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明さんも三浦と大内先輩から聞いていた、当時の剣道部の事情の事を言っているのだと気が付き……


「あれは、学校側、顧問の指導にも問題があったと思ってる。君が原因ではなく、教師の方が問題視されなかったのが、疑問でならない」


恵は首を横に振り……


「私は、いい人では無いです。……健くんの葬儀の後、連絡をくれた同級生に当時の先生たちが、この間の災害で家を流されたと聞きました」

「……先生たち? 」

「はい。剣道部の齋藤先生のお宅が半壊、柔道部の江戸先生のお宅は何も残っていなかったそうです。ご家族は無事みたいですが……」


恵は、通夜の後に改めて連絡先を交換した友人から『ねぇ、聞いた? 』と先生方の近況を、不意に知らされる事になった。


齋藤先生のお宅は、たしか学校から北に15分くらい走った住宅街だったはずで、江戸先生のご自宅は恵の自宅から南に10分も離れていなかったはずだった。


「……この前のって、あの土砂の? 」

「はい」


去年の事で幸いにも、恵の自宅も職場も被害は無かった。もちろん和田野家も明さんの職場も。

水の災害の怖さを身近に感じたが、県内の数ヶ所で起きた災害にあの二人の先生が関わっていたなんて興味も、思っても無かった。


「……そうなんだ、あの辺りだったのか。大変だったろうに」

「齋藤先生は同じ所にいるみたいですが、江戸先生は河内の方に引っ越したみたいです」

「河内!? 先生って稼ぎいいんだ~」


同級生の弟が現役で大河原高校に通っていて、そこからの情報だった。まだ2人とも高校にいた方が驚いた。


「河内って……スゴいですよね。……私、江戸先生が引っ越されて良かったと思いました。災害にあったのは不幸だと思いましたが……天罰、だとも……」


恵は、ご家族が一時的にも避難所で過ごした事に心が苦しかった。たしか、お子さんが小さかった記憶があるだけに、小学生になったとしてても精神的にも肉体的にも辛いはずだから。けど、先生方、当人たちがどうなろうと、どうでも良かった。


テレビ番組か、短大の講義か剣道連盟のお偉い人か忘れてしまったが、指導者を育成するには『ある程度の子供たちの犠牲は致し方ない』と言っていたおばちゃんがいた。


先生自身が『自分の指導方法が間違っていると気が付くまで、暴走していても止めない。先生にも経験が必要です』と言っていたのに腹が立った。


先生たちも、一所懸命勉強して頑張ってきても、ある程度は拗らせるのは人間として当たり前なのは分かる。誰だって初めから上手くはいかない。


しかし、その成長、経験の為にもっと未熟な子供たちを犠牲にしても良いなんて考え方は間違っていると思う。


運が悪かった、仕方なかったなんて済まされては、人生を狂わされた子供たちは【家庭環境のせい、親の責任、自己責任】なんて言われて社会からの落ちこぼれとレッテルを貼られ、クズとして闇に葬られるだけだ。


教師という世界でしか社会経験が無いくせに、親やおまえが悪いとか先生が一番偉いとか、弱い立場の人たちに必要以上の圧をかけてくる。


それなのに、先生が精神的に病むと保護者が悪い、子供が生意気とか授業が遅れたり、出来なかったりするのは先生の責任ではない。学校側はきちんと対応しているのに、保護者が非協力な態度だとか言ってくる。


本当に親ガチャみたいな、指導者ガチャが存在するのだろうとさえ疑ってしまう。


自然災害なのは仕方がない事だが、直接先生たちに何も仕返し出来ない恵にとっては『生徒に対して行った事が、天罰として下されたのでは? 』と思ってしまった。


「……天罰か……」

「あの災害のおかげ……とは言葉が悪いですが、江戸先生が引っ越されて……この辺りで偶然ハチ合わせになる心配が無くなりました」


恵は当時、一度だけ送ってもらった時に話された事を忘れられなかった。


『俺の自宅は、おまえん家からすぐだ。同じ市内だからな』


恵は高校を卒業しても、江戸先生から監視されていたらという不安があった。

あの時は自宅を知られたくなくて、駅に降ろしてもらった。が、先生なんて生徒の個人情報は簡単に確認出来たはずで、事前に調べられていたと気付いた時には恐怖で、必要最低限の外出は出来なかった。


「……ここから近かったね」


明さんはフロントガラスから奥を見ていた。周囲は暗くて見えてはいないが、災害のあった方角だった。

1年前の災害でだいぶ落ち着いたが、記憶にはあたらしい。


「……わ、私は……自分の正義感と勝手な思い込みで、健くんを見捨てたのと同じです。彼を一方的な思いで拒絶して連絡は一切しませんでした。卒業しても……ずっと。そして、2人の先生に対しても今だに鳥肌が立つくらい嫌いです」


全てから逃げたかった。あの学校という組織のなかで、彼をも犠牲にして。自分が可哀想だと。


恵はもう、明さんを向いて話す事が出来なかった。


「黒歴史にして、無意識に3年分記憶を封印してました。あの集合写真もどこに閉まったのか思い出せません。だから、健くんの事も病院で再会した時……好きという気持ちより罪悪感しか無かった」


この告白で明さんに嫌われたらと怖かった。でも、このままの気持ちで明さんに向き合うのも無理だった。


「明さんの知っている……健くんから言われていた恵は、もういません。あの時の16、17の時の私とは別人なのです。だから……」


恵は『私との事は考え直して下さい』と最後まで言えなかった。求められている今が幸せすぎて、このままでも伝えなかった方が良かったのではと後悔し始めていた。


「俺は……当時健から聞いていた君に興味はあった。弟が命をかけてまで好きになった人だと……恩人だと今でも思ってる」



(……けど……イヤになったよね……)


恵は幻滅されたはずで、この後、全てを白紙に戻されると思っていた。


恵は突然、自分の手に暖かさを感じて目を開けた。


「そんなに力を入れたら、キズがついてしまうよ」


恵は膝の前で無意識に両手を握りしめていた。




「ごめん」





不快な思いを抱かせる可能性の表現があるかと思います。

ご理解ご了承下さい。


ありがとうございました。

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