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恵は、彼のお兄さんが頭をポンとした事で高校時代の彼の事がフラッシュバックした。


『また~めぐは~頑張り屋だな~。大丈夫か? 俺に何か手伝える事あるか? 』

『また、何か考えてるだろ? とりあえず言ってみな』

『はい、はい。めぐはエライ、エライ』


幾度となく、彼は恵の頭をポンと。時にはポンポンとしてくれた。


だいたい悩むのは部活の事だった。


経験者だと、ある程度の期待をされる。

恵は、何度か3年生を差し置いて団体メンバーに選ばれていた。だいたいは次鋒か副将だった。5人で行う団体戦の2番手か、4番手。1年生が任されるには難しいポジションだった。


恵はそのオーダーに悩まされていた。

次鋒(じほう)になると、最初に試合をした前の選手の結果しだいで、動きを変えないといけない。先鋒が勝てば、自分は無理なく引き分けでもいい。一本勝ちだと及第点。先鋒(せんぽう)が負けた場合は、試合の流れを戻す為にも、勝ちにいかなくてはならない。


副将(ふくしょう)だと、前の3人の勝敗によっては消化試合なのが、勝負の重要な試合なのかが違ってくる。しかも冷静に対応し一本でもポイントがあった方がいいのか、逆に相手に一本も与えない方が有利なのか、考えて動かないといけない。


他のポジションも重要だか、1年生なら1試合目の、勢いの先鋒にしてほしいのが本音である。


試合が後半に進むにつれ、勝敗の重要度が違ってくるし、緊張が増してしまう。


なら勝っても負けても、元気よく試合をする先鋒がいい。

是非とも試合の勝敗は、先輩たちに丸投げしたい。


試合前日のオーダー発表で、顧問の八巻(やまき)先生から【選手】だと告げられると、憂うつになっていた。


彼は、恵の少しの変化にも気が付いてくれて、欲しい言葉をくれる人だった。



(……えっ)


そして今、恵は自分がどういう状況なのか理解が出来なかった。

彼のお兄さんに頭をポンとしてもらって、右肩の少し下、右腕を引っ張られた。



ポフっ


抱き締められ、お兄さんの声が頭の、右耳の上から聞こえる……


「弟に奇跡的な回復を……俺ら家族に、健との別れの時間をくれてありがとう」


(……えっ)


恵は、彼のスマホを握り締めた状態だった。

視線を下に向けていたのが功を奏して、密接度は辛うじて最高では無いのが救いだった。


引っ張ったまま離してくれない左手と、優しく後頭部を支えている右手、完全にお兄さんに包み込まれていて動けない。


(……ち、近い、耳が……)


「俺としては……結婚を前提に付き合ってほしいんだ。……弟の為ではない。俺が本気なんだ。


君としては、俺と出会ってまだ半年くらいかもしれないが、俺は5年も前から君の事を話されてて、やっと会えたんだ。


病室に君が来たと聞いた時、絶対に時間を合わせて会いたいと思った。最初は、お礼がしたかった。けど、何度か会う度に惹かれていった。


……健が言っていた通り、君はステキな人だったから」


恵は彼のお兄さんの話に、あまりにも驚きすぎて涙が止まっているも気が付かなかった。


(この人……何言ってんの? 結婚を前提って言った? ……ウソ……)


思考がパニックの恵は動けなかった。


腕の中の恵に語りかけるような優しい声で、彼のお兄さんからの告白は止まらなかった。


「健の事が落ち着いてきて、やっと踏ん切りがついた。君ともう会えないかもと思ったら……苦しくて……だから、真剣に考えてほしい。


君となら、家族以外でも弟の話が出来るし、いや……違う。


何より俺が君の隣にいたい。いろんな話をしたい。同じ時間を過ごしたいと、心から思うんだ。


だから……君の事を名前で呼ばせてくれないか? 」



彼のお兄さんは引き寄せていた手を緩め、右手を動かし両腕を掴んだまま少し距離を開けた。


恵の顔を覗き込むように視線を下げ反応を見ていた。


恵は目をギュッとつぶり下を向きながら頭を横に降った。


(私なんかが、そんな……)


彼のお兄さんの顔を見れなかった。


「まだ、答えを出さないでくれ。……すぐにどうするとは言わない。俺の事をもっと知ってからでもいい。そうだ、まずお友達からでも……」


お兄さんの声が小さくなってきて……


「だから、その……出来れば……その、連絡先を交換してほしい。それと……俺の事は(あきら)と、呼んでほしい……」


彼のお兄さんは、自信なさげに恵に語りかけていた。

その優しさに恵も心が暖かくなっていた。


彼のお兄さんがステキな人だという事はわかっていた。恵だって高校時代に彼から話されていたし、病院でも何度か話した事はあって知っていた。


5つも年上だと大人だなとも思っていた。

いつも優しい笑顔で、優しい声で、スマートに助けてくれて。


恵は、裏山の桜やお蕎麦屋さん、海での事を思い出していた。


しかもあの当時の出来事、恵が拒絶した健くんへの行いを、過去の事を知っても、お兄さんに受け入れて貰えるとは思ってもいなかった。


知られてしまったら、逆に拒絶されるのかさえ怖かったのに。


当時の状況を知っていても尚、恵を必要と言ってくれて嬉しかったし、あのステキなご両親も好きだった。


「……でも……」


恵が病院に通っていたのは、彼の事を好きだったのもあるが、一番は謝りたかった。罪悪感の方が強かった。


彼に利用されるならそれで良いと思っていた。それだけの事をしてしまったと後悔したから。お金でも何でも彼から要求してもらえた方が、気持ち的には軽くなるような気もしていた。


結局、恵はあの時の事を責めて欲しかった。怒って欲しかった。

そしたら、謝れるのにと。


なのに、ご家族からの対応も彼からの動画も優しさで溢れていた。


「友達もお試し期間とかはどうだろうか? いや、まだ健のお兄ちゃん枠でもいいし……」


恵は、彼のお兄さんも勘違いしているに違いないと思った。ここまで言われるのも初めてだし、言われるような人なりではない。


それか健くんとの事で、背負わなくてもいい事をしようとしているのかもと。


(こんなステキな人を、騙してるみたいでイヤだな……)


「……なんか、俺必死すぎてカッコ悪いな……」


(本当の私を知ったら……こんな嫌な女から離れていく? ならそれでもいいゃ……)


恵は、一生懸命に話してくれる彼のお兄さんに申し訳なく思ってしまった。


(きっと直ぐに間違いだって、勘違いだって気が付いてくれる……なら……)


恵は、短期間でも自分が卑怯な最低な人だという事に、大人なお兄さんなら気が付いて幻滅して離れていくだろうと、ならお友達でもと……


「は、はい。……あ、明さん。お友達から宜しくお願い、します」

「ホ、ホントに!? お友達……いや、いいの? 無理してない? 」


一瞬暗い顔を覗かせたが、耳と尻尾が見えそうなくらいウキウキした明さんを見て、恵は……


「はい。こんな私でよければ、お試し期間で……」


と精一杯答えた。






次話【和田野 明】視点になります。


ありがとうございました。

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