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「少し寄りたいとこあるんだけど、まだ時間大丈夫? 」
(ん? )
と、立ち寄ったのはどこかの公園だった。夜ということもあり駐車場はガランとしていて誰も居なかった。
明さんは車を停めると『少し歩くよ』と、車を降りた。
恵も明さんと並んで歩く。
駐車場からそこまで急な坂道でも無いが、薄暗いなか登っている事は足が訴えていた。
その得体のしれない道を、明さんのスマホの明かりを頼りに歩いた。ようやくして着いた先は夜景が見える所だった。
駐車場から最初は舗装されていた道を歩いていた。暗くても歩き辛くはなかったが、歩きながらもあからさまに靴から伝わる土の感触に変わった時少し不安がよぎった。
少しずつ暗闇に目が慣れて、隣で歩いているシルエットも確認が出来ていた。そこにあの夜景が目の前に飛び込んできた。
「わ~キレイ!」
恵は、目が慣れた勢いで歩きを早め、前に前にと進んでいった。
「柵はあるけど、危ないから~ほら、こっちに座って!」
恵は明さんに手を捕まれ、ベンチのような所に座った。
「ここからでも十分見えるから」
『キレイ』を連発する恵に、クスッと笑いながらも堪能するまで待っていてくれた。
「すごい……こんなに住宅あるんだ……あの辺ってどこら辺だろう……暗いと位置分かんない~……きれぃ……」
恵の独特の感性にも負けず明さんが空を見上げ……
「ここ穴場なんだ。ほら月も綺麗だ」
「月? ホントに~キレイ……まだ満月まで何日かあるのかな? あっ。こっちって南側なんだ~……きれい」
恵も空に目を向け月や星を見上げた。
先程歩いていた道は月明かりは見えなかった。スマホの灯りを便りに歩いたくらいだから、木々の間を歩いていたのだろうと予想がついた。
多少雲で見えない所もあるが、月も星もキレイに優しく輝いていた。
「ホントに君って人は……本気で言ってる? 」
「……ん? 」
恵は訳がわからなかった。なので明さんを見てコテッと首を傾けてしまった。
月はキレイなのは間違いはないし、まだ真ん丸ともいえなかった。
「いやいや、ごめん。何でもないよ。うん。月が綺麗だ」
恵には【月が綺麗だね】の本当の意味を知らなかったと納得された。
恵は文系より理系が得意だったので致し方ない。
「何か、私バカにされてません? 」
「えっ、してない。してないよ!」
ベンチに座りながら明さんが、恵の頭をポンポンする。
「ほら、また子供扱いする~」
「ん? 好きでしょ? ポンポンされるの? 」
恵はジト目で明さんを睨んだが、笑って誤魔化された。
頭のポンポンが止まり、恵は不思議になり明さんを見上げた。恵の頭から手の重みが消え……
「恵さんには、ちゃんと伝えないと……だな」
「えっ? 」
鈍感な恵でも、明さんが真剣に話をしようとする雰囲気はわかった。
2週間ぶりに会い、博物館と映画館を経由し小高い公園の展望スペース。時間的にも、そこそこいい時間。
夜景を堪能し、雲に隠れていた月明かりが、2人の姿を浮かび上がらせていた。
「俺は、加藤恵さんが好きです。このまま連れ去りたいほどに」
恵はコクッと頷いた。
(はい。知ってます……気付いてます)
「……君は……俺の事どう? 」
恵は、ハッとした。
明さんの気持ちには、最初から本気だと気が付いていた。『お友達からでも』と話され日から言われていた事だったから。
あれから恵の気持ちを大事にしてくれて、とても紳士的にしてくれている事に感謝もしている。
「……いや、いいんだ。待つと決めたんだから」
「……ごめん、なさい」
恵は、頭を下げて心を込めて謝罪した。もうすでに自分の気持ちが伝わっていると思っていた。毎日連絡を取っていて、毎週のようにこうやって会って……考えてみたら、自分の気持ちを伝えてはいなかった。
(もう、我慢しなくていいんだ)
頭を上げた恵の前に、暗闇に目が慣れ月明かりでも解るくらい硬直してる明さんがいた。
「あっ。違くて!」
恵は、明さんが今言った言葉を完全に誤解していると理解できた。だから明さんの左腕を掴んですぐに……
「明さん!言葉が足りなくて、誤解させてごめんなさい」
『言わないと、言葉にしないと……伝わらない』
恵は、真っ直ぐに明さんを見つめた。
そして今まで甘えていた事に、不安にさせていた事に気が付いた。
だから、嘘偽りなく……
右手を明さんの腕から離し、今度は両手で明さんの左手に触れる。硬直し視点が合わない明さんに……
「明さん。……私も、明さんが好きです。これからも一緒に、いたいです」
「……ほ、ホントに!? 」
恵は本気でコクコク頷いた。
明さんと視線が合い、恵は彼の胸に引き寄せられた。
「良かった。焦ったよ」
「ごめんなさい……」
恵は、明さんの胸の中で謝った。
そして、明さんの腰辺りの服を軽く掴んだ。
恵は、明さんの背中に手を回したかったが、恥ずかしすぎて出来なかった。
スッと2人の間に隙間が出来た。
「じゃあ、来週にでも話してもいい?」
背中に回されていた手を恵の両肩に置いたまま、明さんは真剣な顔で覗き込んでいた。
来週は、彼の弟……健くんの百箇日のお墓参りが予定されている。
すでに前回と同じように恵も一緒にと誘われていて……
「はい。大丈夫です……大丈夫でしょうか? 」
彼が亡くなってまだ百日。それなのに、彼のご家族に不謹慎だと思われないか不安になった。
「大丈夫。喜んでくれるよ。それと、恵さんのご両親にも会いたいんだけど、どうかな? 」
「あっ。はい。予定、伺ってみます」
恵は突然、両頬に痛みが……
「何故に敬語に戻った? やっと最近、敬語がとれかけてると思っていたのに~」
明さんは両手でムニムニと恵の頬を摘まんでいる。しかもジト目で。
「……イヤ。何となく無意識でした」
(ごめんなさい)
明さんは仕方ないと頭をポンポンするが……
「もう少しココに居たいけど……さすがに、もう帰らないとまずいか……寒くもなるし戻ろうか」
来た時とは違い、恵は明さんに手を握られたまま駐車場へ戻り、車に乗り込んだ。
車に乗るために一度離れたはずの手だったが、何故だか車内でも、恵の右手が囚われていた。
(うぐ……こんな事、初めてだ……)
駐車場から車が走り出し、信号機で停まると直ぐに明さんの左でが【お手】の様に差し出された。肘掛けで腕を支えるように恵の右前に……
「……? 」
「ほら。早く」
「えっ? 」
明さんの顔が甘い……とてつもなく甘い……
恵は明さんの指示に従い右手を献上した。
(うぅ……恥ずかしい)
そのままで自宅まで送ってもらい、他に何事もなく帰宅した。
変に期待してしまった恵が、ドッと疲れたのはいうまでもない。
ありがとうございました。




