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彼のスマホに残っていた動画を見て、恵は気が付かないようにしていた感情が溢れてきた。


過去に行けて、自分とは違う未来を進む彼らを見届けた。それは、それで良かった。頑張ったと誉めてあげたいくらい。

けど恵自身には結局……後悔も、状況も何も変わってはいない。


やり直せている彼らが羨ましかった。


いまだに残るこの苦しい胸の痛みをどうにかしてほしかった。


(……健くん……ごめん……ごめんなさい)


恵は彼のスマホを胸の前で、両手で握りしめ溢れる涙を止めることが出来なかった。



「……実は、大内や三浦に葬式のお礼も兼ねて会う機会があってね。……いろいろと話すうちに……この動画を君に見せようと決めたんだ。二人から話を聞くまでは、もう二度と会えないと思っていた……だから動画も見せなくていいと……」


お兄さんは、葬式後改めて三浦や大内先輩と話す機会をもったらしい。その時に、あの当時の部活の状態や彼と恵の高校での経緯から、三浦とのお見舞の事までを知った……らしい。



「前にも話したと思うけど、健が高校生だった闘病中……医者からは助からないと言われてたんだ。年齢もドナーの件もあったから。だけど健から『学校に絶対に会いたい子がいるから、辛くても治療頑張るんだ』って……だから、退学とかもしないって……」


「……えっ……」


(……ナニ、ソレ……)


「入院中に一緒に見に行った裏山の桜、木の下で話した高校の時の噂というのは、それなんだ。健から……弟から、君がどんなに可愛くて素敵な人だという事をずっと話されていた。だから、あそこに……君の隣に戻るんだって。

……入院して化学療法をしていたあの時は、俺も両親もダメだと思っていて……副作用が酷そうで見ていられなかった。本人もそうとう辛そうだったから……。

君からの部活の連絡に返事をしてたのも俺で……」


お兄さんは、彼のスマホを指差し『騙していたみたいでごめんね』と。過去に戻った時に、彼が制服の彼女に話していた内容と同じたった。


「奇跡的に退院して通院に切り替わったら、何故か君の話がでなくなった。病院に行く為にまともに学校にも部活にも行けてないし、クラスも違うから仕方ないと思っていたけど……卒業して進学はせず祖父母の家業の手伝いをして、たまに車でフラッと出掛けることがあっても、誰かと会うとかはなかったみたいだし。成人式で三浦たちや友達に久しぶりに会えて、楽しそうに過ごしていたんだけど。

……突然だったんだ。いつもの通院で検査だと思ってたのに、検査の結果そのまま入院に。後は君も知っての通りで……」


(ちがう、ちがう……)


「ごめんなさい……違うんです。私が……私が健くんを……私がいけないんです。勝手に正義感を押し付けて……彼を傷付けた……」


部活に来れなかったのも、恵の話が出来なかったのも全部あの日、拒絶した日が原因だった。


(私がちゃんと健くんを見ていなかったから……)


「いや……違う。大人の勝手な思想で、健や君の人生を狂わせてごめん。三浦にもさんざん言われたんだ……。あの時、健の病気の事を話していたら、君たちの未来は違っていたと思う。……本当にすまなかった」


(ちがう……逃げたのは私だ)


「……わ、私……お見舞いに行く前に、病気の事を聞いてたんです。私の一方的な……迷惑な正義感で健くんを……最後まで健くんに謝れなかった……私の、せいで……」


恵は、ただただ、あの状況から逃げたかった。そして、何事もなかったように記憶を封印した。黒歴史だったと一言でまとめ、自分は悪くない仕方なかっただけ……と正当化して。


「今日……君を誘いたかったのは母ではなく、俺なんだ。もう一度、君と会いたかった。兄としてではなく一人の男として。まだ、弟の事を思っていてもいい、ずっと忘れなくていい。俺から健の面影を見ててもいい。

今、君を離したら後悔する。弟が出会わせてくれた事に、君の存在に感謝してるんだ……もう、自分を責めなくていい。だから君の事をいろいろ知りたいし、俺の事も知ってほしい。もっと、これから2人でいろいろ話そう。言わないと伝わらないから……」


(……えっ……)


「もっと、たくさん話して、いろんな所へ遊びに行こう。

……だから、もう泣かないでくれ……君の事を大事にしたいんだ……」


「……私には……そんな事、言っていただく資格……無いんです」


お兄さんは頭を横に振り……


「君は、あの状況でよく頑張ったと思うよ。先生と部員との板挟みで辛かっただろう。俺が大内の立場だったら、卒業生としてもっと違う方法を思い付いたかもしれない。けど、あの時の君の判断は間違ってはいない」


彼のお兄さんは、スマホを握り締めたままうつむいている恵の頭を優しくポンと触れると、そのまま恵を胸の中に引き寄せた。


「弟に奇跡的な回復を……俺ら家族に、健との別れの時間をくれてありがとう」




それでも恵は、罪悪感でいっぱいだった。





ありがとうございました。

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