66 エピローグ
シンと静まる空間にマスターが1人……
訪問者とリューズを過去へ送り先程まで見せていた、どっしりとした白髪まじりの髭の初老のおじいさんの姿を解き、いつものマスターに戻っていた。
小さい机の上に置かれている古の本に向かい『送り出した訪問者が、心より安らぎ過去へのわだかまりが少しでも軽くなり、無事に帰還出来ます様に』と手を組み祈っている。
-シュタ-
マスターの目の前に、リューズが突然と姿を現した。
「ただいま戻りました」
転移先ではどうしても現世との時間のズレが生じる為、過去の時間に適応するようにマスターが新たに懐中時計を作り出した。訪問者へ貸し出す【お守り】として、リューズに変化してもらう。
転移前に訪問者に身に付けてもらい、本が示した過去にマスターの力で送る。
リューズの力で過去、現地で何時間過ごしても、元の現世では数分も過ぎてはいない。
訪問者が現世に無事に帰還すると、リューズもココに戻ってくる。今、リューズが戻って来たので訪問者が無事に帰れた合図となる。
「お疲れ様でした。何も問題は無かったですか? 」
この日もリューズは、訪問者のサポートをし終え時計台のような図書館のようなマスターの元に戻ってきた。
「はい。大丈夫でした。ただ、彼女が戻りたかった過去が外国で、往年のスター達を生で見たかったとは驚きでした」
「フフフ……本を触る前からスゴかったですから、向こうでは、そうとうはしゃいだのでは? 」
「はい。元気一杯で終始キャーキャーしてました」
「はっはっはっ、それはそれは。向こうに聴こえなくて助かりましたね」
「そうですね。あれでは、不審者ですよ……」
「そうでしたか。お疲れ様でした」
リューズが深くため息をついた。
今回の女性の本は増えなかった。
リューズが戻り報告を受けながら『なるほど』と納得した。
彼女の過去でもなければ、分岐点でもない事例。
なら新たにパラレルワールドは増えない。
この古の本は、審査を合格した合図として光る。光ると同時に、訪問者自身の分岐点や特定の過去が決定している。
先代があみだしたこの本は、強い意思と清らかな心に反応する。
だいたいは転移の形になるが、極めてまれに転生をする強者も現れる……
「マスターここって恵の時代ですよね? 」
「恵? あぁ~この前より少し進んでますが、そうですね。間違いないです」
「その後が気になるので……本、観てもいいですか? 」
「リューズが、言うのも珍しいですね」
「珍しいケースでしたから~」
リューズは『では~』と言い迷いもせず、1つの本棚に向かった行った。
「そうでしたね……場所は分かりますか? 」
「はい。覚えています」
リューズは振り返りながらも答え、時計台の訪問者たちが入ってくる扉の近くまできたら、フワッと2階の本棚目掛けて浮遊した。
いつの間にか可愛らしかった龍の姿は消え、本棚と本棚の間から長い胴体の後ろ半分だけが、手すりから下に1階まで垂れ下がっている状態だ。変わらないモフモフの尻尾のみをユラユラさせながら、元の姿に戻ったリューズは動かなくなった。
あの女性の方は、自分の過去を変え新たな本を、パラレルワールドを出現することに成功した。そして今にも命が消えそうな彼も、同調するかのように転生し、新しい人生へと進んだ。
人間とは、時に不可解な行動を起こす。
分からないはずの分岐点に気が付いたり、タイムラグを発生させず願いを叶えたり。
2人同時に新しい道を開いたり……
マスターは、古の本の表紙を触りながら『人間とは不思議な生物』だと実感させられていた。
しかも、ココは第7惑星。第1や第2、第3までなら分からなくもない。可能性としては考えられるが、ココ第7惑星の人類で起こるとは思いもしなかった。
我々の中では思考が現実になるのは通説で、タイムラグもない。
しかし第7惑星で同じことを起こすと、未熟な人類の人格も思考も理解が及ばず破滅する。だから、タイムラグを発生させゆっくりと人として無理がないように過ごさせる。
少しずつ経験し【糧】を積まなければ、次の上の惑星には行けない。争いも憎しみも溢れているココで永遠とループを繰り返すか、ここよりも酷い下の惑星に送り込まれるか、どちらの可能性もある。
数ある分岐点をクリアし、次のステージに上がれるのかは本人しだい。
ふとマスターは、今この時代に対応する新たな本を生み出しても良いのかもしれないと思案する。
先代から譲り受けた指南書の事を考えていると、リューズはまた器用に体を動かし、マスターの所に戻ってきた。
「どうでしたか? 」
「前回来たときから、1年後まで記載されていました。本体の加藤恵は、和田野明と結婚し他県へ引っ越していて、パラレルワールドに行った当時の恵も、和田野健と結婚してました。そっちは引越しはしてないみたいです。二人とも元気そうでした。」
「やっぱり、運命は変えられても宿命は変えられないんですね」
「宿命ですか? 」
「あの女性は【和田野家に嫁ぐ】が宿命だったのですね。面白い」
「なるほど……どっちの恵もワールドが違うだけで、時の進み具合は【同時進行】ですからね」
今度はマスターが思い出し……
「そういえば、以前にもご自宅の桜の木を持って帰られた方もココだったような? 」
「ダムに沈む前に戻った男性の事ですね!あの時、彼の自宅の桜の木から枝を数本持ち帰りました。挿し木と接ぎ木にして庭に植えると話してました。あの人の事も観てきても良いですか?」
「えぇ構いません」
リューズは長い体を器用に泳がせ、先程とは違う本棚に向かっていた。次に同じ惑星の、同じこの時に来れるのかが見当がつかないので、確認するなら丁度良いタイミングだった。
マスターは、リューズが読み終わるのを待つと2人はまた、スズランが描かれているステンドグラスから、柔らかく差し込む光の中に消えていった。
いつもの大聖堂で、数ある扉のどの魔法石が光っても良いように……
誰かの強い意思で現れる転移門……
あなたには戻りたい、やり直したいと【囚われている過去】はありますか?
今のあなたがそこに戻れるだけの【価値】はありますか?
そして、行動に移せる【勇気】はありますか?
過ぎてしまった、あやまちを行ってしまった過去は変えられないが、その過去への想いは変えられる。
空間と時を任された2人が、今日も数ある惑星からの訪問者を待っている。
〖完〗
マスターとリューズのもとに次の【訪問者】が訪れたら
(続きを希望される方がいらしたら)
また書きたいと思います。
最後までありがとうございました。




