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恵はリューズの事を考えていた。
(もう、会えないのかな……)
最後に見たリューズの顔を思い出し、自身の手を見つめていた。
(想いの強さ……か……)
ガチャ
「ごめん、お待たせ。……はい。どうぞ喉乾いたでしょ? 自販機でごめんね」
自分の世界に入っていた恵は、彼のお兄さんが車に近づいていたのにも気が付かず……
「……えっ? 」
お互い目が点になったのは、恵の責任だった。
(気が付かなかった……恥ずかしい……しかもマジマジと見ちゃった……私のバカ!)
恵はあからさまに視線を外してしまった。
(ひゃ~私のバカ、マヌケ~)
「はい。どうぞ」
車に戻ってきたお兄さんの手には缶コーヒーが、恵に前に差し出された手には缶タイプの果実水を持っていた。
「ありがとうございます。頂きます」
(落ち着け私~。落ち着いて……)
恵は、彼のお兄さんから受け取った果実水を飲み、平常心を保つように自身に暗示をかける。
(ん~美味しいけど……ドキドキが止まらない!)
恵がまだパニック気味だが、彼のお兄さんも何口が飲むと鞄を取り出し何かを探していた。
そして運転席の肘掛けを上げ体を恵の方に向けると、恵の方の肘掛けも上にあげた。
(えっ? ナニ!? )
恵がビクッとしても、気にしない素振りをている彼のお兄さんの、その行動を不思議に見つめるなか、お兄さんはスマホを手にしていて、そのスマホを見つめ……
「本当は、これを君に見せるか悩んだんだ。見せない方が良いとも思った」
恵は手に握られたスマホの事だろうと思ったが、何の事なのか分からなかった。
「これは、健が使っていたスマホなんだ」
「えっ? ……健くんの? 」
彼のお兄さんが頷いた。
鞄から取り出したスマホは、彼が生前に使っていたモノだった。
お兄さんは、慣れた手付きでそのスマホを操作し、いくつかあるアプリの中から1つを起動させた。
恵は無言のまま、彼のスマホを差し出されるが、勝手に見ても良いのか戸惑い受け取れない。
「やっぱり、これを君に見てほしい……」
(えっ? )
恵は、驚いて顔を上げた。
目の前の彼のお兄さんの、その悲しそうな瞳を見てゆっくりコクりと頷いた。
(健くんのスマホ……)
彼のお兄さんは、ジッとスマホを見ているだけで、なかなかスマホを受け取らない恵を見て1つ深呼吸をした。そして恵の手に握っていた缶ジュースと引き換えにスマホを握らせた。
恵はお兄さんと向き合うように座り直し、手にした彼のスマホの画面を見る。と、いくつかの動画が残されているようだった。
「これが、最初みたいなんだ……」
お兄さんが恵の手元のスマホを覗き込みながら、画面を操作をし下の方にあった動画を押す。と……
再生された最初の動画には、病室で見た彼の姿が映し出されていた。起き上がってベッドに寄りかかりながら撮影したのがわかる。
【……えっ、えっと……昨日は来てくれてありがとう。すごく驚いた。
久しぶりに会えたのに、こんなカッコ悪い俺でごめん。
何も話せなくて……たくさん話さなくちゃダメなのに黙っていてごめん。
めぐに見せるには恥ずかしい格好だけど……こうやって会えて……がっ君に感謝しないとね。また会えたら嬉しいよ。】
動画には、髪の無い頭をポリポリ搔きながら高校時代と変わらぬ笑顔で彼が映し出されていた。
「えっ……健くん……」
内容からするとその動画は、恵たちが最初にお見舞いに行った後に撮影したものだと想像できた。
恵は驚いて、彼のお兄さんに視線を向けた。
お兄さんは、少し寂しそうに笑い次の動画を再生した。
【昨日も来てくれたのに話せなくてごめん。この帽子もありがとう。フワフワで暖かくて助かる。……大事に使うね。そうそう、ここの裏山の桜がキレイなんだ。もうすぐ見頃になると思うから、今度来たときは見てみてよね。……またね。】
動画に映る健くんは、嬉しそうに紫のニット帽を被っていた。そのニット帽は、恵がお見舞いの時に持っていったモノだった。
「……これって……」
「健が君に残していたみたいなんだ。ほら、お見舞いに来てくれた時は寝ていただろう? 体が辛くても、あいつなりに会いたかったんだと思う」
そのまま二人でスマホの画面を見入りながら話し、お兄さんは次の動画を再生する。
【母さんに振り回されてるみたいでごめん。楽しかったって喜んでた。兄さんにも父さんにも会ったみたいだね。なんだか恥ずかしいな……】
「俺や母親たちは、何とか話が出来るタイミングがあったんだけど……」
恵がお見舞いに行った時は、目を開けることは無かった。
【めぐ……君に会えて良かった。ありがと……元気で】
最後の動画は、画面のほとんどに病室が写っていて彼の姿はなかった。
「この動画……葬式の後に見つけたんだ。……また、思い出させてすまない」
恵は彼のスマホを握りしめながら、涙が止まらなかった。
ありがとうございました。




