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間もなく着くという彼のお母さんの車を探しながら、他の車両が通りすぎるを無意識に目で追う。


何台目かのロータリーに進入してくる黒。そのワンボックスカーに目が行く。見慣れない黒の車は、一時的に停車していい場所に停まった。そして後部座席が開き、見慣れた彼のお母さんが降りてきて手を降っている。


(わっ。あの車? )


恵はロータリーを横切り車に近づいた。


「ご無沙汰してました」

「急にごめんなさいね。まず乗って♪」


東口から小走りに走り、彼のお母さんに挨拶をした。

黒の車は彼のお兄さんが運転していて、その後ろの席に彼のお父さんが乗車していた。彼のお母さんに促されるまま、助席に乗せられる。


「失礼します」


運転席の彼のお兄さんと目が合いニコッとされたが、ペコッと頭を下げることしかできなかった。

恵と彼のお母さんが乗り、行き先を告げずに車は走り出した。


「ごめんなさいね。急に呼び出したりして。予定は大丈夫だったの? 」

「はい。終わりましたので、問題ないです」

「先日は参列してくれてありがとう。剣道部の皆さんには供花もすまなかったね。たいして日も過ぎていないのに久しぶりに感じるね。元気してたかい? 急に呼び出したりして悪かったね」

「いえ、私は変わり無く過ごしてました……」


簡単な挨拶の後は、車内は賑やかだった……

数ヶ月前の彼の病室と変わらず、お母さんが話題をふってお父さんとお兄さんが補足しながら楽しい会話が続いていた。


「そうそう、今から行く所の話をしてないわね」

「あっ。はい……」


駅を出てからしばらく過ぎて、彼のお母さんが気が付いてくれた。

恵もまさかご家族総出で、迎えに来てくれるなんて思ってもいなかった。なので、このメンバーで何故呼ばれ、何処に連れていかれるのか聞き出せずにいた。


「健のお墓参りに行くのよ。今日はあの子の49日だから。恵ちゃんも一緒に行けて嬉しいわ」

「未練なく旅立つのに最高の日だ」


彼のお父さんが車の窓から空を眺めていた。


(49日……)



駅から恵を乗せた車は、15分くらい走りお寺の駐車場に着いた。


葬儀の時に百箇日法要まで済ませてあり、今日は本堂には寄らずお墓に直接向かうという。


車を止めてすぐ、彼のお父さんだけが先に塔婆を取りに向かわれた。お兄さんが車のトランクを開け、中からお供え用の花束をお母さんに手渡し……


「はい。恵ちゃん」

「あっ、はい」


恵は素直に花束を抱えると、彼のお母さんは嬉しそうに頷いた。次に取り出された籠を受け取り車から離れる。


20台くらい停められる駐車場から、石畳が続いて両側に生け垣が整えられていた。そのまま道沿いに歩き小さな門の前についた。


彼のお母さんとお兄さんが、門前で一礼をし中に入った。恵も後に続き習う。

山門と呼ばれる先は……境内は色とりどりの紫陽花や椿に似た白い花が見頃でキレイだった。そのまま歩きながらグルッと見渡す。


お寺の境内は周囲を木々に囲まれているらしいが、きちんと剪定されていて、この参道の木々も日陰の役割もはたし歩きやすい。そのまま石畳を歩いていくと、奥にこのお寺の本堂が見えてきた。


本堂の入り口前にはスノコが置いてあり、すぐ後は3段ばかりの階段。階段を登った奥のガラスの引き戸には、下半分が磨りガラスになっていて、上の透明なガラスには寺の紋なのか、宗派の紋なのかが金で画かれてあった。さすがに建物の中までは見えない。


3人で一礼をし、本堂の前を通過する時どこからか、風鈴の音が聴こえた。そのいくつか奏でる涼しげな音に癒される。


本堂の左脇から奥へ進むと、観音様や動物供養塔などのお地蔵様が並んでいた。その胸元には赤や白い前掛けがヒラヒラと風になびいていた。


そのまま間を進む。次に見えて来たのが一般的なお墓だった。

檀家さんの数をも表すたくさんの墓石が規則正しく並んでいた。

数基ずつ区画ごとにキレイに建てられている墓石を見て、和尚様の人柄が現れている様にも見えた。


前を歩いていた彼のお兄さんが、本堂の裏手にある水場で手桶に水を溜めている。その間に恵たちとは反対の方向から、彼のお父さんが真新しい塔婆を持って合流した。和田野家お墓までは、ここからもう少し奥に歩くらしい。


水場から正面の通路で待つ彼のお父さんを見て、恵は次に進む通路に見当がついた。隣に並んで歩くのには躊躇する道幅を、塔婆を持つ彼のお父さんを先頭に続く。お墓までは誰一人として話さず、お兄さんの持つ手桶のお水がチャプチャプと音がしている。


場所を知らない恵は、目新しいからといえキョロキョロとは出来ず少し離れて一番最後を歩く。

何度か振り返る彼のご家族の視線にも気が付かず、恵は少し前を歩くスニーカーに見いっていた。

前を歩く3人が奏でる石の音は耳に届いてはいない。


(健くんのお墓か……)


恵は、数分前に見た彼を思い出していた。

紺の上下の制服に紺のネクタイ……教科書は入らないであろう黒の肩に斜めにかけるバックを後に回し……坊主頭だった。


(……制服、ブカブカに見えたな)


当時の、武道館に来た彼の姿を恵は覚えていなかった。だから余計に先程会った彼の姿は衝撃だった。

あれだけ一緒にいたのにもかかわらず、変化に気が付かなかった自分に腹正しかった。


(正面からちゃんと見ていたら、誤解なんてせずに病気の事……気付けたのでは? )




「……ここよ」


考え事をしていた恵に、彼のお母さんの声が届いてハッとする。


(ダメ。今に集中しないと)


規則正しく並んでいる一角に、白い外柵に黒の墓石と法名碑。その昔ながらの縦長の正面に【和田野家】とあった。


視線を横にずらすと何行かの文字が彫られていて、少し離れた所の一行に、彼がいた。22才と刻まれた年齢は、もう増えることはない。

しかし恵は彼がここに眠っていると実感がわかなかった。


彼のお母さんに花束をお返しする。

恵は、何も出来ずただ立っていた。


新しい塔婆を立てキレイな花を両側にいけ、お線香の香りがしてきた。恵は、そのうちの数本を受け取りご家族の後に手を合わせる。


(痛みも苦しみも無い所へ……)


と願いをかけて。




ありがとうございました。

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