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その数分後、三浦と彼のお母さんが病室に戻ってきた。
恵は、ノックと共に握っていた手を反射的に離した。
ベッドの横まで来た三浦は、慣れたように彼に何度か声をかけていた。『今日も天気がいい』とか、『昨日ぶつけた足の小指がまだジンジンする』とか……そんな話をしていた。
恵からは全く話せずイスに座ったままで、三浦と彼のお母さんの会話にいくつか返事をするだけだった。
「加藤さんは、もう社会人なのね~偉いわ~。がっくんも来年は就職活動なんだから、遊ぶのは今のうちね」
他愛もない会話のをいくつかし終わると、その後すぐに恵たちは長居は申し訳ないと彼のお母さんに挨拶をした。
「2人とも今日はありがとう。……また、ね」
と、笑顔で見送られ恵たちは深々と頭を下げて退室した。
恵は病室からエレベーターに乗り、いつの間にか次の面会の日時が決められていた事を知る。
「三浦くんって……マナブだよね? 健くんもだけど……がっくんって……」
「あ~それ、絶対言われると思った……少剣から付き合いあるヤツは、そっちの呼び名なんだよ……」
「ほら、俺の2コ上の姉ちゃんも所属してたからさ。垂ネーム名字被ってると一文字載せるじゃん」
恵は、右手の親指と人足し指で丸を作りOKとジェスチャーする。
「小さいやつね」
三浦はウンと頷き話を続けた。
「和田野は防具付ける時にはお兄さん卒団してたから、付いてなかったけど。俺は付いてて~」
「なるほど……」
「イヤでもフルネームよ」
「あっ。そうねフルネームになっちゃってたんだ~」
「いつでも自己紹介してる感じだよ。しかも、先生たちってお爺ちゃんじゃん」
(いや、知らないけど……)
「ガクって呼ばれてて~そのまま今さ」
剣道の垂れネームは、一番上に横文字で所属名があり、その下に剣士の名字のみを縦で作る。所属の団体や学校に同じ名字の人が先にいる場合、垂れの右下に小さく名前の一文字を入れる。
面を着けてしまうと、顔が見えずに識別が難しくなるからだ。
文字の書体でも違いが出るが、後に入団した人が一文字を足すのは暗黙のルールだった。
「私も一文字だから、フルネームの危険あったのか~危ない危ない」
恵たちは、休日の出入り口でプレートを返却し外へ出た。
恵は病院を見上げ3階の病室を探したが、どこが彼の病室なのか見当がつかなかった。
そして先ほどまで会っていた彼と何を話したか、どんな顔をしていたのか記憶が曖昧だった。
恵は事実を受け止めるのに、事態を飲み込むのに必死だった。なんとか車まで持ちこたえた姿を見て三浦が誉めてくれた。
次の面会の日は、来週の土曜日で同じ時間の同じココ。と話してくれる三浦の笑顔に、プツりと恵の緊張の糸が切れた。
「ねぇ……何で? ……何でこんな事……なって……」
(覚悟はしてきた、事前に言われてたし……病院が病院だし……それなりに覚悟してきたはずなのに……)
我慢の限界だった。
三浦の袖口を掴み恵は崩れ落ちそうになるが、地面に跪く前に三浦がなんとか支えてくれた。
恵は涙が止まらなかった。
三浦は混乱する恵を車に乗せてくれて、落ち着くまで何も言わないで待っていてくれた。
ひとしきりに泣いて少しずつ落ち着いてきた恵に……
「あのまま……知らないままで過ごすことも出来たのに、俺の勝手なワガママで……部長にまで悲しい思いをさせてごめん。でも、どうしても……あいつに……部長に会わせてあげたかった」
そんな三浦の謝罪に、恵は頭を横に降ることしか反応が出来なかった。
ありがとうございました。
短くなってしまいすみません。
次回から不定期に更新になります。
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