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2人で遊歩道を歩いていると、突然彼のお兄さんが波打ち際の方に向かって歩きだした。
(……えっ? )
恵はどうして良いかわからず立ち止まり、お兄さんの視線の先にある目標物を探した。
一面砂の所々に、申し訳ないくらいの緑の植物が自生している。
その少し奥に、白っぽい大きな塊が見えた。
(……ん? 石? )
恵も彼のお兄さんの後に続き、浜辺の方に歩き出し少しずつ近づいて行くと、先ほどの石に見えたモノは、どうやら流れ着いた流木だった。
目の前で彼のお兄さんが躊躇なく座ると、笑顔でトントンと恵にも座るように流木を叩いていた。
(ん? 座ってって事? )
少し砂の感じが強くなった地面を歩き流木に近づく。その白っぽい流木の強度が多少不安だったが、恵が隣に座るとお兄さんは納得したかの様に視線を前に向けた。
(……良かった。合ってた)
彼のお兄さんの反応を見て安心した恵も、同じ方向に視線を移す。
波に揺られながらタイミングを待つ人、浮きを滴しながらコクコクとお昼寝をしている人、子供たちと貝殻を集めている人。
それぞれが思い思いに過ごしている、ゆったりとした時間が過ぎていた。
そこそこ歩いたが、まだそれほど暑くもなく相変わらず海風がいい仕事をしていた。
「こんな所まで連れ出してごめんね」
「い、いえ。予定も無いですし……海、久しぶりに来ました」
「病院の裏山の桜を見た時も、久しぶりと行っていたけど? 遊びにとか行かないの? 」
「……そうでしたね……行く機会が無かったといいますか……タイミングといいますか……」
彼のお兄さんに突然に話しかけられたが、恵の視線は前を向いたまま動かせなかった。相変わらず2人での会話は続かないが、波の音が心地よくイヤな時間では無かった。
しかも、車内での最後の会話の【続き】を言い出せない恵には、何も話が出来なかった。
「いいな……子供は無邪気で、楽しそうだ」
彼のお兄さんの視線は、先程まで砂で線を書いていた子達の方に向いていた。子供たちは、波打ち際に足を広げて並んで座っている。打ち寄せる波に足をバタバタしながら、顔に塩水がかかる事も気にせずに、声をあげて楽しんでいた。
「そうですね……」
相変わらず恵は会話を続けられなかった。
逆に誤魔化すように海からお兄さんとは反対側に視線をずらした。
彼のお兄さんを視界に入るのが、はばかれたからだった。
(……な、なんか申し訳ない)
視線を外した先には、海の家も公共の施設も無い、この海岸は穴場か遊泳禁止なのだろう。松林に砂浜、少し沖にはテトラポッドが並び、これ以上に人が増える感じがしなかった。
流木に座り、時間だけが流れていく。
「さっ。そろそろ戻ろうか」
「……はい」
気まずさは少しあったが、ゆったりとした時間を過ごし車に戻った。また彼のお兄さんの運転で動き出す。
浜辺から松林を通り、先ほどと来た道とは違う道を走るが直ぐに車が止まった。
そのスペースには、自動販売機が数台並んでいた。看板には海浜公園の第2駐車場とあって祝日なのにガラリとしていた。
お兄さんは『待ってて』と恵に言い残し、自販機に歩いていった。
恵が待っている間、車内から外を眺めていると少し離れた所にフワフワとした白い花が咲く木を見つけた。
何の木で名前とかは分からないが、その白い花たちを見てリューズを連想してしまった。
(……あっ。リューズ……)
過去から今に戻された恵は急遽、お墓参りに食事とバタバタしたおかげで忘れかけていた事を思い出した。そして最後にリューズが話してくれた事を思い出していた。
『……結果的に悔やんでも、自分が選び進んだ道が正解なんだよ』
(……分岐点……)
恵は、これから先訪れる分岐点をどうしたら乗り切れるのか、あの時リューズが『状況が変わったも大事な分岐点は繰り返し試練として起こる』と言っていた事を思い出していた。
(……試練か)
短い時間だったけど、リューズは『恵に良いこと教えてあげる』と色々な事を教えてくれた。
『人は自分のイメージした現実を引き寄せている』
武道館で2人の稽古を覗いていた時に『タイムラグが発生するが、結局は自分の思考が取捨選択して起こる現象だ』と言われた。
(……タイムラグ)
そして、時間とは不思議なもので、全ての人が平等に与えられているのに、その時々の人それぞれの感覚で感じかたが変わる。『恵たちの世界の時間と僕たちの時間は違っているから仕方ない。恵たちは光が基準でしょ? 僕たちには無いんだ』だからタイムラグは発生しない。『重力も軽いしね』とさすが時を任されてるだけある。
(……リューズって……相対性理論も知ってた……時間の概念って……)
恵はリューズとのやり取りを思い出しては、時の流れを感じていた。




