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『ただいまより、15:20上映開始の~』


「あっ。これだ、行こう」


明さんは財布からチケットを2枚取り出し恵に渡した。


「はい。チケットよろしく」

「は、はい」


恵にチケットを渡すとすぐに、先ほど買った食べ物と飲み物を入れたトレーを持ち、歩きだした。


「えっ? 」

「ほら、行くよ」


恵は入場案内のアナウンスとチケットを見て驚いていた。

なんせ観たかった映画のタイトルが言われ、明さんが『これだ』と言い、恵の手にあるチケットにも間違いなく書かれている。


驚くのは仕方がないと思う。


恵はパタパタと明さんに近付き、入り口の係の方に2人分のチケットを渡した。


劇場に入ってみると、恵の知っている映画館とはだいぶ違っていた。

そこには1人用の椅子ではなく、2人用のグレーのソファーがズラリと並んでいたからだ。


スクリーンに近い方は、普通の1人用の椅子だった。一般的な。

しかし半分からはグレーのソファーだった。少しずつ高さが違いプライベートが保たれている感じで設置されている。

明さんは迷わずソファーの方の階段に向かい歩いていた。


後ろから2列目、要は真ん中に並んでいる右側に『ココ』と手を振っている。


一番高い位置にある奥の席には右、真ん中、左とあり、その少し下の2列目はその間に2つ。恵たちの前は、また少し下に下がっていて右、真ん中、左と全部で8席。なんとも贅沢な空間。今時の映画館は人数の回転より話題性を重視しているらしい。


恵が明さんの所へ着くと『ここだよ』とソファーの前にあるテーブルにトレーを置いた。


「まだ30分あるから、さっきの写真撮りに行こうか」


恵はピンときた。


「あ、はい。行きたいです」


入場してから、この劇場に入る前の廊下に向かう。


そこにはライトアップされていたショーケースがあった。

英国風のガラスのショーケースの中には、ゆっくり回る【ガラスの靴】が納められていた。


「わ……キレイ……」


恵はスマホを取り出し、正面と一周回る動画を撮影した。その間、明さんは待っていてくれた。


丁度に撮影が終え、ニマニマしている所に他の人も集まって来た。


「もう、いいの? じゃあ戻ろうか」

「はい。ありがとうございます」


まだ上映開始時間には余裕があったが、恵は満足して劇場に戻った。


恵たちがソファーの座席に戻ると、明さんがテーブルの下からカゴを出してくれた。


「荷物置きらしい」


と隣の席を指差す。

なるほどと、手元にスマホとハンカチのみ残してカバンをしまう。


一般的なカラーボックスに入りそうな大きさの、編み上げられた白いカゴに2人のカバンを入れ足元に置く。そのまま明さんが壁に近い方のソファーに腰掛けた。


テーブルの脇に立っていた恵に、明さんの右手がソファーをトントンと叩く。『こっち座って』とでも言うように恵を呼ぶ。


恵も素直に中央側に近い方、ソファーの右側に座る。


(い、意外と近い……)


車内でのいつもの定位置と反対の違和感と、以前の流木に座った時よりも近い距離に戸惑う恵をよそに……


「さて、始まる前に食べようかな~」


と、明さんは先ほど買ってきたのり巻きをテーブルに広げていた。


「はい。先にこっちを食べようか」

「は、はい」


シュークリームは後でにしようと、ボックスごとテーブルの奥に置いた。

恵は、まだ上映時間前とはいえピクニックのように食べていても良いのか戸惑っていると……


「……ん? 大丈夫だよ。ほら……」 


同じ列に座っているソファーの人たちを目で『向こうも食べてるよ』と教えてくれた。


(あっ。本当だ……)


恵が後ろを振り向き見ると、隣のソファーの人たちも何やらテーブルに広げて食べていた。


恵の分のお箸を受け取り、とりあえずツナを頂く。


(美味しい)


「どう? 大丈夫? 」


もぐもぐしている恵を心配そうに覗き込む明さんに、一瞬ノドにつまりそうになりながらもゴクリと飲み込み……


「はい。さっきサンドイッチ食べたばかりて、心配でしたが美味しいです」

「やっぱり米は別腹だよ~」


と、嬉しそうに食べていた。


その後恵は梅を1つ頂き、残りは明さんに食べて貰った。


(あっ。そっか……明さんって左利きだった……)


いつも食事をする時は、テーブルは向かい合わせになるように座っていた。今、みたいに並んで食べるのは初めてだった。

左利きの明さんと、右利きの恵の箸がぶつからないように、ソファーの右側に恵を座るように促してくれていた。


「先に、シュークリーム食べてていいよ」


と、恵の前にボックスごと取ってくれて『やっぱりポップコーンも食べたいかも』と、のり巻きのゴミを捨てるついでにと買いに行ってしまった。


残された恵はシュークリームの蓋を開けたが、一人では食べ始められず、とりあえず飲み物に口を付けて待つ事にした。


数分後、嬉しそうにボックスのポップコーンとコーラを手にした明さんが戻ってきた。


「おまたせ。塩味とキャラメル味」


ソファーに座るなりポップコーンの味の説明をしてくれて……


「それと、はい。これも」


と、脇に挟んでいたモノを恵に差し出した。


明さんが買ってきたのは、ポップコーンとコーラ、そして今から見る映画のパンフレットだった。


「えっ…これ」

「パンフレットだよ。この映画好きなんでしょ? 他にもグッズあったから帰りにでも見てみる? 」

「あ、ありがとうございます。嬉しい、です」


恵はパンフレットを受け取り、表紙をマジマジと見てパラパラと裏表紙まで見た。


(本当に、この人は……)


「じゃ、これは後のお楽しみとして……」


明さんが恵の持っていたパンフレットをヒョイと持っていき、足元のカゴに入れた。


「もう少しで始まるから、食べながら待ってよう」


と、ポップコーンとシュークリームをテーブルに並べ、食べ始めた。


(男の人の食欲ってすごい……)


明さんは『美味しいよ』と指でOKマークをしていた。


(ふふっ。可愛い)


恵は、わんぱくに食べている明さんを見てクスクスと笑ってしまっていた。

『それじゃあ』と恵もミニシューを頬張る。


(ん~甘くて美味しい~)


恵もモグモグしながら、右手でOKのマークを明さんに向けた。


そのうち会場のアナウンスと共に、館内が少しずつ暗くなってきた。

映画は2作品が同時上映と予定になっていて15:20から予告や注意から始まり、2作品目が始まる前に15分の休憩を挟み、短編の映画が終わるのが18:30になっていた。


観ていた映画は、かの有名なお話で大筋は変化は無かった。


恵は昔から戦国時代とかよりも、どっちかというとヨーロッパ系設定のお話が大好きだった。


姫様も嫌いじゃないが、プリンセスのお話がより好物だ。


お話も衣装も、最後に頑張る女の子が王子様と出会い幸せになる定番がいい。


婚約者がいる人に手を出すのは、どのお話でも頂けないので、悪役令嬢も応援してしまう。


しかし、これは恵が密かに楽しむ為に、他言無用だ。

共感したいのではなく1人でも自分が楽しめる方がいい。


(ん~衣装も舞台セットもステキだった~)


1作目前半の部を終えても、恵は前のめりでスクリーンを、エンドロールを観いっていた。


数名の人たちは、席を立って動いているのが見えるが、エンドロール後にショートストーリー的に後日談的な?続きがあるかもしれないと思うと、恵は勿体なくて動けない方の人だった。


恵が堪能していると、そのうちに館内が明るくなってきた。


「お手洗いとか行く? 」


恵はソファーに寄りかかり、明さんの声で現実に戻された。


(わっ。忘れてた……)


「い、いえ。私は大丈夫です」


(恥ずかしい~映画の世界観が好きすぎて……集中しすぎてた……)


「そう? じゃ、俺だけ行ってくるかな」


明さんは『荷物よろしく~』とニコニコとテーブルの前を通り階段を降りていった。


(今のうちに落ち着かないと~変な汗出てきた~暑い……)


恵は落ち着かせるようにカフェモカを口にする。


(たしか、後半は短編だっけ? )


チューっとカフェモカを堪能し、ミニシューをパクッと食べた。


(美味しい~)


後半は、また違うお話で30分くらいで終了した。


「本日は~……」


2作目は、きちんとソファーに座りテーブルに肘とかも付けず、無事に観れた。


(楽しかった~)


恵は『ん~』と無音で背伸びをする。


「食べ残ったのは持ち帰ろうか」

「ですね」


カゴから荷物を取り出し、最後の方に映画館を後にした。




ありがとうございました。


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