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待ちに待った2週間後。
恵は自宅にて明さんが迎えに来てくれるのを待っていた。博物館の開館が9時半らしく、いつもの待ち合わせ時間よりも、1時間も早いが気にならなかった。
「おはよう。久しぶりだね」
「おはようございます。2週間ぶりです」
会うのは久しぶりだけど、メールや電話の連絡は毎日していた。
なので、先週のクライアントとの打ち合わせは上手くいった事は知っていた。
それよりも、現地で美味しいラーメン屋さんを見つけられた方が行ったかいがあったと。けど遠すぎ食べられるのが、次がいつになるか分からないのが、とても残念だと電話で話していた。
恵の家から博物館までの移動中、ずっと明さんが話しが止まらなくて『今日の為に仕事頑張れた』と、今からの博物館が相当楽しみにしていたのは、すごく理解できた。
博物館は土曜日の午前中にもかかわらず混んでいた。
入場制限がされているのを見ると、どうやら恵が知らなかっただけで古代エジプト展は人気らしい。
やっと恵たちが入館出来る順までになった。
明さんが係の人に渡したチケットは、他の人とは色が違っていた。係の人は半券を切りパンフレットなどと一緒に右手に持った。
(あれ? 明さんに渡さないの? )
とすぐ終わると思っていたので、恵が疑問に思っていると、係の人が左手を横のカゴに手を伸ばした。カゴの中から黒い袋を無造作に2つ取り、全て明さんに渡した。
受付から少し横にずれ、明さんがカバンにしまうまでに、恵は壁のポスターを見る。
先ほどの色の違うチケットは、その人気展の特別前売り券だったらしく、黒い袋で中が見えない、よく分からないアレは、どうやらその特典だったらしい。
明さんが券を片手に『次あそこ』と、指で示しながら経路にそって歩いていく。コクリと頷き恵もその後に続く。
明さんが次の係の方に券を二枚渡し、何かを受け取り横にズレた。係の人と目が合い、恵も一歩前に出て『ありがとうございます』と受け取る。
渡された物は、赤いイヤフォン付きの機械だった。
恵も横にズレ明さんの隣に行くと、手にはすでに袋から取り出したイヤホンを持っていた。
「はい。交換」
と恵の袋を取り上げる。
渡されたモノを確認すると、すでにイヤホンの捻れが取れていて、機械に装着済みだった。
「さぁ、行こうか」
と、明さんは歩きながらイヤホンを機械に装着する。
「はい。ありがとうございます」
と小声気味にお礼をいい、恵も後に続き歩いていく。
赤いイヤフォンを付け会場の案内に進む。
壁に機械のマークがあり、使い方の説明があった。
そのマークがある各展示物の前に行くと、説明が流れる仕組みになっているという。
「音量大丈夫? 」
「えぇ、聞こえてます」
機械の不具合が無いことを確認して中に入る。
入るとすぐに音楽が流れ女優さんの声が聞こえてきた。
二人は、これといって話さずイヤフォンから流れる説明を聴きながら、次々と観て回った。
会場は全体的に薄暗く、ライトアップされた装飾品や色鮮やかな木棺たちは、独特の空気感で包まれていた。
一つ一つの展示物で説明を聞き、教科書で観たような装飾品を、何千年も前の職人たちが生み出した事を改めで驚かされた。
そしてそれぞれの品が、当時の王族をはじめこの現代の人々を魅了し続けている。
ぞんざいに扱われることも無く、時間と共に侵食されず目の前に残る品々の技術の高さ、その手仕事に当時の人たちのモノづくりに対しての職人技に感動すらした。
隣でガラスケースを覗き込み、少年の様に目をキラキラとさせ楽しそうにしている人を見て、来て良かったと実感もした。
そこそこ歩いたところに、ミイラのCTスキャン映像が写し出されていたブースがあった。一段と暗くなるソコには、大画面のモニターの他に、このミイラが出土した場所の地図と説明書きが壁に設置されていて、その手前にガラスのケースに横たわる白い固まり。
壁に写し出されている映像が、一定の時間でループしている事が容易に想像する。恵は目の前にあるのが【ミイラ】と気が付いてガラスケースに近付くことが出来なかった。
モニターに写し出されている映像と、この目の前の白い布の固まりから目が離せない。そしてこの中に何千年前の人が入っていると思うと、恵は恐くなり明さんの袖口を掴んでしまった。
(……ヤダ恐い)
さっきの木棺は空だった。立ててあったり横に置いてあったりと、蓋と空箱が幾つか展示されていただけ。
けれど、恵の目の前のクリーム色にくるまれている人形は……
(えっ。これ、この人……何千年前の……人……生きていた人)
恵はミイラを観たのは初めてだった。
イヤホンからは『このミイラが今の医学、レントゲン技術、科学を使って解き明かす当時の真実を……』と説明しているが恵には聞こえていない。
「もう、終わりだし出ようか?」
「……は、はい」
恵は突然目の前に現れた明さんにより、展示物のミイラから視線を外すことが出来、明さんの声で硬直が取れたように感じた。
明さんは恵に捕まった袖口を離すわけでもなく、自由な反対の手で頭をポンとしてくれた。
イヤホンからは機械のみの返却案内が流れていて、どうやら一通り見終わったらしい。
機械を回収BOXに入れ恵たちは車に戻ってきた。
「付き合ってくれてありがとう。もう大丈夫? 」
「はい。すみません。初めて観たので驚いてしまって……」
恵は無意識にも明さんの袖口をつかんでしまったことを謝った。
「気にしないで。はい、これさっき貰ったヤツ」
明さんは運転席に座り、カバンの中から先程入り口でもらった怪しげな袋を2つ取り出した。そのうちの1つを恵に渡す。
「いえ……ありがとうございます」
恵が両手で受け取った謎のヤツは、黒い袋に金色でエジプトの古代文字が書いてあった。
なんとも怪しげな袋を明さんは『軽いね。特典って何だっけな? 』と袋の上からゴソゴソ触っていた。どうやら入場特典の8種類ある内の、どれか1つが入っているらしい。『一緒に開けようか』と言われ、恵も頷き袋の背を切った。
「「せーの」」
同時に手のひらに出てきたのは、2人とも黄金のマスクを被っている可愛いクマのキャラクターだった。なんともシュールな感じで、一瞬時が止まったかのような感じになった。
「これ、顔の部分はキャラクターが見えてるから、とりあえず分かるけど~すごいデザインだ」
明さんは、何とも言えないクマを見て『お揃いだ』と車のキーに付けていた。恵も帰宅したら同じ様にしようと決めた。
「さて、次はね……」
と、明さんは車を動かしていた。
ありがとうございました。




