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「ごめん」



恵はビクッとした。


(あっ……やっぱり。……健くんとは話さなくて失敗して……明さんとは話して失敗……か)


「2人で話そうと決めていたのに、こんなに思い詰めさせて、すまなかった」


恵の額にコツッと明さんの額が触れた。


「俺は、人伝えに聞いていた当時の君より……今の恵さんの方が好きだよ」

「……えっ」

「少なからず、今の恵さんと同じ時間を過ごせて楽しいし、当時聞いていた通り、ステキな女性だとも思っている」

「……で、でも」


恵は明さんの言葉が信じられなかった。健くんに酷いことをして見捨てたのに。


額が、離れ……


「恵さん……」


恵は明さんに呼ばれ、視線を上に向けた。


「俺の事はキライ? 健の兄だと辛い? 」


恵は目を見つめられて問いかけている明さんに……


「好きです。明さんが……」


もう、健くんのお兄さんだからとかの想いは無かった。


「健には感謝しているんだ。君という存在に……出逢いをくれた。そして、恵さんにも感謝してる。弟の生きる力になってくれて。病気になって剣道を辞めさせて、まだまだやりたい事もこれからの楽しいし事もあっただろうけど、家族としては、よく頑張ったと思ってる。だから、三浦や恵さんが思ってる罪悪感なんて、気にしなくていい」


恵は、健くんが制服の彼女に河川敷の所で『……やり直すのに遅い事は無いんだ』と話していた時の事を思い出していた。


(……そうか。私もココからやり直そう。前に、進もう)


恵は、武道館で一歩踏み出せなかった自分が嫌だった。

自分の気持ちを押し込めて、その場しのぎで解決して結局あとで後悔するのは、損をするのはいつも自分だけだった。


ヤらないで後悔するなら、ヤって後悔し改善していきたい。

イヤな事、苦手な事をする時にも、どうせ同じことをするなら楽しくヤりきりたい。


だから……


「明さん……こんな私でも、良ければ……これからも宜しくお願いします」


恵は精一杯の想いを込めて、明さんに伝えた。

スクぶっていた黒い気持ちが、取れたように気持ちも違った。


右腕を引っ張られ、そのまま明さんの胸の中に引き寄せられ抱き締められた。


「恵さん、もう考えている……悩んでいることは無い? 」


恵の頭の上から悲しそうな、優しい声が聞こえた。


「はい。もう、大丈夫です」


恵は少し明さんから離れハッキリと宣言した。


明さんは、いつもの様に頭をポンポンし……


「やっと、俺を見てくれている気がするよ……」

「えっ? 」

「恵さんは無意識かもしれないが、俺を見ているような……存在すら忘れているような? 何と言って良いかあれだけど……」

「そ、そんな事ないです! 」

「そう、かな? なら良いんだけど」


恵は、コクコクと頷き『この気持ちに気が付いたのは最近です』とは言えなかった。


ふと、明さんと目が合って……


「恵さん。……キス、しても? 」


恵はコクっと小さく頷いた。




その後すぐ無事に家に送り届けられた恵は、ようやくしてベッドに寝そべっていた。


帰宅してから母親からの質問責めには大変だった。

なんせ……『お嬢さんを遅くまで失礼しました。では……』と明さんは私を玄関まで送り届け、出迎えた母親にも紳士的だった。


母の興奮状態に恵と弟がドン引きし、偶然にも父が居なくて良かったと思った。


「カッコ、良かった……」


今までは、そんな事まではしてなかった。

ただの友人として距離を取っていてくれた事に、また一つ明さんの誠実さに気が付いてしまった。


(ん~……本当に、私には勿体無いくらい素敵な人……)


ベッドでうつ伏せになり、枕に顔をクリクリ足をパタパタしていた恵の視線の先に、彼の鍔が見えた。


『俺の兄さんは剣道は上手いし、頭も良いし、カッコ良いし凄い人なんだぜ』


恵は高校の時、彼から幾度となく自慢されたのを思い出していた。あの時は、ただ仲の良い兄弟だなと思っていた。


(弟に高校合格祝いを贈る人だもの、悪い人の訳がないじゃない)


『大学2年生だけど、今も剣道を続けてるんだ。忙しいのにスゲー……』


(あっ。そういえば……明さん、剣道辞めちゃったのかな? 社会人だし……話聞いたこと無いかも)


ピローン


スマホが鳴った。


(ん……誰だろう? )


恵はスマホを取り出し、メッセージを確認すると【ただいま。22時過ぎくらいに電話出来る? 】明さんからだった。


【お帰りなさい。大丈夫です】とすぐに返信をする。


恵は急いでお風呂に直行した。

毎回事前に連絡をくれるので有りがたかった。

明さんとの電話は、どちらかが寝落ちするまで話していた。なので先にいろいろと済ませたかった。


(後、1時間……)


恵はお風呂に浸かりながら、濃厚な半日を振り返っていた。




ありがとうございました。

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