターの力に反応し、リューズが大聖堂に入ってきた。
リューズはスルスルとマスターの側に浮遊し、マスターの様子を見ていた。
リューズの気配に気が付いたマスターは、両手を下ろし振り返る。
天井付近まで延びていた光りたちが、床の魔方陣に吸い込まれるように消えた。
「マスター。出来たのですか?」
「はい。何とか形にする事が出来ました。機能の確認も出来たので大丈夫です」
「良かったです。お疲れ様でした」
「忙しくなるかもしれませんが、宜しくお願いします」
「はい。楽しみです」
マスターが生み出した新たな本が、人々を新しい世界へと誘う。
私の処女作を読んで頂きありがとうございました。
この時計台のお話はいったん終りにさせて頂きます。
違うマスターのお話を短編にて書こうと思っているので、また出会いがありましたら宜しくお付き合いください。
ありがとうございました。




