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50 和田野 明 2


 そして俺は、彼女の特別になりたいんだと気付いた。


 この気持ちに気が付いても、連絡先も何も知らないことに絶望した。三浦の話しでは積極的に出歩かない事は分かった。何か方法は無いかと悩んでいた。


 そんな中、弟の49日のあたり日に、家族3人で午前中にお墓参りに行こうと決まる。祝日だし仕事も休みで問題はなかった。


 前日の夜、俺は仕事が長引き遅い時間の帰宅になった。

 俺は母親に提案した。


『加藤さんにも声かけたら? 』と。


 母親が彼女の連絡先を知っている事を思い出し、とりあえず話してみた。


『そうね。あなたも会いたいでしょうから。今日は遅いから、明日にでも電話してみるわ』

『えっ? 俺もって? 』

『あら、違った? 兄弟そろって同じね。何か話したいことでもあったの? 』

『いや、別に……』

『そう……。話さないと伝わらないからね。上手くやりなさい♪ 恵ちゃんが娘になるなら、母さんは大賛成よ! 』

『……』


 返す言葉が見つからなかった。母親は全てお見通しらしい。


 翌日の10時半過ぎ、俺の運転で家を出る。

 家を出てすぐ車内で母親が電話し始めた。さすがに突然すぎると思ったが、難なく約束を取り付けた。


(さすが、母さん)


 彼女は出先にいたらしく、駅で合流することになった。母さんが気を利かせて助席にしてくれた。が、久しぶりに会えたのに俺からは何も話せなかった。

 境内に入りお墓に着くまで、彼女はいつも以上に大人しく、神妙な顔をしていた。静かに俺らの後を着いてくる。

 無事にお墓参りを済ませたその後、母親が彼女を昼食に誘った。健が元気な時に行っていた。茅葺き屋根の蕎麦屋。


(母さん……スゴいな……)


 店内に入り、ココの扉が重く開け閉めにコツがいることを思い出し、彼女を手伝うように閉める。彼女からお礼を言われたが、素っ気なく返してしまった。本日、初めての会話だったのに反省した。

 彼女と食事をするのは初めてだったが、所作が美しく食べ方がキレイだと思った。


 食後、両親を先に送り車内では2人に。

 俺はドライブに誘ってみた。すでに行き先は決めていた。

 

 浜辺まで車で入れる海岸。


 今日は天気もいいし、気持ち良さそうだったから。他の所とかも悩んだが彼女の好みを知らないし仕方ない。


 やっと2人になったのに、車内でも海でも、やっぱり話が続けられなかった。


(俺って、こんなだったか? )


 悩みながら歩いていると丁度いい流木が目に止まり、2人で座って海を眺めていた。桜の時も今回の海も、たいして会話も無かったが不思議と落ち着けた。


 海で話そうと思ったが、遊泳禁止でも以外と人がいて話せなかった。俺は場所を変え動画の事、これからの事を話そうと決意した。


 車内に戻り、海でのんびりで来たのはいいが、喉が乾いたような気がした。緊張していたのもあるだろう。


 糖分摂取に甘いのが飲みたかったが、ここは微糖のコーヒーで我慢した。彼女にも何を買うか悩んだが、とりあえずフルーツ系にした。


 車に戻ったら彼女が何か考え事をしていた。とりあえず声をかけたら驚かれ、今までに無いくらい見つめ合ってしまった。


(あん時、目が離せなかったな……)


 ガバッと目をそらされた時は、可愛くてチョッと笑いそうにもなった。俺はコーヒーを飲むと気合いを入れた。


(さあ、俺、頑張れ)


 スマホを強引に渡し、弟の動画を見た彼女は泣き崩れた。


(そりゃそうだ。でも、隠さず話すと決めたんだ。ごめん。辛いと思うけど話させてくれ)


 俺は『だから、もう君は弟から解放されてくれ。君は悪くない』と何度も心で願った。


 弟のスマホを握りしめ彼女が泣いている。俺のせいで。

 彼女の頭にポンと手を置く。弟が学生時代によく彼女にやっていたそうだ。自慢された時、話を流したが今なら弟の気持ちが分かる気がする。


(こんなに泣いていても、可愛いと思う俺は病気か? )


 でも、俺は気が付いたら彼女を引き寄せていた。


『弟に奇跡的な回復と、俺ら家族に、健との別れの時間をくれてありがとう』


(だから、もう泣かないでくれ)


 腕の中の硬直した彼女に、少しやり過ぎたかと思った。

 いやでも今度は俺が彼女の隣にいたい。


(先走り過ぎたか? いや、でも。さて、どうする……)


 なら説得を『俺は遊びじゃない。気の迷いでもない。本気だと』その事を言葉で伝えよう。


 弟の代わりになりたいんじゃない。


 俺の事をもっと知ってくれ。そして、君の事をもっと教えてくれ。『だから頼む』引き寄せた体を少し離し、彼女の反応を返事が欲しかった。


目をつぶってうつむいている彼女は、無言で否定してきた。


(なぜだ! 俺じゃダメなのか? いや、ダメだ。ここで諦めたくない)


 待ってくれ『答えを出さないでくれ』頼む、頼むから。

 君の側にいる権利を。

 なら『お友達もお試し期間でも』

 なんか、必死過ぎたか?


『…なんか、俺必死すぎてカッコ悪いな…』


 自分ですら、どこまで声に出てて彼女に届いているのかさえ分からなくなっていた。


 (どうしたらいい? 彼女の特別にはなれないのか? 友達にすら昇格できないのか? )


 俺は沈黙が怖くて、ブツブツとオロオロと色々な提案をし続けた。




『は、はい。あ、明さん。お友達から宜しくお願いします』



 彼女の言葉が信じられなかった。


『ホントに!?お友達……いや、いいの?無理してない?』


 ダメかと思った。お友達と一瞬悲しくなったが、いや第一歩だ。しかも彼女が名前で呼んでくれた!


『はい。こんな私でよければ、お試し期間で……』


 余計なことを言ってしまったと思った。

 何故期間を儲けてしまったのか。


 とりあえず期間限定の友達としてOKをもらえた。


 友達か。


 まだ知り合い枠か。もう少し年上の魅力を出せれば。


 一人、大反省会だ。


 涙を拭き、無理に笑っているのであろう彼女を、より一層守りたくなった。


 彼女は鞄の中からスマホを取り出し、連絡先を交換してくれた。

 健のお兄さんではなく、1人の男『和田野 明』として、ここからが勝負だ。


 彼女をさんざん泣かせた後、このまま帰すのも申し訳なくて、落ち着くまで車で待機していた。お互いの仕事の話をしながら。


 そして、彼女を無事にご自宅まで送り届け、俺も帰宅。


 夕食の席で母親から『きちんと話せたの? 』と確認され。

『とりあえず友達にはなれた』と話したら『あなたが頑張ってくれないと、我が家にお嫁さんに来てくれないじゃない!』と。


 俺は、母親が何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。


『そこ、決定なの? 』と恐る恐る確認してみたら『恵ちゃんは私の娘にしたいの。だから頑張って!あんな良い子いないわよ!』


母親から自信満々に言われ『『たしかに』』親父とハモってしまった。


『ライバルも多いと思うけど、気が付いてないみたいだから大丈夫よ♪ 明も遊びじゃないでしょ? 』

『え? 』

『ガックン以外にもいると思うよ。狙ってる子。恵ちゃんは気付いてないけど♪ 』


 なぜか母親は機嫌が良かった。『……が、頑張ります』と宣言をしたら、ドンと背中を叩かれ『恵ちゃんとお茶したいけど、しばらく私は大人しくしてるわ。だから頼んだわよ』と念を押された。


 母リサーチでも三浦たちからの話しでも、どうやら彼女は、自身の魅力にすら気が付いていないらしい。


 鈍感というより、自己評価が低いのではないかとも思った。


 背中の痛みが引かないまま階段を上がり、無意識に弟の部屋の入口を見ていた。


 先日の三浦と彼女の掛け合いを思い出した。俺にはあんなに表情は豊かではない。しかも、三浦にも大内にも越えられない壁。


 それを弟は越えたという。


 今後、俺に彼女はどんな顔を見せてくれるのか。


 今、思い返せば。俺は、5年前から彼女の事を気にしていたのだろう。弟に彼女の話を聞かされていて、弟に奇跡的な回復をさせるくらい和田野家では存在が大きくて。


 今は、少し距離を感じるけど、今はそれでいい。




*****



 ピコンと左手に持っていたスマホが鳴る。その手を顔の前に持ってくる。


 暗くなった画面をスクロールし、着信を確認すると彼女からのメッセージだった。


 ガバッとベッドから起き、彼女からのメッセージを見る。


『今日はお墓参りにお誘い頂き、お昼やお土産の蕎麦菓子も頂きありがとうございました。お母様とお父様にも宜しくお伝えください。送っていただきありがとうございました。』


 初めて俺に宛てた、彼女からの返信。


 固い……いや、いつでも連絡とれるようになったんだ、贅沢いわない。


(さ、今週末はどこかに、会えるかな? 明日にでも誘ってみるか……)


 俺は、彼女が喜びそうな所をいくつか頭に思い浮かべ、返信をうつ。


 『ゆっくり休んで。またね』とだけ返した。


(おやすみなさいは……まだ時間的に早いよな)


 彼女からも『はい。ありがとうございました』とだけ返ってきた。


(もう少し話したかったが我慢だ)


 またベッドに倒れ、俺の長い1日は終わった。




次話は【加藤 恵】視点になります。


ありがとうございました。

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