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「今日は、ありがとう。心配なかっただろ? 」
「はい。安心しました~」
「俺も大丈夫だとは思っていたけど……」
「さすがにビックリしました」
「そうだね。いろいろとね~飛躍過ぎて……驚いた」
「ですね」
「……母親が言っていた事だけど……」
明さんの手に力がかかった。
「たぶん……弟も喜んでいると思う」
「そうでしょうか? だと、良いのですが……」
「ププッ、まだ敬語抜けないね」
恵は、明さんに対して以前より敬語は減っていた。
「し、仕方ないです~ご両親の前だったので……」
「そうだね。だけど2人の時は……ね」
「今だけだから、ほら! もう大丈夫でしょ? 」
「ま~ま~かな」
恵はまだ悩んでいた。
彼のご家族に認めてもらい、全てが解決したわけでは無かった。
まだ、恵自身の気持ちの整理が出来ていなかった。
それは……
恵は、明さんには彼(弟)の事が好きだった事は伝えてはいない。直接話してはいないが、三浦から当時の事を聞いていれば、何らかの形で伝わっていると思ってはいた。
だから当初『まだ、弟の事を思っていてもいい、ずっと忘れなくていい。俺から健の面影を見ててもいい』なんて明さんが言ってきたのだ。
恵の自宅が近づいて来た。
「明さん……もう少しお時間ダメですか? 」
「えっ。俺は良いけど…あまり遅くなると心配されるよ」
「私はもう二十歳過ぎた大人ですけど? ちなみに社会人でもありますが? 」
恵はジト目で明さんを見つめた。
明さんよりは5つ下で、頼りないかもしれないけど社会人なのは違いない。
「あはは……ごめん。そうだね、あそこの公園に寄ろうか」
明さんはそう言って、恵の家の近くの防災公園に寄ってくれた。
公園は最低限の灯りが付いていた。
遊具とかは無い公園だか、駐車場は広いしトイレなどの水場はある。自販機は2台しか設営されてはいないが、サッカーが余裕で出来る広場が併設されている。
日中はご年配方が、夕方は中学生たちがよく利用していた。
が、さすがにこの時間は誰もいない。
明さんは車を停めるとシートベルトをすぐ外し『どうしたの? やっぱり何か心配でもある? 』とひじ掛けを上にあげ、恵と向き合う体勢をとると先に声をかけてくれた。
(本当にどこまでも素敵な優しい人)
恵は首を横に振り『違う』と主張する。
「明さん……今さら言うのは卑怯かもしれません。幻滅されるかもしれません。けど、やっぱり伝えないとダメだと思ったんです」
恵がそのままで話し出したら、シートベルトがカチャっと弛くなった。
明さんが外したシートベルトが、元に収納された時には、恵の方のひじ掛けも動かされていた。
恵も体を明さんの方に向け、真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと話し始める。
何も口を挟まず、明さんはじっと恵の言葉を待っていた。
「わ、私は、高校時代……健くんが好きでした。一緒にいる時間が楽しくて……毎日同じ時間を過ごしていました」
明さんは『うん。それで』と相槌をうってくれる。
「……お互い告白とかは出来ませんでした。私的には何となく伝わっているのかな? って勝手に思って……だから私から、何も伝えていません」
恵は、今さらだけど明さんにも正直に話した方がいいと思った。
もちろん、このまま生涯隠していた方が穏便に過ごせるとも考えた。けど、恵の中で彼は【過去の人】だと伝えたかった。
「ずっと隣にいましたし、いろんな楽しい事もあって、周りからもたくさん冷やかされていました、が……。2年生でクラスが違って会えなくなって、連絡も出来なくて……けど健くんからもはっきり言われませんでしたし……」
明さんは恵に体を向きながら、両手を膝の上に組んだまま置いて、同じ体勢で『うん』と合図ちをうち話の続きを待っていた。
「友達からは別れたの? とか、ケンカしたの? とか言われましたが……私たちは、付き合ってはなかったので……」
『手すら繋いでません』と話した時には、さすがに明さんも驚いていた。彼(弟)は、今時の高校生らしからぬ硬派な行動を取っていたのだと。
「あんなに一緒にいたのに、楽しかったのに……なのに……私の余裕がなくて……視野が狭すぎて……健くんよりも部員を優先しました。県総体が終わり引退してからも、彼に歩み寄ろうともしませんでした。健くんとは……また何かの縁があるなら、また再会するだろうから……あの時は、もういいや……って」
学校で彼と会わない事を良いことに、『向こうだって何も言ってこないし。私だけが悪いんじゃない』って正当化していた。
(今さら何言ってるんだろう……あぁ~私って最低だ~……)
「部活から、学校生活から1日でも早く逃げたかった。終わって解放してほしかった……」
明さんも三浦と大内先輩から聞いていた、当時の剣道部の事情の事を言っているのだと気が付き……
ありがとうございました。




